Mussorgsky 歌劇「ホヴァーンシチナ」全曲(Rimsky-Korsakov 完成版)
(アナトス・マリガリトフ/ソフィア国立歌劇場管弦楽団)
Mussorgsky
歌劇「ホヴァーンシチナ」全曲(Rimsky-Korsakov 完成版)
アナトス・マリガリトフ/ソフィア国立歌劇場管弦楽団/ブルガリア”スヴェトスラフ・オブレテノフ”国立合唱団(合唱指揮ゲオルギ・ロベヴ)
ディミトール・ペトコフ(b)(イワン・ホヴァンスキー)
トドール・コストフ(t)(アンドレイ・ホヴァンスキー)
アレキサンドリア・ミルシェヴァ・ノノヴァ(ms)(修道女マルファ)
ニコラ・ギュゼレフ(b)(指導者ドシフェイ)
リュブモール・ボドゥロフ(t)(ゴリツィン)
ストヤン・ポポフ(br)(探査庁長官シャクロウィートゥイ)
ミレン・パオウノフ(t)(代書屋)
マリア・ディムシェフスカ(s)(エンマ)
ナダキャ・ドブリヤノーヴァ(s)(スザンナ)
FIDELIO 1820/22 1975年録音 Balkanton原盤 3枚組$6.99(?)個人輸入
同時購入した「ボリス・ゴドゥノフ」(アセン・ナイデノフ盤)を、購入以降十余年を経、しっかり楽しんだのを機会にこちらも真面目に再聴しましょう。粗筋はこちらにお願い。「ホヴァーンシチナ」とは、ピョートル帝が「反逆者たち・ホヴァンスキーの奴らめ(ホヴァンスキー騒動)」と呼んだことから来ているようです。史実に題材を取っていて、個人的には”分離派教徒”など少々筋(意味合い)がわかりにくい。しかも未完であって、多くの有名なる作曲家(Stravinsky/Shostakovichなど)が補筆完成させております。女声ソロが多く登場する(美しきドイツ女性エンマ、修道女マルファ)こともあって、華やかな雰囲気もあるし、ラストは燃えさかる炎の中で集団自殺するといった壮絶なる結末を迎えます。きっと舞台映えするんでしょうね。
おそらくは同じ収録場所(ソフィア国立歌劇場)ながら、こちらのほうが残響が豊かでもう少し奥行きが感じられます。いずれ、雰囲気あるまともな音質でしょう。管弦楽に不満はないし、合唱は(いつもながら)壮絶な迫力、声楽陣は強靱そのもの。英訳付きリブレット76頁完備。(同時購入の「ボリス」には付いていなかった)
なぜ「わかりにくい」か、というと、開幕前のピョートル帝即位の経過、暴動、結果「イワンとピョートルはともに帝位に並ぴ、イワンの実姉ソフィアが二人の幼い皇帝の摂政となった」(引用先サイトより)・・・って、「イワンとピョートル」の「帝位」という意味合いがよくわからない。「皇帝」を狙える地位と言うことか。ま、音楽がわかりにくいということはないけれど。主役が誰か?というのは曖昧な全体筋書きだけれど。
それと、”分離派教徒”とホヴァンスキー父子の関係がよくわからない。彼らは分離派教徒なのでしょうか?政争のバックには宗教上の問題があった、ということなのか。オペラを楽しむには知性と教養が必要なんですね、きっと。
前奏曲「モスクワ川の夜明け」始まりました。わずか5分ほどの作品だけれど、これは壮大な広がりを感じさせ、銅鑼の音も荘厳な名曲。
第1幕は「モスクワの赤の広場」。貴族(探査庁長官)シャクロウィートゥイ(このバリトンが渋い)と代書屋(これは軽めのテナー)の絡み合いが怪しげ(ホヴァーンシチナ父子が謀反するぞ、と)であり、続く群衆と銃兵隊の合唱はド迫力の広がりが素晴らしい。そのまま、「銃兵隊長官イワン・ホヴァンスキーを讃える」(引用先サイトより)へ・・・?イワンは「帝位」じゃなかったのか。シロウトは細かいことに口出しせず、銃兵隊長官イワン父子が(誰に?ピョートルか)反逆した、ということにしておきましょう。
続いて、美しきドイツ女性エンマ(両親を銃兵隊に殺された)登場、アンドレイ・ホヴァンスキー(イワンのバカ息子/女好き)が追い掛けます。史実に依っているはずだから、暴動でドイツ人がたくさん殺されたということなんでしょうか。それを分離派修道女マルファ(アンドレイに弄ばれた挙げ句、捨てられ出家した)が救うわけですね。このメゾ・ソプラノがなかなか芯が強く聡明な歌声なんです。マルファは登場機会も多いし、実質上の主役かも。そこへ親父イワンも加わってドイツ美人を奪い合う、といった(親子とも)情けない状況へ。
分離派の指導者ドシフェイが登場して(なかなかの雄弁・貫禄ぶり)ことを治めるが、つまりはホヴァンスキー父子も(おそらく)分離派教徒であって、暴動の底流には宗派間の抗争がきっとあるんでしょう。(なんせ宗教的なことには疎いから、よくわからない)締めくくりに静かな男声合唱も加わって、ちょっと感動的な場面であります。
第2幕は「ゴリーツィン公の夏の館」。摂政皇女ソフィアの寵臣ワシーリー・ゴリーツィン(肉体関係があるらしい/こいつも反逆を狙っている)が、(先の)分離派修道女エンマを呼んで運命を占わせるが、結果は「失脚と流刑」と。第2幕への前奏曲+「ゴリーツィンのモノローグ」は思わぬ甘い旋律(ニコラ・ギュゼレフの声質も)であって、「マルファの予言」は切羽詰まった雰囲気〜哀愁に充ちた嘆きの旋律が美しい。ここは特筆すべきポイントのひとつ。
ここにイワン・ホヴァンスキー、指導者ドシフェイが登場して、反・ピョートル帝で利害一致。バス3人、男声低音のみの掛け合いが、いかにもロシア音楽らしい。駄目押しに男声合唱が加わります。しかし、シャクロウィートゥイ(こいつは裏切り者なんです)より、ピョートル帝にもくろみは露見し、全員逮捕命令が出ていることが告げられます。(ここに「ホヴァンスキーの奴らめ=ホナシチーナ」という言葉が出てくる)唯一、修道女マルファの女声が色を添え(意味合い的にはわからない/戻ってきたのかな?)前奏曲主題が回帰して第2幕を締め括りました。
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第3幕は「モスクワ河右岸の統兵隊の居住区」であり、分離派教徒の荘厳な男声合唱によって始まります。(男だらけのオペラだ!)修道女マルファが切々と昔の恋人(女好き)アンドレイへの思いを歌います。ソプラノとのことだけれど、高音の節回しを駆使するような旋律ではなく、強靱で強い意志を感じさせるアリアは作品中の白眉であります。筋書き的に随一の良心であり、出番も多いマルファだけれど、エエ女ほどバカ男が忘れられない・・・といったJapanese・演歌的世界か。
ここにスザンナ(誰?どういう役割なのか)登場して絡みます。(マルファより高音)もしかして分離派教徒の不安を代表しているのか。指導者ドシフェイが諫めるが、女声二人+男声バスというのは音楽的には据わりがよろしいと思います。ここに探査庁長官シャクロウィートゥイ登場して、祖国を憂いて雄弁に歌います。この人、この作品冒頭から登場していてけっこう大切なポイント抑えてます。対照的に兵士達の上機嫌な合唱が続いて、この男声合唱は聴きものでっせぇ、カッコ良い。勝利に酔いしれる男声合唱(兵士)に、不安げな女声合唱が「ひどい飲んだくれ!」と水を差します。
ここに書記が、ピョートル帝の攻撃を報告するが、銃兵隊長官イワンは「未だ立ち上がるときではないよ」と一蹴〜不安のうちに第3幕終了へ。不安げな混声合唱もなかなか爽快で素晴らしい盛り上がり。声楽陣の充実に文句なし。
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第4幕は第1場「イワン・ホヴァンスキー邸の食堂」より。短い前奏曲は「モスクワ川の夜明け」を変容させ、既に暗く不安げでした。少女達の合唱がなかなかエエではないか。ヴァルソノフィエフというのが出てきて(テナー)誰?と思ったら、ワシーリー・ゴリーツィンの使者なのだね。「ペルシアの踊り」というのが延々と続いて、これは舞台では手練れバレリーナの見せ場なのでしょう。単独で演奏会に取り上げられてもおかしくない名曲。で、シャクロウィートゥイ登場して、あっと言う間にイワン・ホヴァンスキーを殺っちまいました。ここは短いものです。
第2場「モスクワの赤の広場」。摂政皇女ソフィアの寵臣(だった)ゴリーツィンは捕まって流刑へ。指導者ドシフェイの悲痛なる覚悟を歌い、動揺する(女好きバカ息子)アンドレイ・ホヴァンスキーを修道女マルファが諫めます。マルファは(やはり)強靱だなぁ。そして銃兵隊の断頭刑の緊迫した(合唱の)場面へ。ここ、なかなかの聴きものでした。明るく転調する行進曲は「恩赦」の意味合いか?
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第5幕「松林の中の分離派の僧院」。指導者ドシフェイの覚悟のモノローグは堂々と(暗いが)恰幅良く、胸を打ちます。教徒への殉教の訴えも同様。圧巻。分離派教徒の短い合唱も高貴であります。修道女マルファはアンドレイを誘って一緒に死にましょうと・・・切羽詰まって凄い迫力です。流石のバカ息子も殊勝に従う覚悟ができたのか。朗々とした雄弁なるアリアで応えます。この二人の掛け合いはけっこう長い。
やがて指導者ドシフェイの最後の訴え、分離派教徒の合唱、修道女マルファの「忘れるな、この輝かしい瞬間を!」に対して(バカ息子)アンドレイは「ああ、マルファ、マルファ」と情けない叫び・・・で、ラストはあっけなく終わって、いかにも未完っぽいか。やはりShostakovich版の「モスクワ川の夜明け」が回帰するのが正しいような気もします。 (2007年7月20日)
CDを集めだしたのが1990年頃で、当時は「幅広く音楽を聴かなくちゃ」とばかりに、こんな曲も買っておりました。真面目でしたね。なんと10年経っても、粗筋がわからない。露英対訳のリブレットは付いているけれど、ロシア語はもちろん英語をねばり強く読み解く根性も学力もなし。(息子のことは強く叱れない)欧米では有名な「ボリス」に負けず劣らずの人気だそう。
前奏曲がかの「モスクワ川の夜明け」。ソフィア国立歌劇場のオーケストラはなかなか聴く機会もないので、心配してましたが、これがいやが上でも舞台の期待を高めるような、雰囲気タップリの演奏。さすが。この曲は未完で、R.コルサコフが完成させたらしいのですが、「展覧会の絵」とか「のみの歌」の雰囲気そのままのエキゾチックな旋律が全編を支配していて、楽しめます。
マルガリトフは、どなたかご存じありませんか。ブルガリアの人でしょうか。欧米では録音とは縁のない実力派はたくさんいるようですから、ソフィア・オペラの指揮者なんでしょう。きっと。
ワタシ、オペラ方面にはカラキシなのでなにもわかりませんが、やたらと男性の野太い声の熱唱が目立つ曲だと思います。普通、ソプラノとかメゾ・ソプラノが主役張るパターンが多いじゃないですか。男声だったらテノールとか。ドン・ジョヴァンニみたいな例もあるけど、ここでの登場人物はもっと粗野というか、泥臭いかんじで、いかにも「ロシアの大地」を感じさせてワクワクします。
ロベヴ率いる合唱が凄い。ロベヴのほうは意外と録音もあるし、この合唱団の押し出しの強さには圧倒されます。オーケストラは、この曲に対する自信が感じられて、不安なところは見あたりません。録音は、そこそこの水準でしょうが、舞台の奥行きとか、歌い手と合唱、管弦楽のバランスは自然でじゅうぶん鑑賞に耐えうるもの。
FIDELIOというレーベルは、借り音源ばかりですが、廉価で掘り出し物がたまにあります。ブルガリア・バルカントーンなんて日本には出口がないでしょうから、貴重です。どうもオペラはコメントを付けるほどの知ったかぶりもできない。
どなたかこの曲の粗筋を教えて下さい。無精とケチで高いお金を出して本を買う気もないので。(図書館に行ってみようかな)
香港在住金田さんから(ワタシの無知を見かねたか)情報をいただきました。
マルガリトフについて、私の調べがつく限りでは以下のとおりです。
1912年1月25日生まれ、未だご健在であれば88歳になった筈です。ソフィアの国立音楽院でヴァイオリンを学び、1933年から36年までソフィア国立歌劇場のコンサートマスターを務めています。その後ウィーンの音楽院でワインガルトナーに指揮を学び、ソフィアの歌劇場で38年にカルメンを振って指揮者としてデヴューしました。1940年から同劇場の専属指揮者となり1964年から66年にかけては首席指揮者を務めました。
その他に1945-7にソフィアフィルハーモニー、1967-74にはブルガリア室内オー ケストラの指揮者を務めています。確か、後者とコンサートホールにブリテンのシンプルシンォニー他を録音していたとの記憶があります。整理したLPですので、確認できません。LPではファーストネームがボリスと表記さ れていたようにも思いますので、或いは別人かも。ホバンシチナの録音は彼の代表的な録音との評価のようです。以上、彼の伝記的な情報は"The New Grove Dictionary of Music & Musician"に拠っています。正確に申しますと、80年版の95年改訂版ですので、最近物故した人の情報は含まれていないのです。
ところで、件の録音ですが、リムスキー・コリサコフの版にさらにショスタコーヴィチが手を加えた版ではありませんか?
今後もご健筆を期待申し上げます。
【♪ KechiKechi Classics ♪】 ●愉しく、とことん味わって音楽を●
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