Schubert ピアノ・ソナタ第18番ト長調 D.894
(デヤノヴァ)



Schubert

ピアノ・ソナタ第18番ト長調 D.894
ピアノ・ソナタ ハ長調 D.613/612(未完成)

デヤノヴァ(p)

NIMBUS NI 1766-10  1994年録音   12枚組4,090円で購入したウチの1枚

 例(?)の二度と聴きたくないゲールマンの迷唱も楽しめるNIMBUS 12枚組「FRANZ Schubert 」ボックスに含まれるもの。このレーベルは既に倒産したから、見かけたら万難を排して購入すること。いえ、な〜んの保証もしませんが。Schubert は楽聖Beethoven とほぼ同じ時代を生きた作曲家だけれど、ワタシはこちらのほうがずっと好き。ピアノ曲も最高。

 ありがたいことにウチのBBSで話題になって、こうしてじっくりと聴く機会を得たのも、人生なにかのご縁でしょうか。数回は聴いていたはずながら、記憶なし〜情けない。たまたま偶然に、新しい、というか新しくはないが、中古で別オーディオ・セットを組んだところでして、「ピアノって、再生機器でずいぶん印象変わるね」との発見もありましたね。安物でも真空管の方が、ピアノの響きに膨らみを感じます。

 Schubert は短い人生だったが、最晩年の作品はいずれも「もう、歌がどうにも止まらない」といった、延々、とことん、朗々と、飽きるまで、美しい旋律が詠み込まれます。ちょっと助けてくれ、と言いたいくらいしつこい!40分はざら、一時間に至ることも希ではない。ハ長調交響曲然り、「死と乙女」、第15番ト長調弦楽四重奏曲だって、弦楽五重奏曲ハ長調、八重奏曲ヘ長調も然り、そしてピアノ・ソナタ第18/19/20/21番然り。

 その息の長い「歌」を楽しめるか、耐えられないか。また、演奏者の質だって問われちゃう。一歩間違うと、聴き手を絶望の淵に・・・・この素敵な、夢見るようなト長調ソナタも、体調次第によっちゃ、いつのまにかほんまに夢の中で・・・ウツラウツラと〜そんな危険性もないではないでしょ。

 この曲、だいたい40分くらいかな、たいてい。ところがね、デヤノヴァ姉さんは第1楽章だけで30分、全59:35でっせ。遅い!というか、やたらと「間」も空いてます。だからなんなの?微速前進といえば、本家チェリビダッケを連想するが、あんなカッコマンじゃない。もっと、なんつうか、「さ、もうここまで来たんだから、慌てず、騒がず、ゆっくり、じっくり聴いていただきましょう」と覚悟を強制されるような、そんな演奏と思って下さい。

 人生、あきらめが肝心です。注意散漫になれば、旋律の「間」で聴き手が集中力を失うかも。遅い、速いが本質問題ではないにせよ、そんな才気走った説得力はないんです。正直、テクニック的に少々甘いのではないか、と、ド・シロウトなりに疑念を持ったりもします。つまり、旋律の流れが時に不自然に止まってしまう・・・・リズムがカタい。

 音色も美しいと言えないでしょう。とくに強奏時の響きの濁りが気になりました。旋律の表現にクセも感じます。でもね、この無骨で不器用な世界は、聴き手に安易な「聴き流し」を許しません。長い、なが〜い坂道をとぼとぼと、ゆっくり、まっすぐ進んでいくと、やがて夕日が沈む。(第1楽章)第2楽章「アンダンテ」は、日が暮れてもまだまだ歩みを止めません。若く、楽しかった頃の思い出が蘇ります。足取りは重いんです。

 第3楽章「メヌエット」の個性的すぎること。ゴツゴツとした、重々しいリズム。こりゃSchubert じゃない〜だからこそ、終楽章の優しさにほっとします。でも、やっぱり細部がどうも粗い印象がある。全編、デヤノヴァの個性横溢で、最後まで聴き通すのにけっこうな試練が待ってます。それでも、5回は通したかな?ここまで聴かないと音楽は見えないんですよ、きっと。ダメ押しながら、終楽章に解決感が感じられない。

 管弦楽では、さほどに不足を感じさせない拙宅トランジスタのアンプですが、ピアノは真空管アンプで印象一変します。ピアノの音がダンゴにならず、適度な残響の中から音の粒をちゃんと感じ取ることができます。NIMBUSのピアノ録音には一種特有のクセがあって、やや残響過多で、音の芯をとらえにくい。


 ハ長調ソナタは、もっと屈託がなくて、明るい作品です。デヤノヴァもト長調ソナタのように構えていないようで、素直に楽しめました。ま、いつものSchubert らしい珠玉の旋律の宝庫。輝きがあります。楽しい。

 終楽章なんて、まるでオルゴールですよ。こうしてみると、この作品では(器用ではないが)そうアクを感じさせない演奏だから、ト長調ソナタは確信犯なのかな。「未完成」だから、唐突に、ぷっつり終わります。ほろりと寂しい。


 このセットではほかに

ピアノ・ソナタ 変ホ長調 D.568
ピアノ・ソナタ イ長調 D.664
ピアノ・ソナタ ヘ短調 D.625/595(未完成)
そして有名なる第21番 ピアノ・ソナタ 変ロ長調 D.960
が収録されます。1993年〜1995年の録音。いずれもデヤノヴァ(p)の演奏です。

(2003年5月8日)


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