Mussorgsky 歌劇「ボリス・ゴドゥノフ」(抜粋/ロンドン/シッパーズ)
組曲「展覧会の絵」(オーマンディ)


SONY 82876787472 Mussorgsky

歌劇「ボリス・ゴドゥノフ」(Rimsky-Korsakov 編)
第1幕第2場「戴冠式の場」/第2幕「最高の権力を手にして」/終結部「時計の場」/第4幕「ボリスの死」

ジョージ・ロンドン(b:ボリス)/ハワード・フリード(t:シェイスキー)/ミルドレッド・アレン(ms:フョードル)/スタンリー・コルク(t:フルショーフ)トーマス・シッパーズ/コロムビア交響楽団/合唱団(1961年ニューヨーク録音)

組曲「展覧会の絵」(Ravel 編)

ユージン・オーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団(1966年)

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 ここ数年、毎日音楽を楽しく聴いて、どこかノーミソ片隅で「歌が入らんとほんまの音楽とちゃう」思いが抜けません。言葉の意味云々に非ず、肉声こそ情感の本質じゃないか・・・Bach のカンタータは大好きだけど、プロテスタントの宗教行事に疎く、純粋にサウンド旋律として拝聴して、それでも宗教的畏敬の念はしっかり受け止めることができます。オペラはあまり好んで聴かないけど、ほとんどWagner(とくに「リング」かな?)、他、Mozart 、Bizet「カルメン」、そして露西亜ものへと続きます。

 「ボリス」はアセン・ナイデノフ指揮のものをしっかり拝聴(個人輸入激安だった/他意はない)「ホヴァーンシチナ」(アナトス・マリガリトフ)にも痺れましたよ。西欧(とくに伊太利亜)のオペラはソプラノが主役、ところが露西亜ものは重厚なるバスがけっこう重要な役回り、エキゾチックかつ濃厚な旋律と存在感が心ソソるものを感じさせます。

 トーマス・シッパーズ(1930-1977)は残念、早世しちゃったけれど亜米利加期待の星やったんやな。ジョージ・ロンドン(George London, 1920-1985)はカナダのバス・バリトンだけど、「ボリス」は一世一代の当たり役だったそう。そういえばショルティ「ラインの黄金」(1958年)ヴォータンはこの人でしたっけ、もの凄く押し出しの良い、貫禄たっぷりの存在感は、ここでも手応え充分。この人も咽の不調〜心臓発作と残念なキャリア中断だったのですね。

 鮮明な音質、臨場感、オーケストラも合唱も明るい響き、素晴らしく上手い。当時、亜米利加では契約とかユニオン問題が喧(かまびす)しかったから、例えばメトロポリタンのメンバーとかフリーランスのメンバー寄せ集めかも知れません・・・とは3年前「音楽日誌」の感想です。もの凄く高貴かつ立派な貫禄存在感に溢れて、昂揚した雰囲気たっぷり、表情の陰影豊か・・・馴染みの壮麗濃厚なる(少々クサい)エキゾチック旋律〜これは更にその前のコメント。ワルターのコロムビア交響楽団に非ず、あちらハリウッド録音ですから。

 オール・亜米利加系キャスト?少なくとも非・露西亜ですよね、それでも雰囲気たっぷり。わずか40分弱、ジョージ・ロンドンの存在感を活かすべき、シッパーズの上手さが光ります。もし元気でキャリアを積めば、バーンスタイン(1918-1990)の次世代として、オペラが得意な巨匠に育ったことでしょう。第4幕「ボリスの死」に感、極まりました。苦悩、吐息がリアルに伝わります。全曲録音して欲しかったところ。

 オーマンディの「展覧会の絵」は有名なもの。旧録音。なんの躊躇いも逡巡もない、あっけらかんと明るく輝かしく、厚い響き、余裕の技巧。飾りもタメも少ない素直な歌。露西亜風粘着質表現とか、巨匠風偉大なるスケールを求めると、肩透かしを喰うであろう、要らぬ思い入れのないスカっとした演奏也。先日、カラヤンのセクシー演奏に驚いたけど、この作品はオーケストラが上手くないとなんともならんもんですね。音質も充分、1974年録音より、こちらのほうが好印象を得たものです。

written by wabisuke hayashi