The Art Of Ivry Gitlis

ギトリスの芸術

VOXBOX  CDX2 5505 Tchaikovsky

ヴァイオリン協奏曲ニ長調 作品35(ハインリヒ・ホルライザー)

Bruch

ヴァイオリン協奏曲ト短調 作品26

Sibelius

ヴァイオリン協奏曲ニ短調 作品47(以上ヤッシャ・ホーレンシュタイン)

Mendelssohn

ヴァイオリン協奏曲ホ短調 作品64(ハンス・スワロフスキー)

Bartok

ヴァイオリン協奏曲第2番(ヤッシャ・ホーレンシュタイン)

以上 ウィーン交響楽団

無伴奏ヴァイオリン・ソナタ(1944年)

以上  イヴリー・ギトリス(v)

VOXBOX CDX2 5505 1954〜57年録音

 2004年再聴です。(p)(c)1992となっているから、1990年代前半の購入でしょう。この時期の「廉価盤」といえば、NAXOSPILZ(既に倒産はしてたと思うが、在庫は店頭にあったはず)系、あとVOXが充実したライン・アップを誇っていたものです。(駅売海賊盤があったか)いまとなっては価格もそう安いとは思わなくなったし、録音に問題があるものも多い。ずいぶんと揃えたけれど、ここ数年は「中古で見かければ・・・」程度の購入意欲です。

 ギトリス(1922年イスラエル生まれ)はまだ存命ですか?でも、80歳過ぎたし現役じゃないだろうな。この録音時はまだ30歳台のバリバリ〜モノラルだけれど音質も驚くべきほど良好(全曲)。バックだって悪くない。ちょっとヤクザでクサみがあって、少々お下品で、上手くて、好きなヴァイオリンなんです。時代がかった古さは感じさせませんが。もっと固有の個性でしょう。

 Tchaikovskyは少々苦手な罰当たりワタシだけれど、ひさびさ、嗚呼ここまで徹底的にやってくれていたんだね、と感銘も深い。クサい旋律はとことんクサく、切々と歌って、コブシ回しに泣きが入っていて、時に確信犯的な音のツブしもあります。第1楽章、最終楽章のラストのラッシュはモウレツでして、テンポはあちこちゆれるし・・・で、とにかく技術の切れは最高。

 イメージ的に「クラシック・ヴァイオリン」じゃなくて「フィドル」みたいなノリか?このパターン、CD全二枚(LP時代は三枚分でしょう)続きます。Bruch は先日ナタン・ミルシテイン盤で開眼したような気もするけれど、スタイルは対極にあって、細部に充満する”灰汁(アク)”がなんとも言えませんね。充分に美しい(標準的美人ではないが)演奏だと思いますよ。でも、表現がクサい。それはそれで説得力が深い。もう、病みつきになりそうなくらい。終楽章〜快速疾走ばっちり決まってます。低音の唸(うな)りもね。

 この二曲でほぼ”お腹いっぱい”状態だけれど、一枚目ラストSibelius 登場。これは作品の個性でしょうか、やや演奏は抑制気味〜っつうか、クサいコブシは似合わないよねぇ・・・とは思いつつ、ここは一発強烈にやって欲しかった。イマイチ薄味!難曲なんでしょうかね、一歩間違えればバラバラになっちまうし。(第1楽章終盤で足並みが揃わない)ホーレンシュタインのバックは燃えるようでした。

 でも、第二楽章に突入すると「詠嘆系(クサい)表情」が豊かに朗々・切々と。ほら、やっぱりギトリスには”抑制”など似合わない。最終楽章は再び抑制気味か?と思っていたら、やはり最終版はどうしても走りたい性格の人らしく、存分に燃えて下さいました。やや異形なる〜北欧の冷涼なる空気とは遠い〜演奏だけれど、完成度はなかなかのもんでっせ。

 かの優雅なるMendelssohnもバリバリ走ってますね。(最後の最後まで)テンポは相当速い。旋律は常に上擦っているような、前のめりのような、追われているような切迫感があります。個人的にはこの作品、もっと上品な味わいだと思いたいが、これはギトリスの個性前面でしょう。グイグイと粗削りな情熱が溢れて、燃えるような演奏。好きな人は病みつきか?

 ・・・やはり本命はBartok!クサみとエグみが、これほどピタリと似合う作品も少ないでしょう。怪しくて、破壊的で〜ようはするに彼にとって、Mendelssohnも、Bartokも同じ姿勢で取り組んでいるみたい。手に汗握るような緊迫感と、あまり上品と言えない節回しの連続が絶妙の効果を上げて、ドキドキ完全燃焼。終楽章の大見得も決まって、暴力的な作品は荒々しく演ってこそ!という完成度でした。

 無伴奏ソナタも、こんなテンション高い作品でしたっけ?というくらい猪突猛進の、惚れ惚れするくらいのテクニック連続でして、これほど燃え燃えの演奏連続、って最近滅多に出会わない二枚でした。

(2004年1月23日)
以下、1998年頃の執筆は以下の通り。

 1950年代の録音で、ジャケットの写真を見てもギトリスは若い!

  豪華5曲の有名協奏曲に、バルトークの無伴奏ヴァイオリン・ソナタを組み合わせてCD2枚で1,850円。LPの時には3枚分だったはずのボリュームに満足。 このヴァイオリニストは、メジャー・レーベルではパガニーニとか小品集なんかの際物しか録音がないようで、最近は教育者としてもっぱらの活動。(日常のコンサート活動を知らないので、なんとも云えませんが)

 VOXでは50年代にそうとうの録音がありそうで、ストラヴィンスキーも破壊的なカッコイイ演奏だし(VOX50周年記念CD)ぜひとも全曲復活させて欲しいもの。

 この人のテクニックは本当に立派です。ハイフェッツの「技巧を忘れさせる至高の技巧」も大好きだけど、いかにも「凄いテクニックだぜ」と聴かせるギトリスも悪くない。どの曲も、最初から最後までテンションが高くて、抜いところがなくて、しかもクール。

 ヴァイオリンの音色も汚いわけではないが、美音を売り物にしてはいません。なんか、旋律のつなげ方に一緒独特のクセがあって(ポルタメントではありません。この人はもっと現代的なセンス)庶民的というか、悪い言葉で言うとちょっと下品な節回しなんです。どの曲もキマッていてキモチ良く聴けるのですが、はっきりいって「何を歌っても演歌」的な世界で、ま、同じなんです。悪口言っているようですが、ワタシは好きです。

 この人の体質的に云って、まず冒頭の濃密で甘い旋律のチャイコフスキーが楽しく聴けます。(聴き手がまだ聴き疲れしていないし)最終楽章のテンションの高さ、アッチェランドの圧倒的迫力は聴きもの。

 最後のバルトークが凄い。エキゾチックで破壊的な旋律に、ギトリスの演歌がピタリとはまる。メンデルスゾーンとかブルッフ、シベリウスと、まあこれだけ有名な曲を詰め込んでくれて超お買い得盤。

 バックは、この時期のVOXはほとんどVSOが一手に引き受けていて、ホルライザー、ホーレンシュタイン、スワロフスキーといった強面の巨匠がしっかりと働いています。録音にはいつも泣かされるVOXですが、どういう加減か上質のモノラル録音で、適度な残響と奥行き、ヴァイオリン・ソロもきれいに録られています。

 これは見かけたら買って損はないCD。


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written by wabisuke hayashi