多く所有することに価値はない
大方の予測を外して猛暑となりました。熱中症にて亡くなるご老人が出るほど。少々夏バテ気味、年々体力が落ちていく実感があります。故郷・北海道に異動して戻っていった師匠筋の方が、引退まで数年残して鬱病にて入院されたのは少々ショックでした。引退まで、楽しくゆるゆる、残りのサラリーマン生活を送れるでしょうか、なんとか。辛くも。まず健康だな、心身の。ちょっとダイエットしなくっちゃ。世間では相変わらず陰惨な事件ばかり、特に児童(幼児)虐待こそもっとも憎むべき悪行と思います。
残された人生で聴ききれないほどのCDを抱え(あちこちの立派なマニアに比べたら可愛いものだけれど)処分し続け丸4年、先月でいったんオークション処分を中止しました。ま、売れなくなったんでね。その理由は、CDという媒体が時代遅れになりつつあることと、CDそのものが新品で激安に至っていること〜結果(やや)金満中年は先月のみで40枚ほど注文、20枚到着いたしました。まだ半分ほどしか聴けていない。本日、残りも届きます。2010年はずいぶんと海外から輸入しちゃったな。ちょっと揺り戻し”オトナ買い連続”。それにパブリック・ドメイン音源が無料でネットから入手できるようになって、その自主CD化もどんどこ進めております。
ワタシの世代はこどもの頃、学生の頃の貧しい記憶から抜けられなくて、ビンボー症なんです。こうして自由自在にCDを買える身分になったのが、嬉しくて仕方がない。もっと上の世代、親の世代に至ると”捨てられない”、”なんでも溜め込む”性癖著しいですよね。例えば百貨店の包装紙、ひも、スーパーのビニール袋、輪ゴム、全国世界あちこち旅行の度に集めた(情けない)民芸品、絶対に使わないだろう引き出物・・・主を失った家ごと、遺品を整理する業者も登場しているようです。(ワタシだったらCDのプラケースか?交換用の)
ものを大切に扱うこと、要らぬものを整理していくこと、そのバランスは難しい。ワタシはパソコン(関係)を入手して15年選手だけれど、できるだけ部品を流用することと、寿命性能を見切って捨てることを繰り返して参りました。昨年、5年愛用して修理、増設を繰り返したマシンがアウトになってからは、ほとんど捨てる一方に。もう使うことはないな、といった見切りです。音楽関係はどうしましょうか?1994年にLP(3,000枚ほど?)、21世紀に入ってカセットもすべて処分、ほぼ同時にDATもHARD・OFFへ。先日、MD音源もすべて廃棄いたしました。旧態とした価値観から抜け出せないので、CDという円盤状物質はあきらめが付かないどころか、まだ注文を繰り返している・・・
入手した音源すべてが嗜好に合う訳でもないでしょ。心身ともの調子に印象も左右されます。先月、我が激安オーディオもちょっとした環境の変化で、音の印象が変わってしまって、その調整に苦労しました。千度同じことを書くが、大切なのは音楽と真摯に向き合う姿勢であります。多く所有することに意味はない。もうネット上でも”ワタシの所有リストです”みたいな恥ずかしい自慢は消え去ったでしょう。(【♪ KechiKechi Classics ♪】 の古いログには残っていないこともないが)どれだけ、幅広く、しっかりと音楽を愉しむか。CDは安価に至ったので”究極の一枚”など選ぶ必要はなくなりました。無人島には100枚でも500枚でも、なんだったらデータにしてごっそり全部持っていってもよろしい(但し、もとより無人島には電源がないだろうが)。
世界的に大不況だから、20世紀みたいに若手が次々と新録音を出す、みたいなことはなくなりました。評価の定まったヴェテランでもそう。クラシック音楽は保ちがよろしいから、往年の名録音がいつまでも幅を利かせております。ワタシはご近所マチネでアマオケしか実演は聴かないし、ほんまはそんなことではいかんのだろうね。地元オーケストラを応援する、といった風潮はそなりに盛況なのかも。できるだけ(生活も肉体も)ムダを削ぎ落とし、精神に鮮度を維持して音楽を聴き続けたい〜猛暑の中で集中力も体力も失いつつ、そんな反省の日々であります。
● しつこく”先月ヴェリ・ベスト”
●Berg ヴァイオリン協奏曲〜ヨゼフ・シゲティ(v)/ミトロプーロス/NBC交響楽団(1945年ライヴ?)・・・これは思わぬ拾いもの。音質かなり良好だし、やや広がりも付加されて聴きやすい。演奏は例の如し、柔軟性に欠ける硬質なボウイング、ヴィヴラートに魂宿る!的、壮絶なる集中力に溢れるもの。なんと美しい世界なんだ。
●Wagner 楽劇「ヴァルキューレ」〜エーリヒ・ラインスドルフ/メトロポリタン歌劇場/アストリッド・ヴァルナイ(s)/メルヒオール(t)/ショル(bbr)/トローベル(s)(1941年12月6日ライヴ)・・・伝説のヴァルナイ・デビュー(リハーサルもなく、ロッテ・レーマンの急遽代役とか?)がパブリック・ドメインにてネットで拾えます。音質は時代相応のものだけれど、熱気が素晴らしい。ラインスドルフは1950年代にMozart の交響曲全集を録音しているでしょ?あの素っ気ないストレート系快速表現が、ライヴにて方向そのまま、叩き付けるような迫力、推進力となってアツく燃えております。歌い手のやる気、鬼神の如き集中力ヴィヴィッドな生命力!ヴァルナイがジークリンデねぇ、なんでも若い頃は演れるということですよ。著名なる「ヴァルキューレの騎行」も尋常一様なる演奏に非ず、いったいどうなっちまたんだ?的興奮に溢れます。こんな音源が無料とはねぇ(復刻状態云々言わなきゃ)・・・そりゃ、商売はむずかしくなるでしょ。
●Vaughan Williams 音楽へのセレナード(1969年合唱+ロンドン・フィル)/イギリス民謡組曲(1970年ロンドン交響楽団)/ノーフォーク狂詩曲第1番(1968年ニュー・フィルハーモニア管弦楽団)/グリーンスリーヴスによる幻想曲(1970年ロンドン交響楽団)/湖沼地方にて(1968年ニュー・フィルハーモニア管弦楽団)/舞い上がるひばり(1967年ニュー・フィルハーモニア管弦楽団/ヒュー・ビーン(v))〜エイドリアン・ボウルト・・・最高。なんという安寧と落ち着き、万感胸に迫る旋律の妙。爆発ではなく囁き。雄弁ではない語り。人生を慈しみ、生真面目なるユーモアもあります。胸がきゅっとする静謐清涼なる床しい感動が待っておりました。
●Mozart セレナード第10番 変ロ長調 K.361(370a) 「グラン・パルティータ」〜リノス・アンサンブル・・・名手クラウス・ベッカー(ob)率いる団体のアンサンブルは極上です。お気に入り作品故、ずいぶんとあちこち聴いてきた作品だけれど、リズムの緊張感、ノリ、躍動、そして技量的に図抜けているんじゃないか。もちろん音質的にも。コントラバスがこれほど明快に存在を主張しているのも、あまり他に記憶はありません。先日、パイヤール室内管弦楽団(1980年)の柔らかい響きに感心したものだけれど、こちら独墺系の硬派な響きを誇って凄い説得力。
●Shostakovich 交響曲第10番ホ短調〜フランク・シップウエイ/ロイヤル・フィル(1995年)・・・この作品はなんどか聴いたはずだけれど、印象に残っておりません・・・って全集入手して何十年経ってるの?(LP以来)カラヤンが好んで複数回の録音をしたのは何故でしょうか。重苦しく長大(23分)なる第1楽章「モデラート」は、意外にもクリア、すっきりとした響きでどんよりとした世界から救われております。これだったらShostakovichを聴くのも苦渋に非ず。第2楽章「スケルツォ」は、(スターリンの暴政を表現したらしい)激しい切迫感溢れる快速楽章、オーケストラが鳴り切って金管の迫力が快感であります。
第3楽章「アレグレット」もいかにも彼らしい途方に暮れた雰囲気で始まり、旋律リズムは馴染みの乾いて無機的であり、不気味なもの。途中のホルン・ソロは「大地の歌」よりの霊感だそうです。(ほんまかいな)終楽章「アンダンテ-アレグロ」は、例の如しの暗鬱なる開始だけれど、木管の響きは清涼そのもの。アレグロに入ると、やや明るい(のかどうか怪しい)風情に変化して、木管や弦のリズム、アンサンブルも見事な統率ぶり、推進力も颯爽と素晴らしい。スーパーオーディオ(とかなんとか)仕様でCDにて出ているらしく、このボックス収録の一枚でも相当明快な音質と迫力。ユーザーレビューも絶賛です。
●Mahler 交響曲第2番ニ短調「復活」〜ミヒャエル・ギーレン/バーデン・バーデン南西ドイツ放送交響楽団/オイロパ・コール・アカデミー/バンセ(s)/カリッシュ(a)(1996年)・・・最高。ギーレンはムダを削ぎ落としてとことん低体脂肪/低体温的音楽を演る人だと思っていたけれど、ここで聴く限り壮麗なるスケールで迫力満載。旋律表現に前時代的誇張は存在しない(やや素っ気ない)のは事実ながら、響きの豊満に不満を感じません。細部、いままで気付かなかったような配慮でエグりだし、あぶり出して作品の真価を余すところなく伝えて下さいました。録音極上。
オイロパ・コール・アカデミーの壮麗なる響きに痺れ、少なくとも合唱に於いてこれ以上の水準を聴いたことはない。瑞々しく、厚みがあって整然、二人のソロも文句ない充実ぶり。おそらくは数々聴いた「復活」中のヴェリ・ベスト也。
(2010年8月1日)
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