Debussy 交響詩「海」「夜想曲」「牧神の午後への前奏曲」
(エルネスト・アンセルメ/スイス・ロマンド管弦楽団)


LONDON KICC 9320/2  3枚組総経費込1,190円にてオークション入手 Debussy

交響詩「海」(3つの交響的素描)
夜想曲
牧神の午後への前奏曲

エルネスト・アンセルメ/スイス・ロマンド管弦楽団/アンドレ・ペパン(fl)

LONDON KICC 9320/2  1957年録音(との情報印刷有/これが正解らしい)3枚組総経費込1,190円にてオークション入手

 アンセルメは過去の名匠だけれど、ワタシはたいへん気に入って聴く機会も多いものです。できれば、英DECCAの録音はできるだけ(機会があれば)揃えたい、といった希望もあります。1960年代のスターであって、主に音質の明瞭さ、と実演でのアンサンブルの水準に疑念を抱かれつつ現在に至る・・・この「海」音源そのものに対する情報混乱もあり、ワタシも妙な一文をサイトに掲載しておりました。しばらく忘れていて、原点帰りとして久々再聴〜以前のエエ加減なるコメントは駅売海賊盤のもの(処分済)で、正規国内盤入手できたので再コメントとなります。

 音質がとてもクリアであって、ま、ぴかぴかの新録音のような鮮度はムリだろうが、現役として文句ない水準であります。往年の名コンビは、アンサンブルの精緻さ、メカニック的にも少々難有、というのは定説になっております。”一糸乱れぬ某隣国的マスゲーム風”アンサンブルを賞賛する人々からは大ブーイングを受けているみたいだし、往年のオールド・ファンの情報によれば「実演ではヘロヘロ」(1968年来日)との情報もありました。ワタシはアンセルメの大ファンでして、【♪ KechiKechi Classics ♪】でも更新記事は多いですよ、けっこう。

 ピエール・ブーレーズの「海」に於ける、クール正確な明晰さに賞賛は惜しみません。でも、旧世代の刷り込みかなぁ、アンセルメにはえもいわれぬ”雰囲気”みたいなものがあるじゃないですか。これがStravinskyの「春の祭典」(1957年)だったらヒジョーにヤバい(それでも嫌いじゃない・・・)のだけれど、Debussyだったら”それも有”じゃないか。事実、スイス・ロマンド管弦楽団を1918-1967年迄半世紀に渡って率いて人気と尊敬を集めたのだろうし、膨大なる録音の存在も然り。これはこれで立派な個性だったんでしょう。逆にブーレーズは”雰囲気で聴かせる”ことに耐えられなかったと類推いたします。

 リズムは時にもたつきます。縦線はぴたりと合わない。「風と海の対話」はあきらかにユルい感じもある。でもね、「海の夜明けから真昼まで」「波のたわむれ」には、海原のうねりとかどんよりとした空気とか、太陽光とか、ちゃんとそんな風景が広がってなんともエエ感じです。弦も木管も薄っぺら、明るくて軽妙(ピッチが怪しい?)涼やか、金管にも威圧感はなくて、粋でセクシーな味わいに溢れます。「夜想曲」だったら、ポイントは「祭」かな?ここのリズム感は悪くないですよ。強靱に、四角四面強面にリズムを刻んでどーする?(と、10年ほど前のコメントに同じことが書いてある)

 「雲」は音楽そのものがふわふわしているし、「シレーヌ」の女声合唱も薄もやが掛かったような奥行き、広がりが素敵です。ラスト、「牧神」こそ最高傑作であって、名手ペパンのヴィヴラートはBeeやんには似合わない(イヤらしい!くらいの気怠さ)。全体として粘着質の”タメ”表現皆無、ストンと淡泊に旋律を歌わせ、とくに「牧神」では、その幻想的官能的雰囲気は最高の成果を上げております。録音かなり良好。ラスト辺り、トライアングルの存在感にはっといたしました。(ちなみに駅売海賊盤は、たしか100円ほど+送料80円でオークション処分成。ありがたいことです)

(2009年11月13日)

PIGEON   GX270(英DECCAの海賊盤) Debussy

交響詩「海」(3つの交響的素描1964年録音)
夜想曲(1957年録音)
牧神の午後への前奏曲(1957年録音)

エルネスト・アンセルメ/スイス・ロマンド管弦楽団/アンドレ・ペパン(fl)

PIGEON GX270(英DECCAの海賊盤) 800円か1,000円で購入(?)

 SP時代からアナログ録音の最盛期(1969年まで)まで、アンセルメの録音は膨大。不況続きの昨今、売れるかどうかわからない新録音より、お金が掛からない便利な音源として、CD時代に見直されています。いま考えてみれば、Beethoven やBrahms の交響曲全集なんて不思議な録音ですが、ネタが尽きかけている現代では、その方向違いの妙な冷たさが逆に新鮮。Bach の管弦楽組曲とか、カンタータの録音もあったし、Sibelius の録音もあったはず。Mozart なんかも一度聴きたいものです。

 単なるワタシの誤解かもしれませんが、フランス音楽の演奏には独特の芳香が欲しいところ。ホルヴァートの「海」は、立派なアンサンブルだけど、その「芳香」が不足しています。これが、パレーだと(アンセルメとは違う方向ながら)ちゃんとそれがある。アンセルメ/スイス・ロマンドって、もう滅び去ってしまった「味わい」とか「雰囲気」を感じさせます。ある意味、時代の表現であり、絶滅してしまった響き。

 アンサンブルの縦の線が合っていないのは、技術的な問題か、はたまた端っから合わせる意欲がないのか。その「ズレ」が絶妙と感じるのは先入観でしょうか。薄い弦、軽量なトランペット、オーボエの妙に明るい音色、いくつか細部の音を飛ばしたような(!?)演奏ぶりは、楽譜にウルサイ人には耐えきれないかも。ピッチもあちこちと怪しい。リズムに腰がない。わかりやすく言うと「ヘタクソ」か。でも、なんか説得力があってワタシには気持ち良い。

 「ライヴでは聴いてられない水準」なんていうウワサも聴いたことはあります。「録音のマジック」なんていう悪口も。いまとなっては判断するすべもありませんが、数十年も人気を維持したのも事実で、説得力があったんでしょう。ガッチリとした行進曲的リズム、四角四面の明快なフレージングによるDebussyというのもおかしいでしょ?

 ホンワカとした雰囲気というか、ツボは押さえているというか。子ども時分からこんな演奏に馴染んでいるというか、身に付いた安心感漂う演奏と思います。「牧神」は、ほとんどテンポは動かないし(イン・テンポという意味ではありませんが)、細工はあまりないのですが、気怠い味わいはまざまざと伝わってくる不思議。「夜想曲」における「祭り」のリズムだって、快い「揺れ」(ピシッと決まってはいない)があって、これはもしかしたら体質からくるものかも。「シレーヌ」における女声合唱もセクシー。

 「海」もズルイというか、管楽器ソロの「入り」が不明確で、やや音も外していて、それがいかにも「おフランス」(って、スイスのオーケストラだけど)イメージにピタリとハマッていて、悪くない。あちこちの頼りなさげなヴィヴラートも、わざとやっているのでしょうか。

 録音は相当昔のもので、静謐には欠けるけれど、これもまた演奏と同じで、雰囲気があって悪くない、聴きやすい音。


【♪ KechiKechi Classics ♪】

●愉しく、とことん味わって音楽を●
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written by wabisuke hayashi