Debussy 「イベリア」「牧神」「海」(ポール・パレー/デトロイト交響楽団)


MERCURY 434343-2 1,000円で購入 Debussy

管弦楽のための「映像」より「イベリア」
牧神の午後への前奏曲
交響詩「海」(3つの交響的エスキス)
(以上1955年録音)

Ravel

組曲「マ・メール・ロワ」(1957年録音)

ポール・パレー/デトロイト交響楽団

MERCURY 434343-2 1,000円で購入(これでも購入当時セールでした/現代も相場は変わらない)

 2008年、ほぼ10年を経ての再コメントとなります。お気に入りの演奏だからLP時代、そしてCD時代に入っても、時にこの繊細かつ剛直なる演奏を愉しんでおりました。なんとなく英国のエイドリアン・ボウルトに対して、仏蘭西のポール・パレー、といったイメージが重なります。時代を越え録音状態がよろしい、ということは僥倖也。ウィルマ・コザート/ロバート・ファインに感謝。MERCURYだったらできるだけ入手したいが、意外とワタシの相場(=激安)では見掛けません。

 言うまでもなく「イベリア」は、「街の道と田舎の道」「夜の薫り」「祭りの日の朝」からなるスペインのリズム豊かな名作。通常20分くらいの作品だけれど、ここでは17分少々だからテンポが速いんです。一見素っ気なく、飾りもタメもないストレート系表現であって、粘着質な詠嘆とか、ガッチリとした重厚なる構成感とは無縁。神経質にアンサンブルを整えたものではなく、ざっくりと即興的な流れを大切にした演奏です。リズムあくまで軽快であり、響きの基本は淡彩で明るい〜これはCD全曲通して共通しております。

 アメリカのオーケストラ?とは俄に信じがたい、繊細な味わい。「牧神の午後への前奏曲」だって、一般的な演奏より約1分短い8:21。ほとんど何もしないで淡々粛々サラサラと音楽は流れていくんです。ワタシにはこれがヴェリ・ベスト。淡雪のように瞬時に溶けるような、儚いサウンド。当時このオーケストラには名手が揃っていたんだろうが、特異な名人芸が披瀝されるワケじゃない。素材の個性、そのまま生かした料理のよう。ごてごてと余計なる味付けなし。

 「海」はワタシにとって少々難物な名作であって、心底感動させて下さる演奏には滅多に出会えない・・・リファレンスはブーレーズ/ニューフィルハーモニア管弦楽団(1966年)の精緻明快極めた演奏(”「色気」「雰囲気」の欠如。愛想のなさ。明快さ。冷たさ”)となります。パレーの”淡々粛々サラサラ”路線は変わらないが、こちらには「色気」「雰囲気」がちゃんと存在します〜但し、入念厚化粧とは無縁。淡彩で明るい響きなんだけど、リズムの切れと剛直な線の太さも感じさせます。この不思議な味わいは1952〜1963年デトロイトに出現した奇跡也。

 「マ・メール・ロワ」はCD時代になって、収録のサービスをして下さったもの。Ravel だったら、アンサンブルの精緻要求は一層高まります。音質も精密なアンサンブルもDebussyを上回り、各パートの繊細な味わい(定位が明快)が堪能できます。もちろんストレート系淡彩表現が基本だけれど、一般的な評価としてはこちらのほうが受け入れられやすいはず。なんの保留条件もなく”粋”な演奏であります。

 第5曲「妖精の園」に圧巻の大爆発がやってくるが、響きはあくまで清冽でありました。

(2008年4月11日)

 現在はPHILIPSに発売件が移ってメジャー・レーベルっぽいけれど、もともとはアメリカの優秀録音を売り物にした「MERCURY」というレーベル。あんまり詳しくは知らないけれど、もう40年くらい昔の録音でありながら、音質はもちろん当時の驚くほどの素晴らしい演奏ばかりで、現代に生き残るべき音源が盛りだくさん。

 1970年代に、PHILIPSが廉価盤LPとしてたくさん出してくれたので、ワタシはひとかたならぬ愛着を感じるレーベルです。でも、CD時代に入るとなかなか1,000円以下で探すのは至難の業。売れているんでしょう。数年かけて、ようやく数枚手に入れたウチの一枚。

 1955年って、もう歴史的録音の世界でしょ?その新鮮な音質には打ちのめされます。この録音はLP時代にも持っていましたが、CDのほうがずっと良いような気がしますね。(珍しい)それにもまして凄いのが、デトロイト響の音。

 速めのイン・テンポ。いっさいの虚飾なし。芝居っけも、よけいな「タメ」も節回しも、リキみもなし。まっすぐの速球勝負。なのに繊細さに満ちあふれるアンサンブルの優秀さ。クリュイタンスも大好きだし、チェリも素敵だなぁと思うけれど、(ワタシの慣れもあって)やっぱりこの演奏しかない、と納得の一枚。

 自動車産業最盛期の頃ですよね。アメリカの各地で、あり余る財源を活用して機能的で馬力のあるオーケストラを作っていった時代のはず。足りないのは伝統と指揮者で、フランスから長老指揮者を連れてきて、重工業の町に繊細なオーケストラを作ってしまう驚き。デトロイト響は、その後1980年前後ににドラティで一時復活を見せるものの、往年の輝きは戻らず。

・・・で、以上このページ終了・・・ではあんまりなので、以下蛇足。

 「イベリア」は楷書の表現。速いテンポながら上滑りしないノリ。奥行きのある響きの中から、夏の海を臨む、高い岸壁の風景が見えてくる。やわらかくて、充分個性的で力強い音色。トランペットの細かい音形が抜群に上手い。「夜の香り」の充分すぎるほどの浪漫的な味わい。
 「祭りの朝」・・・・ウキウキする気持ちの表出。タンバリンの衝撃。一気のアッチェランドで最後は決まります。

   イン・テンポの「牧神」って、信じられないでしょ。これがキマってるんだなぁ。官能が高まって、やがて寄せては返すフルートの呼吸の上に、弦が悩ましく叫ぶじゃないですか。ここは誰でも、ちょっと朗々と(恥ずかしげもなく叫んだり)したくなるところ。でも、そのまんま突っ走るから、そっけないけど勢いが止まらない。クネクネするばかりが色気じゃないぜ。(この曲のみ全奏で音が少々濁る。残念)

 不思議な「海」。練り上げられ、洗練された響きなのに、よくよく聴くとそう突出したパートがある訳でもない。チェロもホルンも、木管も金管も、どれも感心する水準(第3楽章のトランペットはハッとするくらい)だけれども、特別な音じゃない(ベルリン・フィルなんか、よくあるじゃないですか。ものすごい官能的な音色)。早めのテンポで、スパっとしたリズム感も最高。新鮮で、波しぶきが飛び散るようなオーケストラの音色。黙って聴かせりゃ、これがアメリカのオーケストラとは気付かないはず。

 「マ・メール・ロワ」は、とくに録音が優秀。切ない木管は一人ひとりの位置がわかり、木琴が左奥から唐突に聴こえたり、チェレスタは右から・・・・・・・。ホンワカとした曲だけど、明快で、しかも肌理の細かさは並じゃない。「一寸法師」におけるささやくような、楽しげな木管同士の対話。ドラの一撃。ラスト「妖精の庭」における圧倒的で厚く、濁りのない響き。

 国内盤1,500円の価値有り。たしか輸入盤より、通常は安いはず。


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written by wabisuke hayashi