Mahler 交響曲第7番ホ短調
(レナード・バーンスタイン/ニューヨーク・フィルハーモニック1965年)


FCD-321-322 ある意味稀少盤・・・だけれど Mahler

交響曲第7番ホ短調(1965年)
「亡き子をしのぶ歌」(ジェニー・トゥーレル(ms)1960年)

レナード・バーンスタイン/ニューヨーク・フィルハーモニック/ザビンスキー(マンドリン)

FIC FCD-321-322(CBS/SONYの海賊盤) 2枚組800円(+諸経費でオークション落札)

 この作品はお気に入り・・・ま、だいたいMahler は大好きで、次々と全集を購入したりしているから「第7番」とも少々疎遠になりがち。現代演奏会のレパートリーに定着するに絶大なる功績を誇った、レナード・バーンスタイン旧全集は未だに全曲を聴く機会を得ません。で、オークションで怪しげ、未知の駅売海賊盤を見掛けたので思わず落札!(って、流石にワタシ以外の入札者はいなかった)

Mahler 交響曲第7番ホ短調 ショルティ/シカゴ響 1971年録音 @250*2枚で購入 レナード・バーンスタインの前に、ショルティ/シカゴ交響楽団〜「わかりやすい演奏だと思うが、とんでもカンチガイ方面か?でも、演奏としての完成度抜群!」・・・とはかつての自らの感想だったが、とくにかくシカゴ交響楽団が滅茶苦茶上手い。各パートの研ぎ澄まされた技量と、洗練されたアンサンブルの集中力の精華。英DECCAの録音技量もそれに華を添えているのだろうが、透明かつクリア+強靱なる響きにココロ奪われ、それだけで感動を呼びます。でも”摘み聴き”だから・・・例えば、終楽章なんかとてもヤバい演奏だった記憶もあります。「個性」とは比較対照すべき事象ではないと思うが、少なくとも耳当たりの良さに於いて、レナード・バーンスタイン盤とは雲泥の差か?・・・(「音楽日誌」より)

 で、再度レナード・バーンスタインに戻ると、「やや粗野なアンサンブルで、細部明快に表現していて(微細パートの様子もわかる/例えばギターとか)粘着質+アツい表現に間違いはないが、立派な交響曲として仕上げる意欲を感じました。難解なる作品だけれど、ずいぶんとわかりやすい。それにしても、この辺りのニューヨーク・フィルのアンサンブルは少々いただけませんね。録音が乾燥気味なのは、正規盤じゃないから安易な評価を下せないが」(「音楽日誌」より)

 ・・・やや粗野なアンサンブル、あまり上質とは言えぬオーケストラの響き、そして録音〜ざわついた怪しげな雰囲気と熱気。耳当たりがよろしくないからこそ、作品の個性に似合って、ザラついた情感が表現される、妙に気になる演奏でした。この作品の白眉は第2楽章「夜の歌T」第2楽章「スケルツォ(影のように)」第3楽章「夜の歌U」だと思うが、両端楽章をきちんと表現してこそ交響曲作品として、きちんとケリを付けられる・・・問題はそこだ!

 整っていれば、オーケストラが上手ければそれで良し〜音楽はそんな単純なるものじゃないでしょう。胡散臭げで、未整理な印象満載の第1楽章をきちんと交通整理しちゃうと台無しかも。洗練されない、表面を磨き上げない、まとめないからこそ、巨魁なる楽章とムリヤリ悪戦苦闘して、ついには詠嘆に至る・・・雰囲気があって、それこそが、この作品の真実の魅力であります。少々汗臭いが。

 このテイストを(この作品白眉である)第2/3/4楽章まで引きずっております。美しくない、艶やかではない。重い。無骨で、聴き手の耳を逆立てるようなアクセントとアクと、テンポ変化の連続。サラサラと聴き流すことを許さない、不正確なるリズム。第2楽章「夜の歌(セレナード)T」は、饒舌なる二枚目の愛の告白ではないでしょう。第3楽章「影のように」は、暗く不安げなる表情+ティンパニ、チューバの楔(くさび)が、いっそう不器用な情熱を感じさせます。ヴァイオリン・ソロだって、地底の徘徊風。

 前述、ショルティ盤にてとことん磨き上げられた第3楽章「夜の歌U」は、遣る瀬なく、引きずるように表現されました。ギターやマンドリンが鮮明に出現するが、あくまで甘美方面ではなく、グロテスクな作品としての不安なるテイストを崩さない・・・

 終楽章は、ほとんどの演奏が”今までの雰囲気ぶちこわし元気一杯明快大爆発的エンディング”に持ち込もうとしますね。レナード・バーンスタインは”元気一杯明快大爆発的エンディング”に間違いはないが、”今までの雰囲気ぶちこわし”ではない。ザラついた未整理な響きと、交響曲としてのエンディングを見事に両立させ、熱狂的やかましい結末を迎えました。全曲の整合性(あくまで怪しい作品だ!)はちゃんと保たれました。いやぁ、それにしても当時のニューヨーク・フィルって、アンサンブルあまりよろしくないですね。(第5番でも同様の印象有)この躓(つまず)き感が作品に相応しい。

 ジェニー・トゥーレル(Jennie Tourel 1900年?〜1973年ロシア出身。レナード・バーンスタインとの録音は沢山有)の「亡き子をしのぶ歌」が余白に収録されます。録音は、こちらのほうがエエんじゃないの?バックのアンサンブルだって。このメゾ・ソプラノは深みがあって、高貴、雄弁ですね。この作品はナマで聴いたことがあって、その室内楽的な伴奏に驚いたものです。

 レナード・バーンスタイン率いるオーケストラは熱狂と緻密さが同居した、まったく立派なものでした。演奏そのものの完成度としては、交響曲よりこちらのほうが高いのか。

written by wabisuke hayashi