Mahler

交響曲第3番ニ短調

ブルーノ・マデルナ/イタリア放送ミラノ交響楽団･合唱団/ボエセ（コントラルト）

ARKADIA 　CDMAD 028.4 1973年録音　4枚組$7.96にて購入

　3･5･7･9番で4枚組のうちのもの。イタリアのオーケストラとの共演で､VSOとの7番とは別録音となります。マデルナが亡くなる年の録音だけれど、あまり状態の良い録音とは言えません。乾き気味で､奥行きも残響も足りない。でも、これは楽しめる演奏なんです。5番の次に無理矢理第1楽章を収録するから泣き別れ状態。でも大曲4曲を4枚に収録してくれるからしかたがないか。

　第3番は長大(第1楽章だけで30分以上かかる)だけれど、こんなにウキウキして、わかりやすく楽しい曲はなかなかないと思います。ワタシはこの曲､アバド/ECユース・オーケストラ他（1988年ライヴ)のしっかりとして、端正なアンサンブルで馴染んだものだから､こんなマデルナのぐちゃぐちゃな演奏を聴くと驚きます。じつにアバウトで、自由で、好き勝手で､調子外れで､遊んで､ヘタクソで、よ〜く歌って、楽しい。

　これが本場(なんの本場？)イタリアの演奏ぶりなんでしょうか。マデルナがそうとうにテンポを揺らすせいもあってか、縦の線が全然合わない。が、かえってそのことで、いろいろと音が突出して面白いし､各パートがノビノビと歌っているようで盛り上がります。妙に表情が明るくて､陽気で､軽くて、深刻にならないところに好感が持てる。でも、ちゃんとMahler の退廃的で怪しげな味わいが出ているし､血の通った熱気もある。混み合った酒場の雑踏のような演奏なんです。

　どのパートもあまり上手じゃありません。冒頭のホルンぶちかましも、あまり魅力的な音色じゃない。トランペットも怪しい。管楽器は要らぬ意味深さを作らない。弦はピッチがよろしくない。あちこちミスタッチも盛大だけれど､これが不思議と気にならない。録音のせいもあって、全体に響きが薄いが､重苦しくなくて聴きやすい。

　第1楽章は、いろんなエピソードが長々しく､しつこく繰り返されます。テンポも縦線も崩れきって打楽器も大爆発して「あれあれ？」と思った挙げ句､唐突に小太鼓の行進がまったく関係ないほうから突入してきて流れが切断〜というか仕切り直し､これはもの凄く新鮮でした。

　第2楽章「花が語る」。静謐な冒頭と､騒がしい中間部の対比が極端な表現。あいかわらずテンポはどんどん変わります。第3楽章は急行です。おしゃべりしながら､早足で散歩するかのような元気良さ。(ラストは大騒ぎで締める)第4楽章のコントラルト・ソロは、知的で落ち着いていてワタシ好み。ここポストホルンが楽しみだけれど､ギュトラー（レーグナー盤)の妙技を知っていると物足りないか。

　第5楽章「活発な速度で､表出は大胆に」は、子供達の合唱が入るでしょ。ま、当然リハーサル済みでしょうが､快速のテンポで､児童合唱団崩壊状態。なにがなんやらワケわからんようになって、ようやく途中から主旋律が見えてきて、各パートも落ち着いてひと安心。スリリングでこれほどドキドキする演奏も珍しい。

　終楽章は、静かな弦が諄々と歌って､やがてすべてのパートが融合して感動が広がっていく名曲中の名曲です。この弦がショボく、(録音のせいもあるが）薄い。ホルンだって自信なさげ。が、全体構造はわかりやすくて､繊細な呼吸もあり､歌心に溢れてちゃんと心の琴線に触れてくれるんです。ラスト20数分の緊張感は途切れずに､怒濤の盛り上がりとなって全体を締めくくるが､聴衆もワタシと同意見だったらしく､拍手が盛大で暖かい。

　これは新時代を切り開くMahler だなぁ。あんまり四角四面じゃなくて、明るく楽しめる演奏なんです。細部にこだわらず､大掴みで､ま、オーケストラも録音も絶好調とは言えないが､馬力とノリで存分にエンターティメント。 （2001年10月12日)