なにもしないことへの不安
例えばお仕事現役時代より手書き文字の機会は減っていて、キーボード入力ばかり、それでも未だ取引先よりの電話メモなどの機会はありました。1月にお仕事完全引退、2月転居時に筆記具類かなり大胆に処分、それでも現在余っていると自覚するほど”書く”機会は減っております。もう漢字も書けなくなっているかも。43年間まがりなりに働いて、もうこれ以上あくせく働きたくもない節約生活、値上げラッシュに難儀しつつ日々な〜んもしておりません。ご近所付き合いも淡い団地生活、お向さん夫婦はやや人生の先輩、熱心なグランドゴルフは市立体育館途上の公園が会場、通り掛かりに笑顔でご挨拶するていど。
規則正しい生活、毎朝一番に洗濯して「音楽日誌」執筆更新も生活のリズム、これから衰えるばかりの華麗なる加齢に抗(あらが)って市立体育館トレーニングルームには往復4km歩いて月18−20回ほど1,500円也/月。健康体力維持はすべての基本ですから。料理をいろいろ工夫したり、ネット(スマホ含む)も自分の担当として女房殿と生活家事分担しているのも自然な流れでした。なんせ隔日で婆さんのところに通ってますから。な〜んにもしないヒマな引退生活も悪くはない。身体を鍛えて膝関節改善のストレッチを試みて、ゆっくり音楽を拝聴して、YouTubeを眺めて、その後読書は進んでおりません。古代史をもういちど掘り下げようといった意欲も空回りばかり。気を付けているつもりでも体重増傾向は続いて、筋肉は付いても体型は未だハラの贅肉が気になります。酒は2週間に一度程度。
11月は鹿児島〜熊本の旅、かわいい盛りの上の孫(3歳)の七五三、下の孫(0歳)もしっかり抱っこしました。息子とゆっくり呑んで、近い将来のことをいろいろ話し合ったのも久々。佳き息子、ステキなお嫁さんに恵まれました。ずいぶんと贅沢できるのも健康と体力あってこその前提、これは人生の至福でしょう。11月後半に下の孫が熱を出してちょっと心配したけれど、小さい子にはありがちなこと。
60代女性(料理好き)のYouTubeを拝見してすっかり感心いたしました。パソコン教室に通ってお友達にYouTubeの存在を伺って「60代」で検索、興味を持って自分でも作ってみたい!講師に教えを乞うて動画編集を学んだそう。そして得意の料理動画アップしてデビュー、そんな経過をシンプルに落ち着いた画面に述べられておりました。自分の”時代遅れ”をしっかり自覚しました。1998年7月開設にサイトを開設して、当時はタグ打ちホームページが基本、個人のサイトとしては既に絶滅危惧種でしょう。やがてそれはブログ(WebLog)やFacebook、ツイッター、インスタグラムへ、どんどん流行は変遷して、現在は動画配信なのでしょう。YouTuberという存在もあながちバカにしたものではない、誠実に有用な情報もたくさんあります。
自分は20年以上前の絶滅危惧種から一歩も進歩してない。ノーミソが硬い、新しいことにトライヤルできない。カネはないけど時間はたっぷりある!でも人生のネタがない無為無策引退Lifeを反省しなくては。そんなこんな、誰にもご迷惑はかけていないつもりだけど、”なにもしないことへの不安”を抱えつつ、夢見もよろしくなく2022年は暮れていきそうです。当面の宿題は年賀状となります。
● 前月ヴェリ・ベスト。先月後半ちょっとスランプ気味でした。
■Faure ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調/第2番ホ短調/子守歌 ニ長調/ロマンス 変ロ長調/アンダンテ 変ロ長調/演奏会用小品(オーギュスタン・デユメイ(v)/ジャン=フィリップ・コラール(p))/シシリエンヌ ト長調/エレジー ハ短調(フレデリック・ロデオン(vc)/ジャン=フィリップ・コラール(p))(1976-78年)・・・ト長調ソナタは夢見るように優しい旋律と華やかなヴァイオリン、もう50年ほど前の録音だけど、しっとり美しい音楽を堪能いたしました。Augustin Dumay(1949ー仏蘭西)も未だ20歳代、気品ある美音を誇ってJean-Philippe Collard(1948ー仏蘭西)も同世代、デリケートなテイストの共演でした。Frederic Lodeon(1952年ー仏蘭西)はちょっぴり若い。いずれ仏蘭西を代表する正統派でしょう。42年後に作曲されたホ短調ソナタは甘美に切ない、そっと囁くような後ろ向きに落ち着いた旋律。その魅力は前作に負けぬ落ち着いた風情でした。デュメイの中音域は魅惑。暖かくも懐かしさ溢れる「子守歌」、晴れやかな「ロマンス」、儚く短い「小品」・・・いずれも絶品です。だれでも知っている「シシリエンヌ」はもの哀しくも切ない風情、「エレジー」も切なさ押し寄せて、ラストは激高して終了します。ロデオンのチェロは雄弁に非ず親密な風情でした。
■Bruckner 交響曲第6番イ長調〜クリストフ・エッシェンバッハ/hr交響楽団(2016年Rheingau Musik Festival-Live)・・・全60:10(かなり長い楽章間含む)残響豊かなライヴ。Bruckner作品中、比較的苦手として拝聴機会が少なかったもの。これは二管編成なのですね。Christoph Eschenbachも80歳超えたのか(1940ー独逸/写真は若くて髪がふさふさの頃)彼はこの作品を得意としてあちこち、数多くのライヴ音源が拾えます。じっくり腰を据えて遅めのテンポは感動的に巨大深淵、作品そのものを見直しました。第1楽章「Maestoso」冒頭の付点リズムは落ち着いて、堂々たる風情にホルンが圧巻の迫力、エッシェンバッハは作品に対する自信と落ち着き、余裕を感じさせるもの。第2楽章「Adagio.Sehr feierlich」(きわめて荘重に)ここはこんなに美しい旋律でしたっけ?デリケートなオーボエに弦が絡んで極限に呼吸深く、密やかに静謐。第7番第2楽章「Adagio」に匹敵しますよ。第3楽章「Scherzo.Nicht schnell − Trio.Langsam」ずんずんと力強い歩みのスケルツォ。深刻に厚みのある劇的な風情が続きます。中間部は渋いホルンの叫び(これが圧巻!)木管が第5番の主題に呼応します。第4楽章「Finale.Bewegt,doch nicht zu schnell(動きを持って。しかし速すぎないように)」は流麗に不安な開始、やがて金管が闊達に叫びだして圧巻のラッシュはカッコ良い。「トリスタン」の主題もあちこち顔を出して、慌てず弦は悠々と歌って美しい。
■Haydn 交響曲第83番ト短調「めんどり」/第86番ニ長調/Mozart ピアノ協奏曲第18番 変ロ長調K.456〜クリスチャン・ツァハリアス(p)/ニューヨーク・フィルハーモニック(2005年ライヴ)・・・ロリン・マゼール時代(2002ー2009年)のライヴ音源。Christian Zacharias(1950ー独逸)は指揮も手掛けていたのですね。やや大柄だけど、たっぷり厚みとコクのある瑞々しい響きはHaydn、Mozartの演目に違和感はありません。交響曲第83番ト短調はトランペットもティンパニもなし。第1楽章「Allegro spiritoso」は劇的な始まり、第2主題高音の同じ音の繰り返し(オーボエ?)が「めんどり」の由来とのこと。余裕のマイルド・サウンドですよ。第2楽章「Andante」はしっとり落ち着いた弦、優雅なオーボエ、ふくよかなフルートが広がりを感じさせる魅惑の緩徐楽章。第3楽章「Menuetto,Allegro-trio」は優雅に瑞々しく落ち着いた3/4拍子。 第4楽章「Finele,Vivace」も落ち着いた響きが快い、ユーモラスな躍動でした。(24:04)
第86番ニ長調にはトランペットもティンパニも入って華やか、大きな作品。優雅な序奏から始まる第1楽章「Adagio,Allegro spiritoso」はそっと走り出して、やがて快活なリズム感に充たされます。陰影の深い旋律、フルートとオーボエの美しさは絶品です。第2楽章「Capiccio,Largo」気紛れ(Capiccio)とは?優しく静かに、時に劇的に歌うところですよ。ここはトランペットとティンパニはお休み。フルート・ソロの深い音色には痺れますよ。第3楽章「Menuetto,Allegretto-trio」は大柄勇壮優雅なな舞曲、途中名残惜し気な暗転もあります。第4楽章「Finale,Allegro con spirito」は快速熱気に躍動して、一切の陰りもない力強い大団円となりました。(28:54)Mozartは馴染みの優雅にノンビリとした名曲中の名曲、Haydnと続けると、その違い、優美な旋律の魅力に驚くばかり。第1楽章「Allegro vivace」から陰影たっぷり魅惑の旋律に心奪われます。しっとり流れるようにピアノ登場、浮き立つような愉悦に溢れます。ここもフルート光ってますね。第2楽章「Andante un poco sostenuto」これは哀愁の旋律ですよ(「フィガロ」バルバリーナのカヴァティーナ)これの歌心、劇的ドラマな変奏曲がMozart魅力の真骨頂、しっとり名残惜しいピアノも最高。第3楽章「Allegro vivace」は快活軽快晴れやかに破顔一笑。ここにもちゃんと暗転が準備されて飽きさせない。(30:16いずれも楽章間拍手込み)
■Rachnaninov ピアノ協奏曲第2番ハ短調/第3番ニ短調〜アール・ワイルド(p)/ヤッシャ・ホーレンシュタイン/ロイヤル・フィル(1965年)・・・現在カタログにあるレーベルはChandosだけど、たしかChesky(Leader’s Digest)英DECCAのチームによるキングスウエイ・ホール録音だったはず。違ったらごめんなさい。期待通りのいかにも!風、素晴らしい臨場感に溢れる音質。Earl Wild(1915ー2010亜米利加)は日本ではさっぱり?な実力派ピアニスト、正確な技巧、19世紀ヴィルトゥオーソの伝統を引き継いだとのこと(Wikiによる)第2番ハ短調協奏曲はたっぷり激甘旋律を余裕にスケール大きく歌って、ゴージャスな作品風情にぴたり!似合って圧倒されました。濃密なんだけど、むしろ明るく爽やかな風情も感じさせて終楽章はちょっぴり速めのテンポに走り抜けたものです。この演奏は聴いているようで、じつは初耳だったかも。ホーレンシュタインのオーケストラも雰囲気たっぷりにパワフル、リヒテル以来この作品にたっぷり感銘をいただきました。9:18-10:24-10:38 全編途切れずに続く第3番ニ短調はともすれば技巧が先に立って、勢いのみに表層をなでる浅薄な演奏になりがち。ここもワイルドは基本は濃厚な浪漫風情、前曲と同じ路線に旋律の甘さをたっぷり歌います。もちろん技巧に不足なし、細部一切の弾き流しもなく、圧巻だけどアクロバティックに非ず。なんてわかりやすい表現なんでしょう、作品そのものの魅力再発見した思い、なんちゃって未だ「オッシア」かどうかわかっていない、情けないド・シロウト。15:04-8:43-11:39。
■Hans Kox (1930-2019阿蘭陀)ヴァイオリン協奏曲(ジャン・フルネ/オランダ放送フィル1976年)/Ton de Leeuw(1926 ー1996阿蘭陀)ヴァイオリン協奏曲第2番(ベルナルト・ハイティンク/コンセルトヘボウ管弦楽団1979年)/Lex van Delden(1919ー1988阿蘭陀)ヴァイオリン協奏曲 作品104(アントン・ケルシェス/アムステルダム・フィル1978年)〜テオ・オロフ(v)・・・Theo Olof(1924ー2012独逸→阿蘭陀)じゃなかったらまず聴かぬ近現代阿蘭陀の作品より。この人はハーグ・レジデンティ管弦楽団→コンセルトヘボウのコンマスを務めた人。見知らぬ名前ばかりだけど、難解晦渋なことはなくて端正にわかりやすい作品ばかり。どれも音質良好(ほとんど極上!)オロフのヴァイオリンはしっとり、細部まで明快に曖昧さのないもの。個別の作品に云々することはできないけれど、破壊的に野蛮な世界に非ず、知的な美しい作品が続きました。
■Brahms 交響曲第2番ニ長調/ハイドンの主題による変奏曲〜ヴォルフガング・サヴァリッシュ/ウィーン交響楽団(1959年)・・・Wolfgang Sawallisch(1923ー2013独逸)36歳、PHILIPS専属だった頃の録音。後年ロンドン・フィルとの全集(EMI)が知られていて、これは忘れられた存在?かも。既にパブリック・ドメインに至ってネットより自由に聴けます。これがジミな中低音豊かな録音もまずまず、そんな音質、オーケストラのマイルドな個性も作品に似合って、極上の完成度でした。二管編成だけどとても立派に響くのはいつものマジック、第1楽章「Allegro non troppo」はシンプルな主題が噛みしめるように雄弁に育って、広がる鬱蒼とした田園風景、弦も管もマイルドに控えめな音色が理想的。表現も雄弁さを強調しないまま、じょじょに熱を加えます。ラスト辺りのヤワい音色のホルンも雄弁でっせ。(14:48)第2楽章「Adagio non troppo - L'istesso tempo,ma grazioso」は、冒頭チェロとフルートの掛け合いが床しくも優雅に落ち着いた緩徐楽章。天翔けるホルンと木管も幻想的、やがて全員が力強く爆発してたっぷりアツい。ここもホルンの掛け合いが魅惑の響き。(9:39)第3楽章「Allegretto grazioso (Quasi andantino) - Presto ma non assai - Tempo I」の始まりは弦のピチカートと木管による晴れやか、牧歌的な主題はなんともシンプルに味わい深く、愁いを含んでおります。やがて闊達に倍のテンポに変化するけれど旋律は同じと云うワザの凄さ。ここはスケルツォだったことを思い出しました。弦のざらりとした味わい、フルートの歌も極上。(5:13)第4楽章「Allegro con spirito」第1楽章の冒頭の素材旋律は静かに、やがて喜び爆発して素晴らしい大団円へ。弦の悠々とした歌、闊達な躍動との対比も晴れやかに破顔一笑なフィナーレを迎えました。傑作。(9:28) 個人的にちょっぴり食傷気味な「ハイ・バリ」もシミジミと味わい深く肌理細かく、そして若々しい力感とスケールに溢れた演奏でした。「聖アントニー」シンプルな主題を巨大なる構築物に仕上げるBrahmsの手腕に感銘いたしました。(17:01)
■Walton 映画音楽「ヘンリー五世」(Christopher Palmer編)〜レナード・スラットキン/BBC交響楽団/BBCシンガーズ/トリニティ少年合唱団/サミュエル・ウェスト(ナレーター)(1988年)・・・William Walton(1902ー1983英国)の音楽にはほとんど馴染んでいなくて、これは偶然ネットから音源を発見、お目当てのもののついでに一緒にダウンロードしたもの。これが聴いてみたらなんとも勇壮に華やかに、わかりやすくもカッコ良い旋律ばかり、すっかり彼の音楽に魅了されて、あわてて手持ち音源を確認している最中です。筋書きはこちら参照お願い。情景が眼前に浮かびますよ。Prologue (プロローグ)(8:59)Interlude:At the Boar's Head (幕間:「イノシシの頭」亭)(5:59)Embarkation(乗船)(3:24)Interlude:Touch her soft rips and part(幕間:やさしき唇に触れて別れなん)(2:16)Harfleur(アルフルールまたはハーフルール)(3:48)The Night Watch(夜間警備)(5:22)Upon the King(王に)(3:44)Agincort (アジャンクールまたはエジンコート)(14:43)Interlude:At the French Court(幕間:フランスの宮廷で)(5:11)Epilogue(エピローグ)(7:14)
Embarkation(乗船)はプロムスの定番、行進曲「宝玉と勺杖」(Orb and Sceptre)にも似て、颯爽として希望に充ちてリズミカル。Samuel West(1966ー英国)は著名な俳優らしい。格調高いナレーションは英語、日本語以外は理解ほぼ不如意だけれど、歴代英国首相の美しい活舌・発音にはいつも惚れ惚れしておりました。
(2022年12月1日)
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