偉大なる指揮者たち(1924−1949)


Glinka 歌劇「ルスランとリュドミュラ」序曲
クナッパーツブッシュ/オデオン大交響楽団(1933年)

Berlioz 幻想交響曲より第2楽章「舞踏会」
ムラヴィンスキー/ソヴィエット国立交響楽団(1949年)

Mozart 歌劇「魔笛」序曲
セル/大交響楽団(1924年)

Mozart (HERBECK編)「トルコ行進曲」
アルヴィン/ウィーン・フィルハーモニー(1929年)

Sibelius 交響詩「フィンランディア」
アーベントロート/ベルリン国立歌劇場管弦楽団(1936年)

J.Strauss 喜歌劇「こうもり」序曲
ワルター/ベルリン国立歌劇場管弦楽団(1929年)

Dvora'k 「ユモレスク」(編曲者不明)
スメターチェク/FOK交響楽団(1941年)

Mendelssohn 「フィンガルの洞窟」
フルトヴェングラー/ベルリン・フィルハーモニー(1930年)

Beethoven 「コリオラン序曲」
シューリヒト/ベルリン市立管弦楽団(1942年)

Mahler 交響曲第5番より「アダージエット」
メンゲルベルク/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団(1926年)

クラシックプレス2001年秋号特別付録(音楽出版社)  CPCD-2001

 その筋の人には有名な音源なのかもしれないが、ワタシにとっては演奏も音質も驚きの一枚でした。いたずらに旧き録音を良し、とするわけでもないが、とにかく主張が明快でわかりやすい。それに、音楽の造形がしっかり理解できる音質についていろいろと考えさせられる。もちろん状態の良い音源を厳選したのでしょうが、セルの録音はなんと「ラッパ吹き込み」なんです。すべてSP復刻(原盤明記)。

 商品化するには、あまりに状態の悪い、聴くに耐えない「単なる資料的価値」水準の音源はともかく、現在流通している有名な録音でも、もっと改善の余地があるはず、との確信を持ちました。ノイズをカットするときに、大切な本来その音源が持っている「味わい」「雰囲気」「精気」まで犠牲にしているのかも知れません。これは「思想」「哲学」の問題なんです。ある意味、最新のデジタル録音も本質は変わりません。

 クナの「ルスラン」は、有名(らしい)な「激遅」演奏。オデオンって、レーベル名(それとも劇場の名前?)で録音用の臨時編成か、既存オーケストラの変名かも知れません。フレージングが明快で、ともすれば流しがちになるこの曲をていねいに、一音一音確認するようにすすめて味わいが濃く、重い。妙な躍動感があって、これはこれで老人の音楽ではないんです。(途中カット有〜オリジナルだそう)

 ムラヴィンスキーの「幻想」というのも珍しくて、全曲録音は存在しないそうです。ソヴィエット国立響との組み合わせも珍しい。これはまったく現代的で、すっきり・颯爽としていて、オーケストラの状態も良好。なんとなく無味乾燥な演奏になりそうに想像されるが、瑞々しく、そして若々しい。

 セルの「魔笛」。ラッパ吹き込みというと「蚊の鳴くような音質」を連想するが、そんな水準じゃなくて、音楽の骨格みたいなものはちゃんと理解できます。後のセルそのもの、というか、トスカーニーニ方面の演奏を想像いただくと近いかも。もの凄い緊張感、ムダを一切そぎ落としたような推進力。

 アルヴィンとは初耳だけれど、ドイツのピアニスト・指揮者とのこと。有名な「トルコ行進曲」だけれど、音楽が鳴り出すと、即「嗚呼、これウィーン・フィル」と理解できます。輝かしくも優雅な弦の響き。

 アーベントロートの「フィンランディア」は、驚くほどオーケストラが充実(鯛焼きの尻尾にまでアンコが充満・風)しています。が、重量感があって、冷静で、モノクロで、いかにも「ドイツ的」といった(先入観そのままの)響きの違和感がもの凄い。完成度は高いが、これではSibelius ではなくて、BB辺りの世界になってしまう。

 この辺りのワルターはほとんど期待を裏切らない。優雅で、粋で、アーベントロートと同じオーケストラとは思えない。甘やかなポルタメントも上品で素敵です。

 スメターチェクがSPで、多くの録音をしていたとは知りませんでした。FOK響とはプラハ響の前身とのこと。ハープがあしらわれた可愛らしい編曲で、もしかしてこの組み合わせは、気軽に家庭で楽しむような音楽をたくさん録音していたのかも知れません。

 フルトヴェングラーの「フィンガル」は、有名な録音でしょう。激しいテンポの揺れや高揚感が圧倒的で、ま、上記ほとんどの録音がそうだけれど、現代ではありえないエキセントリック、かつエキサイティングな演奏ぶり。

 ベルリン市立管って、どんなオーケストラですか?シューリヒトは同世代の巨匠に比べると、表現がずいぶんさっぱりとしていて、重くならないのがおもしろい。つまり、この個性は晩年とそう変わらない。

 メンゲルベルクは凄いですよ。この指揮者、しかも官能に満ちたこの名曲、という期待をまったく裏切らない濃厚かつセクシーな演奏。SPの収録問題もあったのかも知れないが、速いテンポで熱に浮かされたような、ポルタメントの嵐。(上記、ワルターとは意味合いがまったく異なる)オーケストラがほんとうに美しくて、幻想的な濃霧に包まれたような、麻薬のような、魔術のような演奏なんです。(2001年10月19日)

  


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written by wabisuke hayashi