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Beethoven 編2006(晦日番外編) 贅沢三昧
■Beethoven の交響曲全集の在庫虫干し
■Beethoven の交響曲在庫(追加)・・・これは、お恥ずかしい現状自覚作業でした。ほんまにBeethoven は聴く機会が少ないんです。聴いてどうの、という以前に棚中よりCDを取り出す勇気が出ない。でも、激安ボックスものを”オトナ買い”するとたいてい交響曲は含まれるし、BOOK・OFFにて「LP昔馴染み」が@250出現すれば、やっぱり救出してあげないと・・・という気分に至ります。つまり、まともに聴かないくせに在庫は貯まる一方・・・アホですな。音楽ファンの風上にも置けない。
2006年大晦日は朝、女房を大阪の実家に送り出し、息子もそちらに直行、ということでワタシ一人。食材も本も仕入れ済み、もう酒もテレビも要らない、ひたすら音楽と読書〜そうだ、今年2006年亡くなった岩城宏之さんには「ベートーヴェンの1番から9番までを一晩で振るマラソン2004」という偉業 がありましたね。彼を偲んで「Beethoven 交響曲第1番から9番までを一日で聴くマラソン2006」(洒落になっていないが)やろうじゃないか、有名無名演奏者問わず。新年はMozart に決まっているので、大晦日はこれで、という気分盛り上がって参りました。
■交響曲第1番ハ長調〜チャールズ・マッケラス/ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー(1997年)
所謂「ベーレンライター版」の全集であり、古楽器テイストを取り入れた現代楽器による演奏。(EMI/cfp 7243 5 7571 2 6 5枚組2,480円にて購入)購入当初、速すぎるテンポ設定(と、当時は感じた)、素っ気ない旋律表現、味のないオーケストラ・・・そんな感想だったが、やがて時代は移ろい、こんな演奏が世間の標準となって参りました。現在(いま)では違和感まったくなし。清潔でリズムにキレがあって、峻厳たる推進力が快い。オーケストラの演奏技量、アンサンブルの集中力にも、まったく問題はありません。青春のBeethoven に相応しい、爽やかなる演奏を堪能。録音も極上。(フィル・アップ「英雄」壱楽章も拝聴/同様の印象有)
■交響曲第2番ニ長調〜ヨーゼフ・クリップス/ロンドン交響楽団(1960年)
柔らかな語り口、ていねいなアンサンブルの仕上げに於いて、これは最高の穏健派全集と確信します。(EVEREST EVC 9011 5枚組1,554円にて購入)楽譜問題やら、古楽器手法問題は別として、ワタシのリファレンス(参照の基準)演奏。この人はいつも柔らかく、優しい。旋律にエッジを立てず、低音をごりごり響かせないが、リズムは的確に刻んでおります。ロンドン交響楽団が優雅に、ウィーンの響きに変貌します。ワタシは第2楽章「ラルゲット」を愛しており、その優美な旋律はクリップスによって理想的に表現されました。あくまで軽快に微笑みを浮かべ、力瘤を作らない演奏。エエですね。
■交響曲第3番 変ホ長調「英雄」〜オトマール・スウィトナー/シュターツカペレ・ベルリン(1980-83年)
こうしてみると、知らず自然と穏健派録音を選んでいるのか。(DENON GES-9211 @250)余裕の深みのあるオーケストラの響き、録音も極上。ここではオーケストラがずいぶんとジミで、しっとり落ち着いた感じ・・・というか、世界に誇るべきDENONの自然体音録り思想の効果ですか?リキみとか躍動、雄弁なる華やかさではなく、自然体の流れであり、よ〜く聴くとふっくら滋味深く柔らかい響きがじわじわ快い。この作品のみ収録50分は、これでよろしいと思います。
■交響曲第4番 変ロ長調〜イシュトヴァン・ケルテス/バンベルク交響楽団(1960年頃?)
HMVの宣伝文句に負けて注文したCD(CONCERTOROYALE 206207-360 3枚組780円也)だけれど、ちょっと失敗だったか。かなり肌理の粗い録音であって、推進力と力感に溢れているが、デリカシーに欠けるような気もします。ここまでそれなりに音質条件の整ったものばかり聴いてきたせいもあるのか。バンベルク交響楽団の響きも洗練されず、やや聴き疲れしました。これは2度目の拝聴だけれど、前回と印象変わらず。残念。
■交響曲第5番ハ短調〜ラースロー・ソモギー/ヴュルテンベルク州立管弦楽団(シュトゥットガルト)(録音年不明のステレオ)
この人は協奏曲伴奏にいくつか録音もあるし、ロチェスター・フィルの音楽監督(1964年 - 1969年)を務めておりました。上記、ケルテス盤と同じセットに含まれる珍しい録音だけれど、こちらのほうが録音演奏ともずっとまとも。両端楽章の繰り返し実行しており、表現はあくまで中庸オーソドックスであって、押しつけがましさ、強面をウリにしない。オーケストラはやや薄いような気もするが、意外と整ったアンサンブルであります。
■交響曲第5番ハ短調〜ジョージ・セル/コンセルトヘボウ管弦楽団(1964年)
クリーヴランド管弦楽団との同年CBS録音とほとんどタイミングが変わらない、という恐るべき演奏。(PHILIPS-9476)これはオークションでの入手(諸経費込680円)だけれど、前所有者が処分したのがちょっと理解できますね。いつものふくよかで、やわらかいコンセルトヘボウの響きが感じられず、集中力ばかり前面に出た演奏であります。それでも手兵との録音より、表現はずっと自然体で力みがなくて、粛々とした味わい有。ワタシは嫌いじゃありません。
■交響曲第6番ヘ長調「田園」〜カール・シューリヒト/シュトゥットガルト南ドイツ放送交響楽団(1957年)
シューリヒトといえば淡彩でさらさらとした表現〜みたいな印象あるが、けっこう濃厚に表情を作って、テンポも動きます。低音のえぐりも時に存在します。音質は意外と良好で、パリ音楽院とのスタジオ録音(EMI1957年)より聴きやすいのじゃないか。”濃厚に表情を”とはいっても、この人の音楽にはいつも涼風が吹き抜けるような感触がちゃんとあって、鈍重とは無縁です。各楽章の表情付けが的確で、それこそ(月並みだけれど)田園風景に癒され、嵐に慄(おのの)き、無事に乗り切ったことへの感謝の気持ち万感胸に迫りました。こんなに感銘を受けた「田園」は久々か。
■交響曲第7番イ長調〜カール・シューリヒト/ウィーン・フィルハーモニー(1956年)
たしか、ニューヨーク国連でのライヴでしたっけ?上記、第6番のカップリング(VIRTUOSO 94005_4)だけれど、こちらのほうが少々音質的には落ちますね(オン・マイクで残響奥行き少ない)。演奏の質は上記「田園」によく似て、明快であり、タメがたっぷりあってテンポ微妙に動き、しかも軽快で推進力ノリノリの昂揚。第2楽章「アレグレット」の美しさは絶妙です。ライヴのウィーン・フィルの熱気と厚みを堪能できます。この作品、Beethoven 中かなり苦手の部類で、聴くのがツラかったが、久々に作品の魅力再発見!
■交響曲第7番イ長調〜ハンス・クナッパーツブッシュ/ベルリン州立歌劇場管弦楽団(1929年)
クナッパーツブッシュを語らせたら日本一!Syzuoさんのサイトでクソミソ言われてた録音。低音が全然出ていないが、録音時期を考慮すると驚異的な音質とも言えるでしょう。この作品に於ける、別のクナッパーツブッシュ録音を聴いたことがないせいか、これはこれでけっこう楽しく聴きました。例えば、第2楽章「アレグレット」の纏綿たる味付けと重いリズム、どんどん遅くなるテンポ、深刻なる雰囲気・・・なんとなくラフで、大雑把かつ巨大な躍動がある第3楽章「プレスト」(中間部では止まりそうになる)。最終楽章は意外にも快速だけれど、これは録音のせいか、やや上滑りな印象有。それでも最終盤のアッチェランドはたいしたものです。
■交響曲第8番イ長調〜ハンス・クナッパーツブッシュ/ベルリン・フィルハーモニー(1952年)
上記第7番とのカップリング(XXCM DOCUMENT205231-303)であり、流石ベルリン・フィルといった重低音の厚みが響き、落ち着いた味わい有。(復刻により全然音が違うとは、上記Syuzoさんのサイト情報)どんよりしているが、聴き疲れするような音質ではない。重々しく巨大なサウンドであり、それはそれでちゃんとユーモラスでもあります。ミュンヘン・フィル(1956年)と比べると、腰が据わっているというか、安定した印象があるのは録音故か、それともオーケストラの違いでしょうか。アンサンブルの集中力はこちらに軍配が上がります。哲学的第2楽章も同様の印象で、異形ではない。第3楽章「メヌエット」のうねりも堂々たる押し出しであり、超・鈍足最終楽章に仰け反るのは毎度のことであります。やがて興が乗ってきて、それがフツウのテンポに・・・たしかにテンポ・アップしてますね。
■交響曲第9番ニ短調「合唱」〜ジョージ・セル/クリーヴランド管弦楽団/合唱団/アディソン(s)/ルイス(t)/ホブソン(ms)/ベル(br)(1967年)
さて、いよいよラスト大物です。壱年分のBeethoven 聴いちゃったな、といった感慨か。おそらくはCBS(EPIC)の録音印象で損をしてきた人だと思うが、ここでも硬質な響きが、モウレツ集中力アンサンブルで強面強靱躍如であります。イン・テンポ、響きもリズムの辛口の極みであって、まさに峻厳。これは精神が健全、体調万全でないとまず楽しめませんな(厳しすぎて)。天空より得体の知れないものが降ってくる〜第1楽章、混沌はやがて決然たる姿となって全貌を表すが、ピ〜ンと張り詰めた緊張感が支配します。第2楽章のリズムの切れ味も、推進力もそうとうなもの。このオーケストラ、特別にセクシーではないが、第3楽章長大なる変奏曲のピュアな響きは極上であります。粛々と、ほとんど余計な色づけせず、無愛想に音楽は進んでいく〜それだからこその作品の神髄が過不足なく響き渡りました。ホルンの雄弁な歌に感動した!みたいな感想が出るところだけれど、特別に各パートが突出しない。終楽章はフレージングの清潔さ、リズムの正確で生き生きしていること。テンポが激昂して無駄に動かないこと。内声部がよく聞こえること、合唱のアンサンブルは管弦楽に負けない集中力を誇る・・・ラスト昂揚するアッチェランドさえ、アンサンブルは整然としておりました。
(2007年1月1日)
【♪ KechiKechi Classics ♪】
●愉しく、とことん味わって音楽を●
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