The Art Of Ivry Gitlis

イヴリー・ギトリスの芸術

VOXBOX  CDX2 5505 Tchaikovsky

ヴァイオリン協奏曲ニ長調 作品35(ハインリヒ・ホルライザー)

Bruch

ヴァイオリン協奏曲ト短調 作品26

Sibelius

ヴァイオリン協奏曲ニ短調 作品47(以上ヤッシャ・ホーレンシュタイン)

Mendelssohn

ヴァイオリン協奏曲ホ短調 作品64(ハンス・スワロフスキー)

Bartok

ヴァイオリン協奏曲第2番(ヤッシャ・ホーレンシュタイン)

以上 ウィーン交響楽団

無伴奏ヴァイオリン・ソナタ(1944年)

以上  イヴリー・ギトリス(v)

VOXBOX CDX2 5505 1954〜57年録音

 2026年1月に再聴した分を以下、加筆しておきましょう。

 Ivry Gitlis(1922ー2020以色列)は前回拝聴時未だご存命でした。この間第2回HDDお釈迦事件にヴァイオリン関係の音源をほとんど失って、幸いこの音源はすぐに再入手出来。(前回拝聴当時未入手だったBerg/Hindemith/Stravinskyも追加出来)演奏個性のイメージはほとんど変わらないけれど、モノラルでも解像度高いリアルな音質に驚きました。たっぷり濃厚な名曲旋律3曲揃えて、ギトリスの鮮やかな技巧とクサい節回しを堪能できました。オーケストラの伴奏も燃えるような立派な伴奏、ソロに寄り添って文句なし。

 Tchaikovsky ヴァイオリン協奏曲ニ長調は1881年初演。評論家エドゥアルト・ハンスリックはその豊かな民族色に辟易し「悪臭を放つ音楽」と評したそう(Wikiより)ある意味それは正鵠を射て、本場濃厚な豚骨ラーメンは臭い!みたいな、病みつきになる魅力に溢れた作品。かつて若い頃は苦手として、最近ますますこの作品の魅力に取り憑かれております。詳細理解していないけれど、これはおそらくカット有版(オリジナル版最初の録音はギドン・クレーメル/1979年なんだそう)Heinrich Hollreiser(1913-2006独逸)の伴奏も入念な仕上げでした。

 第1楽章「Allegro Moderato」露西亜風粘着質な表現ではないけれど、蠱惑のセクシーなヴァイオリンはヴィヴラートたっぷり揺れて、微に入り細を穿つエッチな表情と節回しに煽って魅了されます。(16:02)
 第2楽章「Canzonetta」はそっと優しく、寂しく、懐かしい緩徐楽章。思いっきり抑制して、思い入れたっぷりに鼻声の弱音がしみじみと歌います。(6:06)
 第3楽章「Finale: Allegro; Vivacissimo」風雲急を告げるオーケストラのぶちかましからたっぷり、低音にヴァイオリンが詠嘆して・・・一気呵成快速のフィナーレが疾走します。その曖昧さのないテクニックが鮮やかなこと! やがて哀愁甘美な旋律が粛々と歌って、ここの音色も蠱惑(人の心を乱しまどわすこと。たぶらかすこと)いや増すスピードは爽快に全曲を締め括りました。最高。(7:32)

 Bruch ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調は1866年初演、1868年現在の形に改定されたとそう。たっぷり浪漫の旋律が劇的に歌う爽快な人気作品。

 第1楽章「Allegro Moderato」遠いティンパニと木管の呼びかけに、遣る瀬ないヴァイオリンが呼応する静かな始まり。やがていかにも重音が難しそうなソロが嘆いて、表情は思っきり大仰にセクシーな音色に歌います。(7:45)
 第2楽章「Adagio」魅惑の清潔な旋律が端正に、静かに高揚する緩徐楽章。ギトリスの音色はいつも変幻自在、たっぷりセクシーでした。(7:50)
 第3楽章「Finale: Allegro Energico」ト長調に情熱的な躍動するフィナーレ。丁々発止の技巧炸裂!あざとい低音の節回しやラストのテンポ・アップもも最高に盛り上がるところ。(6:12)

 Sibelius ヴァイオリン協奏曲ニ短調は1904年初演、1905年改定され現在の姿になったのだそう。Sibeliusらしい清涼な情景に表情豊かに劇的濃厚な浪漫が漂う名曲。これはちょっぴり音質が落ちます。ホーレンシュタインの暗い響きのオーケストラは上々。

 第1楽章「Allegro Moderato」そっと弱音に呟いて、辺りの様子を伺うような暗鬱な始まり。速めのテンポに細かい音型は、前のめりの技巧と情熱、荒涼とした切迫感が続きます。カデンツァは辛口に厳しい表情でした。(14:03)
 第2楽章「Adagio Di Molto」懐かしく、落ち着いた緩徐楽章。ここもギトリスは表情豊かに妖しい節回しは情念たっぷり感じさせるところ。(7:01)
 第3楽章「Allegro Ma Non Tanto」ティンパニと低弦が力強い付点のリズムを刻み続けて、暗い情熱のフィナーレ。いかにも難解な曲想を超絶技巧駆使してバリバリとクリアしていきました。(6:54)

今回Bartokは聴いておりません。

(2026年6月16日)

 2004年再聴です。(p)(c)1992となっているから、1990年代前半の購入でしょう。この時期の「廉価盤」といえばNAXOSPILZ(既に倒産はしたけれど、店頭在庫はにあったはず)系、あとVOXが充実したライン・アップを誇っていたものです。駅売海賊盤は有)いまとなっては価格もそう安いとは思わなくなったし、録音に問題があるものも多い。ずいぶんと揃えたけれど、ここ数年は「中古で見かければ・・・」程度の購入意欲でした。

 ギトリス(1922年イスラエル生まれ)はまだ存命ですか?でも、80歳過ぎたし現役じゃないだろうな。この録音時はまだ30歳台のバリバリ〜モノラルだけれど音質も驚くべきほど良好(全曲)。バックだって悪くない。ちょっとヤクザでクサみがあって、少々お下品で、上手くて、好きなヴァイオリンなんです。時代がかった古さは感じさせませんが。もっと固有の個性でしょう。

 Tchaikovskyは少々苦手な罰当たりワタシだけれど、ひさびさ、嗚呼ここまで徹底的にやってくれていたんだね、と感銘も深い。クサい旋律はとことんクサく、切々と歌って、コブシ回しに泣きが入っていて、時に確信犯的な音のツブしもあります。第1楽章、最終楽章のラストのラッシュはモウレツでして、テンポはあちこちゆれるし・・・で、とにかく技術の切れは最高。

 イメージ的に「クラシック・ヴァイオリン」じゃなくて「フィドル」みたいなノリか?このパターン、CD全二枚(LP時代は三枚分でしょう)続きます。Bruch は先日ナタン・ミルシテイン盤で開眼したような気もするけれど、スタイルは対極にあって、細部に充満する”灰汁(アク)”がなんとも言えませんね。充分に美しい(標準的美人ではないが)演奏だと思いますよ。でも、表現がクサい。それはそれで説得力が深い。もう、病みつきになりそうなくらい。終楽章〜快速疾走ばっちり決まってます。低音の唸(うな)りもね。

 この二曲でほぼ”お腹いっぱい”状態だけれど、一枚目ラストSibelius 登場。これは作品の個性でしょうか、やや演奏は抑制気味〜っつうか、クサいコブシは似合わないよねぇ・・・とは思いつつ、ここは一発強烈にやって欲しかった。イマイチ薄味!難曲なんでしょうかね、一歩間違えればバラバラになっちまうし。(第1楽章終盤で足並みが揃わない)ホーレンシュタインのバックは燃えるようでした。

 でも、第二楽章に突入すると「詠嘆系(クサい)表情」が豊かに朗々・切々と。ほら、やっぱりギトリスには”抑制”など似合わない。最終楽章は再び抑制気味か?と思っていたら、やはり最終版はどうしても走りたい性格の人らしく、存分に燃えて下さいました。やや異形なる〜北欧の冷涼なる空気とは遠い〜演奏だけれど、完成度はなかなかのもんでっせ。

 かの優雅なるMendelssohnもバリバリ走ってますね。(最後の最後まで)テンポは相当速い。旋律は常に上擦っているような、前のめりのような、追われているような切迫感があります。個人的にはこの作品、もっと上品な味わいだと思いたいが、これはギトリスの個性前面でしょう。グイグイと粗削りな情熱が溢れて、燃えるような演奏。好きな人は病みつきか?

 ・・・やはり本命はBartok! クサみとエグみが、これほどピタリと似合う作品も少ないでしょう。怪しくて、破壊的で〜ようはするに彼にとって、Mendelssohnも、Bartokも同じ姿勢で取り組んでいるみたい。手に汗握るような緊迫感と、あまり上品と言えない節回しの連続が絶妙の効果を上げて、ドキドキ完全燃焼。終楽章の大見得も決まって、暴力的な作品は荒々しく演ってこそ!という完成度でした。

 無伴奏ソナタも、こんなテンション高い作品でしたっけ?というくらい猪突猛進の、惚れ惚れするくらいのテクニック連続でして、これほど燃え燃えの演奏連続、って最近滅多に出会わない二枚でした。

(2004年1月23日)
以下、1998年頃の執筆は以下の通り。

 1950年代の録音で、ジャケットの写真を見てもギトリスは若い!

  豪華5曲の有名協奏曲に、バルトークの無伴奏ヴァイオリン・ソナタを組み合わせてCD2枚で1,850円。LPの時には3枚分だったはずのボリュームに満足。 このヴァイオリニストは、メジャー・レーベルではパガニーニとか小品集なんかの際物しか録音がないようで、最近は教育者としてもっぱらの活動。(日常のコンサート活動を知らないので、なんとも云えませんが)

 VOXでは50年代にそうとうの録音がありそうで、ストラヴィンスキーも破壊的なカッコイイ演奏だし(VOX50周年記念CD)ぜひとも全曲復活させて欲しいもの。

 この人のテクニックは本当に立派です。ハイフェッツの「技巧を忘れさせる至高の技巧」も大好きだけど、いかにも「凄いテクニックだぜ」と聴かせるギトリスも悪くない。どの曲も、最初から最後までテンションが高くて、抜いところがなくて、しかもクール。

 ヴァイオリンの音色も汚いわけではないが、美音を売り物にしてはいません。なんか、旋律のつなげ方に一緒独特のクセがあって(ポルタメントではありません。この人はもっと現代的なセンス)庶民的というか、悪い言葉で言うとちょっと下品な節回しなんです。どの曲もキマッていてキモチ良く聴けるのですが、はっきりいって「何を歌っても演歌」的な世界で、ま、同じなんです。悪口言っているようですが、ワタシは好きです。

 この人の体質的に云って、まず冒頭の濃密で甘い旋律のチャイコフスキーが楽しく聴けます。(聴き手がまだ聴き疲れしていないし)最終楽章のテンションの高さ、アッチェランドの圧倒的迫力は聴きもの。

 最後のバルトークが凄い。エキゾチックで破壊的な旋律に、ギトリスの演歌がピタリとはまる。メンデルスゾーンとかブルッフ、シベリウスと、まあこれだけ有名な曲を詰め込んでくれて超お買い得盤。

 バックは、この時期のVOXはほとんどVSOが一手に引き受けていて、ホルライザー、ホーレンシュタイン、スワロフスキーといった強面の巨匠がしっかりと働いています。録音にはいつも泣かされるVOXですが、どういう加減か上質のモノラル録音で、適度な残響と奥行き、ヴァイオリン・ソロもきれいに録られています。

 これは見かけたら買って損はないCD。


【♪ KechiKechi Classics ♪】

●愉しく、とことん味わって音楽を●
▲To Top Page.▲
 
written by wabisuke hayashi