Beethoven 交響曲第1番ハ長調/第3番 変ホ長調「英雄」
(ヨーゼフ・クリップス/ロンドン交響楽団)
Beethoven
交響曲第1番ハ長調
交響曲第3番 変ホ長調「英雄」
ヨーゼフ・クリップス/ロンドン交響楽団
Madacy TC252319(EVEREST EVC 9010/14) 1960年録音
往年の名匠Josef Krips(1902ー1974墺太利)によるBeethovenの交響曲は2005年以来の再聴。もうお仕事も引退して一年、昔馴染み原点に戻りたい気持ちも新たに拝聴いたしました。懐かしい廉価盤LPコロムビア・ダイヤモンド1000シリーズ以来旧知の存在、怪しい劣悪復刻含めてCDは4-5回ほど買い換えてEverestオリジナル(EVEREST EVC 9010/14)もとうに手放しました。データ音源再入手したのはキャンディ箱のようなMadacy(TC252319)より。Everestは優秀な音質を誇って、この全集音源もそう悪くはないけれど、音の肌理が粗く、イマイチな鮮度はマスタリングの問題もあるらしい。その筋の専門の方によると、オリジナルの荒々しい迫力が抜けて、おとなしくなっているんだそう。低音もあまり効いておりません。古今東西一番人気な永遠の名曲揃えて、かつてBeeやんの強面を押しつけがましく感じて、しばらく苦手としていた思い出も今は昔。こんな優しい演奏だったらもちろん大丈夫。
ハ長調交響曲は29−30歳青春の若い作品。
第1楽章「Adagio molto - Allegro con brio」の序奏はちょっぴりあちら方面の変わった風情に開始。晴れやかな旋律には陰影もあって、旧来の古典派の作品から一歩踏み出した大胆な始まりでしょう。もちろんクリップスはマイルドなタッチに柔らかく開始、それはヴィヴィッドな主部に入ってからも変わらぬものでした。これを弱いと感じるか、端正な抑制と受け取るかは嗜好の問題でしょう。中庸のテンポにアクセントを強調しない、肩に力の入らぬ優しくも流れのよろしいBeeやんは自分の刷り込みでした。(9:21)
第2楽章「Andante cantabile con moto」 緩徐楽章のリズムはわずかにスウィングして、淡々として陰影は豊かにそっと歌う変奏曲。華麗なる加齢を重ねると静かにゆったりとした楽章を好むようになるもの。微笑みを浮かべたような風情ですね。(6:29)第3楽章「Menuetto, Allegro molto e vivace」はメヌエットになっているけれど実質上のスケルツォとのこと。時代的に先駆ですよね。上機嫌に疾走してもあくまでタッチはデリケートに力みない表現、あくまで中庸のバランスを崩しません。(3:57)
第4楽章「Adagio - Allegro molto e vivace」短い序奏からヴァイオリンは躊躇いがちに静かな旋律を奏で、やがて微笑みを浮かべて軽快に疾走します。ここも過不足のないバランスを感じさせるところ。この時期のロンドン交響楽団は1970年代以降のスーパー・オケじゃないけれど、ややノンビリ牧歌的なテイストも悪くないでしょう。(6:26)
浪漫派への幕開けを告げる傑作「英雄」は、いまや全9曲中もっとも拝聴機会の多いお気に入り作品。颯爽と優雅に軽快な第1楽章「Allegro con brio」冒頭2回の和音ぶちかましも抑制が効いて、特別なアクセントとか煽るような表現皆無、テンポも揺れもほとんど存在せず淡々として中庸穏健、涼し気な微笑みを浮かべて力みがない。提示部繰り返しなしは残念。(14:53)
第2楽章「Marcia funebre: Adagio assai」ここは眉間にシワなBeeやん面目躍如な葬送行進曲。ここも粛々と心持速めのテンポに、穏やかな流れが続きました。慟哭詠嘆を強調しない、むしろ軽快な足取り、各パートの響き合いバランスも良好です。7分過ぎからの高揚には充分に優雅な説得力有。(12:54)第3楽章「Scherzo: Allegro vivace」は蒸気機関車の疾走場面。ここは大騒ぎパワフルに演って欲しいところだけど、そっと静かに始まって、過不足のない爆発も抑制が効いて気品を感じさましたた。トリオのホルン三重奏はなかなか立派、アンサンブルには不満を感じまさません。(5:57)
第4楽章「Finale: Allegro molto」は変奏曲。雪崩を打つような冒頭から、ピチカート中心の静かな主題提示、10の変奏は優雅に表情を刻々変化させてカッコ良いところ、クリップスはあくまでクールにアツく激昂せず、じわじわといつのまにか熱を加えました。途中ホルンと木管の優しい掛け合いも美しいところ、ホルンの強奏も決まっております。ラストのコーダは充分力強い。(11:23)
パワフルな一流オーケストラの厚みや、古楽器による粗野な響き、叩きつけるような切れ味鋭いリズムも大好きですよ。音質今一歩、ヨーゼフ・クリップスはスケールも大きくないし、力で押し切らないけれど、優しくも新鮮薄味な「英雄」を堪能いたしました。 (2023年1月7日)
Beethoven
交響曲第3番 変ホ長調 作品55「英雄」
交響曲第4番 変ロ長調 作品60
ヨーゼフ・クリップス/ロンドン交響楽団
FAT BOY(EVEREST録音) FATCD420/2 1960年頃録音 500円で購入
毎年、春とともに何故かMY Beethoven ブームがやってくる・・・・・・。(なんて言ってる間に夏)コルトーのフランクを久々に聴いて「!」と思ったのもつかの間、深い眠りに入ってしまい、コメントは先送り。で、結局ワン・パターンのべーさんに心委ねる阿呆なワタシ。クリップスとワタシとの、昔からの深い関係(勝手にそう思っている)は、「第7・8番」を参照のこと。
「贅沢三昧〜Beethoven 編」にも書いたように、交響曲のCDはけっこう沢山(ほぼ無意味に、無定見に)所有。はっきり言って、調べないともう枚数はわからないし、忘れているものもあるはず。その中でも、やはりこのクリップスの演奏は、とくべつな個性だと思うのです。そりゃフルトヴェングラーやクナ辺りも「特別」ですよ。そういう「コ〜い系」個性じゃなくて、「お上品系」個性というか「非リキみ系」個性というか、ズバリいま流行の「癒やし系」か。
ずらり9曲・名曲揃いのなかでも屈指の説得力を持つ「英雄」。(題名がなんとも凄い)たいてい、どんな演奏を聴いてもいろいろと発見がある。(ま、この曲に限らずBeeやんのはどれも)すべての音に入魂の入れ込み演奏、ゴージャスにオーケストラの豊満な響きを楽しませてくれるもの、逆に贅肉はすべてそぎ落として、骨格が透けて見えるようなの(ギーレン/シンシナティ響の演奏!)とか、素朴で古雅な味わい系、等々、いろいろ、様々有。
冒頭の二つの和音から、スッと肩の力が抜けて、(やる気を抜いているわけじゃないけど)音楽が本来持っている魅力に、いつのまにか巻き込まれてしまう不思議。ノリ。LSOは響きが濁らない。フレージングが上品。「葬送行進曲」も、主題提示がさりげないというか、なんの工夫もないように見えて、変奏が繰り返されてうちに、なにか大きな流れに知らず知らずに身を任せてしまうような〜「クリップスのCDを聴いている」のを忘れてしまうような〜快感。
スケルツォの軽妙ともいえる流れの良さ、中庸でありながら、ひとつひとつのフレーズを、ていねいに透明に表現してくれる終楽章のワザ。にじみ出る歓喜の歌。自然体は最後まで崩れない。
第4番もさりげない。嬉しげで、明るく、弾むような第1楽章。フルートとファゴットが、明るく美しいこと。低音が軽い・・・・というか、わざと重厚さを避けているようなかんじ。アダージョは、この人の個性がいつも良いほうに出て文句なし。終楽章は、(この楽章に限らないけれど)よけいな旋律のふくらましも、なにもないのになんと充足感の深いこと。LSOの色気ある響きは、この時期特有でしょうか。
結論としては、「第7・8番」となんら変わらないワン・パターン。これでいいんです。いつも馴染みのガンコ親父Beeやんですが、厳つい顔が、いつになく穏やかで機嫌がいい。こんな演奏だったら、棚からCDを出すのに気持ちが萎えることはない。(Beethoven って、聴くのに根性固める必要がある・・・・こともある)
このFAT BOY盤はやや海賊(勝手にCD化)臭くて、音の劣化が目立ちました。EVERESTの正規盤全集が安く出ないものでしょうか。どこかの中古屋さんで2,000円くらいが望み。見つけたら、すぐ買うんですけどねぇ。ムリか。 (2000年7月20日更新)
比較対象盤
やっぱりジンマン(ARET NOVA)でしょ。ほんとうは思いっきり個性的で、クドいくらいの歴史的名盤を持ってきたいけど、最近は(年齢いったせいか)薄味で、すっきりしたのがいいな。でも、ダシが下品なのはダメ。
【♪ KechiKechi Classics ♪】 ●愉しく、とことん味わって音楽を●
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