Mahler 交響曲第5番 嬰ハ短調
(エミール・タバコフ/ソフィア・フィルハーモニー)


CAPRICCIO  49 052

Mahler

交響曲第5番 嬰ハ短調

エミール・タバコフ/ソフィア・フィルハーモニー

CAPRICCIO  49 052 1988年10月 15枚組2,890円

 信じられない激安価格(かつてのCD一枚分!)全集を購入したのが昨年2005年。(CD購入の恥ずかしい経過は前述)既に当サイトにてさっくりとした(エエ加減なる)コメントもしておりました。

冒頭から出ずっぱりのトランペットからなかなか優秀で、緊張感もあります。細部、アンサンブルのズレ、というより、リズムのキレとノリに弱さが散見されますね。個々の楽器のソロにも少々魅力に足りない。(時にピッチも・・・少々)しかし、なかなか熱演!誠実。

有名な「アダージエット」・・・これも同様の音質、奥床しい清潔さに充ちて爽やかでした。そのまま最終楽章に進んだけれど、アンサンブルは時に乱れ、テンションが続かないところは散見されるものの、素朴で前向きな表現に胸打たれれます。(一般には”ヘロ演奏”と評価されるだろうが)

 ワタシはMahler 好きなので、激安全集乱立!状態をありがたく受け止めております。LP時代、そしてもちろんCD初期には「Mahler 全集」って、とても高価で贅沢だったものです。(だからショルティの”駅売海賊盤”を@1,000で集めたりしていた)でも、もっと大切に、ていねいに音楽は聴いてあげないと・・・ということで、タバコフ盤を久々に拝聴。

 これは”音楽を楽しむって、どういうことだろう?”という原点とか、自らの基本姿勢を問われる演奏だと思います。Mahler に何を望みましょうか。ワタシはかつて「異様な切迫感とか、狂気スレスレの毒」をMahler に求めていたが、既にそんな妄想に執着はありません。ショルティ/シカゴ交響楽団(1970年)の演奏は未だに好きになれないが、オーケストラの力量、圧倒的なアンサンブルの集中、迫力に敬意を表してもよろしいでしょう。(シカゴ響なら1980年のアバド盤が、いっそうインパクトが大きい〜まるでスピーカーから疾風が吹き出すような!)

 ”冒頭から出ずっぱりのトランペットからなかなか優秀”と、昨年のワタシはそう書いているが、ま、努力賞というところでしょう。自然なホール・トーンを感じさせる録音は、鮮明だと思います。低音も充分。強靱なる集中力アンサンブル、とは言いかねるが、誠実清廉清潔、まるきり非力な(情けない)サウンドという水準でもありませんね。第1楽章「葬送行進曲」は、タバコフがテンポを適度に揺らせて、颯爽とオーケストラを叱咤激励しております。

 第2楽章「嵐のように」も勢いのあるテンポ感、第2主題の対比も上々の表現。但し、弱音で”勢いが弱くなる”感じがあって、深みとか陰影とか、そんなものに(ほんの少々)不足するかな?と・・・これはオーケストラの特質だと思います。金管も弦も(相変わらず)”努力賞”ものだけれど、艶やかな名人芸は期待できないか。

 第3楽章「スケルツォ」は、ユーモラスですよね。溌剌としたリズムは楽しげであります。アンサンブルの細部整合性を求める方には厳しい評価となるでしょう。中間部の優雅なるレントラーとの対比、語り口も上手いものです。もっとも有名なる第4楽章「アダージエット」には、残念ながら”噎せ返るような官能性”は期待できません。でも、清涼静謐、抑制の利いた表現はけっして不快でもないし、違和感もありません。但し、先ほど同様「弱音で”勢いが弱くなる”感じ」ないでもないけれど。

 第5楽章「フィナーレ」・・・晴れやかな表情に好感を抱いたけれど、速い、細かいフレーズでのアンサンブルに難有。流れの良さも少々停滞気味か・・・でも、オーケストラの力演に拍手を送りたい程、時に(とくにラストには)インパクトある大爆発がありました。

 タバコフの表現は泥臭い田舎風ではなく、洗練されて素直だし、オーケストラの統率力も立派だと思います。あくまで嗜好問題だけれど、世評高いショルティ盤(1970年/体育会系演奏か)より、味わいがあってワタシは充分に楽しめました。時に情けないサウンド(終楽章のホルンなど)もあるけれど、細部のあら探しではなく、作品そのものの愉しさを充分表出した演奏だと思います。

 知名度だけで先入観を以て音楽を聴かない・・・これは大切な鉄則なんです。

(2006年7月29日)


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written by wabisuke hayashi