Holst 組曲「惑星」
(エイドリアン・ボウルト/BBC交響楽団1945年)


HISTORY  204562-308 Holst

組曲 「惑星」

エイドリアン・ボウルト/BBC交響楽団
(このCD表記ではBBC管弦楽団/間違いでしょう)

HISTORY 204562-308 1945年録音 Bedford, England The 20th Century Maestros 40枚組(5,990円税抜/購入)のウチの一枚

 2007年再聴。「The 20th Century Maestros40枚組」は、ずいぶんとダブり収録に悩まされたけれど、少々の時を経て稀少盤となりつつあるでしょう。(c)(p)とも2000年となっていて、岡山駅前のタワーレコードにて予約購入した記憶があるからその年に即購入したのでしょう。「音楽を幅広く聴く」ことを旨としているから、これはこれでずいぶんと楽しみ、そして他の(激安)ボックスもの(単一演奏家10枚組セット)でダブり買いも増えて悩みの種に。エイドリアン・ボウルト(1889-1983)の(歴史的録音)10枚組セットが出現しなかったのは、人気がないせいですか?

 「惑星」は昔からの人気作品だけれど、平原綾香の「ジュピター」(2003年)でいっそう知名度を上げたようです。(彼女は大好きだけれど、この作品に関してはオクターブの使い分けに違和感有。つまり音域にムリがあるということだね)「惑星」ばかり何種もCD手許にあっても仕方がない〜と(1990年代当時は)思っていて、エイドリアン・ボウルト/ウィーン国立歌劇場管のCDを早々に処分したのも若気の至りでした。(その後、1,350円中古で見掛けたけれど、手が出るはずもない)最近は、意外と「スタンダードなる英国音楽のひとつ」として愉しむ機会も増えました。

 定評あるロンドン・フィルとのラスト録音(1978年)は今年2007年初頭に(ようやく)入手、その横綱貫禄ぶりを堪能したものです。再聴のキッカケは作曲者自身の録音(ロンドン交響楽団1926年)が、意外とツマらなかったこと(即断禁物だけれど)以前のコメントが残っているようにサイモン・ラトル/フィルハーモニア管弦楽団の演奏には失望した(現在の耳ではまた別な評価があるかもしれない)し、カラヤン盤(ウィーン・フィル1960年)には粗雑な印象しかなくて処分済み。

 「火星」の激しく勇壮なるリズム(5拍子)に不足はない。モノラルながら音の鮮度、迫力と推進力・集中力に溢れていて、ボウルト56歳壮年の活気漲(みなぎ)ります。静謐なる「金星、平和をもたらす者」において歴史的録音の水準は問われるものであって、その優しく繊細、深い歌に胸打たれます。ヴァイオリン・ソロは切ないですね。全曲中、この楽章の蕩々とした旋律がもっとも”英国音楽”の穏健さに相応しい印象有。

 「水星」はスケルツォ、キラキラと輝くような(小さな)躍動連続します。やがてシンプルな旋律繰り返しが爆発して溜飲を下げる・・・この辺りが「惑星」のわかりやすさでしょうか。この楽章の、足取りの確かさも特質しておきましょう。(個人的にはここが一番のお気に入り)そして、全曲の白眉「木星、快楽をもたらす者」へ。これも「スケルツォ」なんですね。テンポを揺らせて細工をしたいところだけれど、ボウルトは剛直な推進力で骨太でした。BBC交響楽団の金管の優秀さを実感させて下さる輝かしさ。(当時は戦争の影響で団員も疲労していたでしょうに)

 中間部「アンダンテ・マエストーソ」が綾香ちゃんの「ジュピター」であって、たしかに流行歌になりえる甘美かつ勇壮なる旋律であります。英国でも人気だそうで「“I vow to thee, my country”(私は汝に誓う、わが祖国よ)」との歌詞付きで歌われたり、先日悲劇的な闘病生活を終えた本田美奈子のアルバムにも収録されているそう。ボウルトの「横綱相撲」的イメージは、ここでの盤石の表現に由来します。

 「土星、老いをもたらす者」は、作曲者自身が一番気に入っていたらしいが、ずいぶんと地味で暗鬱な楽章ですな。リズムはElgarの交響曲第1番第1楽章に似て、暗いまま激昂していくような重さがある。ボウルトはダメ押しのド迫力で乗り切りました。「天王星、魔術師」〜これも「スケルツォ」だけれど、かなり激しい動きを伴うもので、リズムは「魔法使いの弟子」そのまま。そこからユーモアを引いたような、いえ英国人にはこのシニカルさが充分なるユーモアなのか。低音金管、ティンパニ、タンバリン、シンバルの大活躍・爆発がツボです。ここも本来的にオーディオ水準がものを言うところ。この音質であれば文句なし。

 ラスト「海王星、神秘主義者」へ。女声合唱が加わって、まさに神秘的に静謐な幕切れ。Vaughan Williamsの交響曲第7番「南極」を連想させます。宇宙の果て、小さく煌めく星屑のようなサウンドに、どこからともなくこの世のものとは思えぬ神秘の声が降り注ぎます。資料的価値としてではなく、現役の存在としての”歴史的録音”との手応え、充分。作曲者Holstの自演(1926年)には再度挑戦してみましょう。

(2007年9月7日)

 この曲は、オーディオ的な効果がものをいう曲の代表的なもの。1960年録音のカラヤン盤で一気に人気が出た、との話しをきいたことがあります。地味渋系が多いイギリス音楽のなかでは、珍しくかなり派手派手しい。けっこう好きで、意外と聴く機会も多い曲です。(ラトル/PO盤には失望しました)

 エイドリアン・ボウルトは初演者であり、のべ5回も録音しているという強者。(BBC響〜フィルハーモニア・プロムナード管〜ウィーン国立歌劇場管〜NPO〜LPO)これは最初に録音したBBC響(SP)とのものでしょうか。それとも別な放送録音か?音質的にはともかく、けっこう堪能してしまいました。いつもながら、このシリーズは無理なノイズ・リダクションをしていないようで、比較的聴きやすい。音に芯もあって、そう不満を感じません。かなり上質。

 最晩年、1978年録音のが有名じゃないですか。(ワタシは「火星」「木星」のみBX705102で所有)これ、圧倒的自信に満ちあふれた、横綱相撲的貫禄演奏なんですが、この古い録音も負けてはいません。音質的には比べるべくもないのですが、「火星」における堂々たるルバートの決まり方、リズムの重量感にそう違いはない。推進力では、むしろ旧録音のほうが上でしょうか。

 「木星」だって、雄壮かつ幻想的な旋律の節回しに文句はない。が、さすがにこの楽章は新しい録音が効果的なのは言うまでもありません。しかし、やや前のめりの若々しい情熱には魅力があります。LPOは嫌いなオーケストラではないが、当時のBBC管(BBC響?)は、戦後すぐといった悪条件を越えて、一種色気などを感じさせる響きがあります。たとえば、トランペットやホルンの絶叫(天王星など)にはゾクゾクするほど。

 もしかして、ワタシの脳味噌の中では「音質的に不足しているもの」を、補って聴いているのかも知れません。この40枚組「The 20th Century Maestros」を買ったときに、一番危惧したのはこの演奏でした。杞憂一掃、海王星における女声の繊細な響きもちゃんと感じ取れるし、エイドリアン・ボウルトの骨太さが確認できる良い演奏でした。繰り返し、聴き続ける価値ある一枚。(収録曲の少なさは価格故か。残念)


Holstのほかの名曲

手元のカタログを見ても、Holstは「惑星」以外はほとんど出ておりません。ワタシは「集中して収集」癖はないので、たいしたCDは持っていませんが

「St.Paul's Suit」作品29の2

シュトゥッド/ボーンマス・シンフォニエッタ(NAXOS 8.550823)〜「English String Music」より1993年録音
ボートン/イギリス・ストリング管弦楽団(NIMBUS NI5210/3)〜「The Spirit Of England」より1980年代の録音

わずか10分くらいの小さな曲ですが、ややエスニックな旋律もあり、いかにも紳士の国然とした爽やかな曲。弾むような終曲に「グリーンスリーヴス」の旋律が絡むところは、何度聴いてもジ〜ンときます。溌剌としたシュトゥッド盤、やや叙情的なボートン盤、各々味わいがあって素敵です。(2001年1月19日)

ラトル/フィルハーモニア管弦楽団の「惑星」
スタインバーグ/ボストン響の「惑星」


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written by wabisuke hayashi