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再度、録音水準のこと


 昨年「『録音水準』、またはオーディオということ」という、いつもながらあまり内容のない文書をしたためました。(何をしても勝手なのが自分のサイトのありがたいところ)少数ながら共感のメールもいただきました。「どう考えたってEMIの録音はおかしい」と。ワタシはあまり音質方面には神経質ではありませんが。

 オーディオに金を掛けるつもりはない(まぁ、それなりに聴けるものであれば・・・と)し、アンプやスピーカーのメーカーは知っていても、型番は知らないし、それが何を意味するかもワカらん。朝食をとりながらCD/MDセット(むかしでいうカジカセね)で音楽を聴くことも多いし、それで感動することだってけっして少なくはない。

 しかしながら、今回のお話は「音質で音楽の印象が変わる」という経験です。偶然だけれど、Brahms の交響曲ばかり。よくフルトヴェングラー辺りのCDで「云々は***レーベルからの復刻が優れている」とか、スタジオ録音でも「リマスターされて見違えるよう」という話題があって、それを次々と(大きな出費も厭わず)購入されるマニアもいらっしゃると伺います。ワタシは、そんなんとは縁はないんです。こだわりもない。


「Brahms 交響曲全集(カイルベルト)」

 1970年前後かな、「キング世界の名曲1000シリーズ」という廉価盤LPがあって、テルデック(当時テレフンケンか)音源が、ぎっちり詰め込まれて(当時としては格安の1000円で)売られていたものと同じ音源(のはず)。1997年の国内盤CDとしてシリーズ復活してくれたんですね。LP時代のレパートリー復元は基本的目標なので、嬉しがって次々買いました。

 このBrahms 2枚のほかにBruckner2枚(6・9番〜これはそれなりに記憶通りでジ〜ンときた)、Mozart の交響曲1枚も買ったが、LP時代の感動よどこへ?状態で、Beethoven の購入は止めました。これはなんや?昔のワタシは、やはり耳音痴でアホやったんか?という疑念がムクムクと・・・・・。

 ところがメールが来まして「先日LPを聴く機会がありましたが、CDと全然違ってすんごい迫力だっせ!」とのこと。そうか・・・、超詰め込みLP(2枚に交響曲全曲収録)のほうが音が良かったのか、と遣る瀬ない気持ちになりました。何度も同じ話題で恐縮だけれど、オーディオ評論家の点数とワタシが考える「録音水準」とは意味が違うんですけどね。

 残響も奥行きも足りない、定位もおかしい、高音の伸びも、中低音の豊かさも不足して、挙げ句にノイズも盛大〜でも、聴きやすい音というのはたくさんあるんです。(好例・歴史的録音)もちろん、その逆もあります。

 カイルベルトは第1番のみモノラル録音で、天下のベルリン・フィル。怪しいワタシの耳でも、これは音が痩せすぎていて脂がのっていない干物のような音。第3番はバンベルク響だけれど、弦(高音)に品がなく、低音に深みを感じない。第2番もベルリン・フィルだけれど、音の劣化が甚だしくてツヤとかハリがない。(でもこのなかでは一番マシ)第4番はハンブルク・フィルだけれど、音に芯が感じられない。(棚から探せないがバンベルク響とのMozart もガチャガチャの音だった記憶がある)

 「マスターテープ経年変化のため、一部お聴き苦しいところがあります」・・・・これだな。日本にあるマスターテープの保存が悪いのかな。それをヘタに修正するすから、臨場感とか本来大切な要素まで「カット」しちゃう。ノイズは減るかもしれんがカスカスの音になっちゃう。これならLPからの板起こしの方が良いんじゃないか?

 で、先日、MADE IN GERMANYのULTIMAシリーズ、カイルベルトのBeethoven +Reger6枚組(2,480円)を買ったんですよ。これ上記と同時期の録音で、やはりかつてLPで楽しんだ音源です。驚くことに、音の生気がまったく違う。厳密に言えば、LPの方がもっと柔らかい記憶(あてにならんが)がありつつ、もともとそんなに良い録音じゃありません。それでも、上記Brahms とは雲泥の違い。

 ま、それでも今回件のBrahms を久々聴いたけれど、文句をたれつつ少々感動してしまいました。脳味噌の奥深くにある記憶と結びついて、カイルベルトの硬派なスタイルに少々共感してしまいました。でも、ちゃんとした音質でもう一度聴いてみたい。(買い直すつもりはないが)


 この文書掲載直後、「このCDもLPも両方持っているけど、たいして変わらないよ」との情報。と、いうことは聴き手のワタシの感性の劣化が、音質劣化より問題らしい。でも、Beethoven とはやっぱり音の感じが違う。もしかして、「LPでは音が違う」というのは超詰め込み「キング世界の名曲1000シリーズ」ではなくて、もっと別のがあるのかも知れません。

 いずれにせよ、ワタシはそんなのは聴いたことはないので、(書いた後で言い訳めくが)上記文書はかなり説得力がない、といった結論でしょう。(2002年4月10日)


Brahms 交響曲第1番ハ短調(コンヴィチュニー)

 つい先日再聴して、いっそう語気を強めて批判し、ファンからの顰蹙を買った(と想像される)一枚。これも「キング世界の名曲1000シリーズ」でした。(ナント、ヴァイオリン協奏曲とのカップリング!素晴らしき超詰め込み。詳細は安田さんのサイトを)LPではけっこう楽しんだんですよ。ところが・・・・・・????

 ま、コンヴィチュニーはワタシにとって是々非々だし、これは「ハズれ」かな?と思った次第ですが、それにしてもLP時代との記憶と違いすぎる。このCDは意外と手に入りにくい外盤ですから「日本でのヘロ・リマスター」というわけでもないでしょうが、海外にもバカはいるみたいで、やはり大切な音の構成要素のいくつかを捨ててしまったようで、じつに下品に仕上がっております。

 これも、当の安田さん(厳密なる日本プレス廉価盤激安中古LP蒐集原理主義者〜狙われたら危ないかも)の情報によると、「LPはちゃんとしてまっせ」とのこと。おいおいCDってなんなんだよ。(これ、小川直也風に)ま、単なるフォーマットのひとつでしょ。「CDは音質が優れている」ということでは全然なくて、やはり音源に対する正しい思想問題がポイントなんでしょうか。


 その他の歴史的録音のおはなしです。2002年、ようやくVOX録音のクレンペラーがまとめてCD化されました。(VOXBOX CD6X 3605)1946〜51年のパリ、ウィーンでの録音だけれど、この音質がじつによろしくない。ノイズが多いのは許すとしても(ブランデンブルク協奏曲はLPからの板起こしか?そうだとしても)音の芯、みたいなものがキッチリ示されていないような、わかりにくい音質。

 なにもワタシは、目の覚めるような鮮明な音を求めているわけじゃないんです。1920年代くらいの録音でも、音楽の骨格というか、雰囲気がよくわかって聴きやすい音というのは存在します。例えば「偉大なる指揮者たち(1924−1949)」 が好例でしょうか。オーディオには縁が薄いというか、興味がないので、専門家が評価する「録音点数」にはほとんど関係しませんが。


 ここ最近の、メジャーレーベル録音はどうなってますか?ワタシがたまたま買う最新録音は、BRILLIANTのカンタータとか、どうも一般的に知られているような団体じゃないですし、いかがなもんでしょう。勝手な推測だけれど、ハードは深化してもハートのある録音(演奏もそうかな?)は滅多にないんじゃないの?とか。

  ワタシが文句を付けている録音水準も、超高級コンポで聴けば印象が一変するのかも。小学生の時には、真空管ラジオ(当然スピーカーひとつ)にレコード・プレーヤーを接続して17cmLPを聴いていたもんです。それでも、音楽の感動は比類のないもので、所詮録音水準など音楽の本質からは遠いもの・・・・・ではあるが。

 劣化し、老化し、堕落し、肥満し、摩滅し、疲労した現在のワタシの精神では「真空管ラジオ(当然スピーカーひとつ)」で、音楽の真実を聴き取ることは不可能なのでしょう。こんなことくらいに文句言ってどうする。(2002年4月4日)


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written by wabisuke hayashi