Mahler 交響曲第3番ニ短調
(ヤッシャ・ホーレンシュタイン/ロンドン交響楽団)


BRILLIANT 99549-3/4 1970年録音(Unicorn-Kanchana原盤) Mahler

交響曲第3番ニ短調

ヤッシャ・ホーレンシュタイン/ロンドン交響楽団/プロクター(con)/アンブロジアン・シンガーズ/ワンズワース学校少年合唱団

BRILLIANT 99549-3/4 1970年録音(Unicorn-Kanchana原盤) 11枚組4,290円で購入したウチの2枚

 激安路線で21世紀クラシック業界を震撼させている「BRILLIANT」嚆矢となった(寄せ集め)Mahler の全集ボックスです。(2000年購入)現在も現役でスリム・ケースになっておりました。ワタシは(相変わらず)少々乱暴なコメントをしており、その後、個別に少しずつ見直しをしているが、有名なるホーレンシュタイン録音のみは、当時のまま放置状態。反省します。なお、この全集を購入した直後に「ホーレンシュタインの第3番単品を、件の全集より高く購入してしまった!」とのメールをいただいた記憶もあります。(無意味に嬉しい)

 ワタシはこの長大なる作品(97分に及ぶ大曲)を愛します。個々の楽章はどれも深刻悲劇的なものではなく、夏の喧噪とか、気怠い汗、子供の頃の楽しかった思い出が綯い交ぜとなって、とても懐かしい。ホーレンシュタイン盤を初めて聴いたときには

ベスト演奏との呼び声も高いし、ワタシも立派な演奏と認めるに吝(やぶさ)かではないが、現在ではもっと弾むような、楽しげな演奏はたくさんある。
・・・おお、傲慢極まりないコメント、いまとなっては赤面するばかりですな。ようはするに、ちゃんと聴いていないだけ。まず録音が上質であることを特筆しておきましょう。繊細な響きと奥行きがクール。サウンドが濁らない。ホーレンシュタインの正規録音は多いとは言えず、また、(ライヴ収録含めて)一般に音質が良好であることも稀なんです。

 ロンドン交響楽団は想像通り、素直で上品、艶やかな響きで鳴っております。圧倒的大爆発的サウンドではないが、指揮者の意向に添った、ていねいで透明度の高いアンサンブル〜当たり前かも知れないが、ティルソン・トーマス/ロンドン交響楽団(1987年録音)を思い出しましたね。ちょっと最近、クセのある演奏を多く聴きすぎたのかな?とても穏やかな気持ちで、全曲楽しめました。

 テンポは(かなり)ゆったりとしていて、第1楽章「パンが目覚める〜夏が行進する」は33分以上〜数字上ではさほどではなく、聴覚上の印象か?。細部まで配慮が行き届いて、あくまで表情は冷静。それは素っ気ないものではなくて、噛みしめるように美しい旋律を刻印した結果でしょう。Mahler 特有の金管打楽器合体大爆発でも、その基本路線は崩れない。金管が鋭くならないのは、このオケの特徴でもあり、ホーレンシュタインの抑制でもあります。柔らかな木管でさえ、抑制を感じさせますから。19分頃のヴァイオリン・ソロとホルンの(夢見るような)絡みは、この楽章白眉(少々ずれるのもご愛敬)。それでも途中(22分頃から)のアッチェランド(「夏が行進する」ブラスバンドがあちこちから集結して大混乱に陥ったみたい!)の効果は際だちます。(マデルナ盤の阿鼻叫喚に比べればおとなしいもんだけれど)打楽器群の上手さには驚かされました。

 第2楽章「牧場の花が私に語ること」は、微細な味付け肌理細かい、繊細なるメヌエット。第3楽章「森の被造物が私に語ること」はスケルツォ楽章なんでしょうね。耳元でそっと剽軽な冗談を囁くような、そしてそれが徐々に大声になって大笑い・・・けっして急がず、着実な足取りでアンサンブルの仕上げも極上です。中間部のポストホルンはワタシがもっとも注目しているところでして、レーグナー盤に於けるギュトラーにかなう演奏は(残念ながら滅多に)存在しない・・・いえいえ、ここでの演奏だって充分牧歌的です。森の空気は清廉です。

 第4楽章「人が私に語ること」(ツァラトゥストゥラの真夜中の歌)は、ノーマン・プロクターの静謐で深い歌唱で語られます。ホルンが常にバックで支え、調子外れのようなオーボエ(?)はコールアングレ(イングリッシュホルン)ですか?第5楽章「天使が私に語ること」〜これは少年合唱団の楽しげな「ビン・バン・ビン・バン」の掛け声(+鐘)とともに、リズミカルに、幸せに歌って印象深い楽章でした。なんという澄んだ情感!不安なココロの揺れ、ささやかな喜び、すべて明快に表現される合唱水準の高さ、オケの細部の輝き。

 終楽章「愛が私に語ること」・・・ワタシはこの弦楽合奏の感動は、第5番「アダージエット」の魅力を上回ると思うんです。音もなく浜辺に潮がひたひた満ちるように、幸せをしっかり噛みしめるような、やはり極度に抑制されたアンサンブル。聴き手は集中して、このとぎれとぎれの呟きを聞き届けないと。ラスト、オーディオ音量調整をする羽目になることでしょう。終楽章大詰め、金管と打楽器が絶叫して、それは部屋を揺るがす迫力・・・ホーレンシュタインはここに焦点を当てて、ずっと抑制を利かせてきたことになります。それでも響きは濁らない。金管は高らかだけれど、鋭く尖らない。

 この落ち着き、静謐、透明な世界の完成度を堪能したら、「ベストワンとの呼び声も高い」ということにも一理有、と頷けるようになりましたね。

(2005年10月21日)


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written by wabisuke hayashi