Grieg 管弦楽作品集
(モーリス・アブラヴァネル/ユタ交響楽団/室内管弦楽団)


VOXBOX CDX5048 Grieg

交響的舞曲 作品64
ホルベアの時代から 作品40
演奏会用序曲 「秋に」 作品11
2つの悲しき旋律 作品34(「胸の痛手」「過ぎた春」)
十字軍の兵士シグール 作品56
ペール・ギュント 第1組曲 作品46
ペール・ギュント 第2組曲 作品55
ノルウェー舞曲 作品35
通りゆく婚礼の行列 作品19
トロルドハウゲンの婚礼の日 作品65
山の夕暮れ(ゆりかごにて) 作品68-4&5
叙情組曲 作品54

モーリス・アブラヴァネル/ユタ交響楽団/室内管弦楽団

VOXBOX CDX5048 1975年 2枚組中古840円にて(再)購入

  経済は回復方向だそうだけれど、取引先では「ボーナスが昨年の半分」という話題とか、それはまだマシでお仕事が不如意だったり、病気で苦しんでいらっしゃる方のお話しを伺ったり・・・それに比べ、自分の”贅沢”について、少々苦く反省してしまいました。Griegは旧文部省選定の小学生向け音楽だけれど、本来は少々マニアックで民族的ローカルな旋律が魅力なんです。叙情小曲集(CD3枚分)なんて、ほんまに宝石を鏤(ちりば)めたような珠玉の旋律の宝箱〜大好きです。

 ”贅沢”とはなにか・・・ウェルドンの管弦楽作品集はお気に入りであり長く愛聴しているし、ペール・ギュント(12曲+叙情組曲)はバルビローリ盤(1968/69年)、他BRILLIANTの2枚組(エルムレールとかバットの指揮による)、ヤルヴィ/エーテボリ交響楽団(1986/87年)、ピアノ協奏曲だったらいったい何種手許にあるのか・・・ま、安いものばかりだけど、目に付いたら、美しく懐かしい旋律を次々と入手できる〜そんな行為でしょうか。

 挙げ句、このアブラヴァネル2枚組は「出戻り買い」(一度処分して再び購入パターン)でして、こうなると”贅沢”ならぬ単なる”無駄遣い”ではないか、そんな感慨もないではない・・・いずれ、おそらくは10年ぶりの再会、これも「Kechi之神」の啓示(天罰)か・・・ワタシはこの音源に真正面から向き合わないと。音楽を楽しむことこそが、ほんまの贅沢であります。

 まず、選曲が素晴らしい、というかお得。ウェルドン盤収録はすべて含まれ、+ペール・ギュント+交響的舞曲+少々馴染みの少ない、美しい管弦楽小品が含まれます。久々の確認では、音量レベルが低いこと、録音が(1975年にしては)あまりよろしくないこと・・・それが、以前このCDに好印象を持てなかった要因でしょうか。現在なら、「ヘロさに味がある」という哲学的境地に達しているので、ちゃんと楽しめるもんですな。

オーケストラが美しくない、アンサンブルが洗練されない(これほど哀しく美しい旋律はない!という2つの悲しき旋律「胸の痛手」「過ぎた春」の弦楽もまことに残念!)、リズムが少々緩い(ホルベアの時代から)、メリハリ爆発もう一歩(交響的舞曲)、挙げ句音質状態今一歩、これだけ(悪)条件揃えても、ワタシはこの洗練されない田舎臭さを愛します。

いや、それでも音楽は美しい、と。(音楽日誌2005年12月より)

 けっして洗練された響き、緻密なアンサンブルではないが、ワタシはどれも楽しんだということです。「交響的舞曲」は、剽軽な旋律がとても楽しく、シミジミと懐かしい歌に溢れます。まるで交響曲のような4楽章の体裁を取りつつ、その実、お伽噺のようなローカルな旋律が次々と登場して楽しい27分。”メリハリ爆発もう一歩”とは以前のワタシの感想だけれど、アブラヴァネルのややノンビリした表現にはちゃんと味があるし、作品に似合ってさえおります。(でも、弦が薄いなぁ)

 古今東西の弦楽作品中、屈指の名曲と(個人的に)思う「ホルベア」だって、”リズムが少々緩い”とはなんたる言い種。アンサンブルに緻密さは足りないけど、清涼感があるし、ココロが揺れるような切なさも、ユーモアもちゃんと存在します。艶やかな弦とは(間違っても)評価できなくとも。序曲「秋に」は、少々大仰なる出足からはじまる劇的な作品であります。響きが濁る(とくに弦)ことと、全体にまとまり、見通しが少々悪い演奏だけれど、フル・オーケストラの豪華な響きが楽しめました。

 ”これほど哀しく美しい旋律はない!という2つの悲しき旋律「胸の痛手」「過ぎた春」”・・・これは再び弦楽合奏となります。切々と歌って聴き手に涙を誘う誠実さはあるけれど、アンサンブルの集中に不足してやや残念。「十字軍の兵士シグール」は「王宮にて」、間奏曲「ボルグヒル(ボリヒル?)の夢」「凱旋行進曲」の3曲からなっていて、劇音楽なんでしょうか。 最初の2曲は様子がよくわからない演奏だけれど、「凱旋行進曲(勝利の行進曲)」は勇壮で良く歌う、華やかで堂々たる音楽に仕上がりました。(ここまで1枚目)

 さて、2枚目は著名なる”ペール・ギュント”、せっかくの2枚組にそれなり全曲風収録をしないで、組曲のみ録音で済ますのがVOXらしいところでしょう。子供の頃から馴染み(小学校の音楽室で聴き、親にせがんで17cmLP〜フィードラー/ボストン・ポップス管弦楽団を買ってもらった)だけれど、正直なところ何度聴いてもオモろくない、細切れ断片作品。(とくに「朝」。ピアノ独奏版のほうが楽しい)「これがGriegの代表作!」と思われては困る!ま、合唱でも加えてくださって、ハデにやってください。(「山の魔王の洞窟にて」〜この録音に女声合唱が入っているのかは微妙?ようワカらん)やや知名度の落ちる、第2組曲の方が旋律は多彩だと思います。残念ながら名旋律「ソルヴェイグの歌」はオーケストラのみの演奏。弦もショボいです。

 「ノルウェー舞曲」はウェルドン盤でも楽しんだ、ユーモラスで軽快素朴な懐かしい舞曲風旋律連続です。これはオーケストラのよく鳴っているし、洗練されない田舎風サウンド・オーケストラが絶妙にマッチして楽しさ抜群。「通りゆく婚礼の行列」「トロルドハウゲンの婚礼の日」も同様の味わい深い、ちょっと切ない作品でして、おそらくは初めて聴いても”どこかで耳にしたことがある”と感じる小品集。この暖かい旋律こそGriegの代表作としていただきたい。以前にも書いたけれどDvora'kのスラヴ舞曲集に似て、それをいっそう叙情的にした・・・そんなテイストであります。(個人的にこの2枚組中の白眉!と断定)

 「山の夕暮れ」はオーボエが静かに歌い始める哀しげ佳曲だけれど、弦が少々デリカシーに欠けるのが残念(以下、同様の印象)。これはいかにも子守歌風の暖かい作品でしたね。ピアノ作品(叙情小曲集第5巻より)からの編曲である叙情組曲には、くまぐすさんの詳細なる解説があります。(勝手に引用ご容赦)聴き手を泣かせ(「羊飼いの少年」)、夢見ごごちの下降旋律がいつしか快活に盛り上がり(「ノルウェー農民の行進曲」)、漆黒の闇の妖しさであり(「夜想曲」)、伝説のこびと達(ムーミンもその仲間なんですね!)のちょっと怪しげ快活な動きを表現して(「こびと達の行進」)くださいました。

(2006年3月10日)


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written by wabisuke hayashi