Mahler 交響曲第9番ニ長調
(ヘルマン・シェルヘン/ウィーン交響楽団1950年ライヴ)


Orfeo C228901DR Mahler

交響曲第 9番ニ長調

ヘルマン・シェルヘン/ウィーン交響楽団

Orfeo C228901DR 1950年 ウィーン楽友協会ホール・ライヴ 

 Mahlerの壮大デーハーな管弦楽編成は状態のよろしい音質で聴いたほうが良いに決まっております。近現代作品を熱心に養護していたHermann Scherchen(1891ー1966独逸)はライヴ含めて(第4番を除く)録音が揃って、音質は玉石混交状態。Membranの10枚組(600452)収録の第9番はシノーポリ/シュターツカペレ・ドレスデンが紛れ込んでおりました。

 そこで思い出したのが1950年ライヴ、世間では話題になってないなぁ、まったく。CDが高価だった当時、諦念に充ちた名曲中の名曲ははこれが一枚物で一番安かったから(駅売海賊盤)若く貧しかった若者(中年?=ワシ)は熱心に聴いて感銘を受けておりました。これは現在「第九」最短演奏なんだそう。四管編成(+ピッコロは別途)大きな編成、ま、音質は時代相応のライヴ。久々の拝聴はちょっぴり解像度が改善した・・・ような?気のせいかも知れません。

 第1楽章「Andante comodo」はぐいぐい前のめりに快速テンポ、熱に浮かされたように煽って乱暴なほどのフレージング、推進力。初演は1912年(ブルーノ・ワルター/ウィーン・フィル)1950年時点この作品受容は進んでいなくて、ウィーンでもMahlerの扱いは冷淡だったんだそう。未だ目新しい”珍しい”作品としての危うさ、力み。怪しい色気みたいな風情がたっぷり漂って、テンポは揺れ動きます。最終盤など消えゆくようにテンポは落ちるけれど、それでも通常聴かれるテンポより10分ほど短い。(21:07)

 第2楽章「Im Tempo eines gemachlichen Landlers. Etwas tappisch und sehr derb(緩やかなレントラー風のテンポで、いくぶん歩くように、そして、きわめて粗野に)」は優雅なレントラーが重苦しい。ここのテンポ設定は馴染みの流れとなります。途中快活にテンポを上げて、前楽章の前のめり表現が顔を出しました。やがて元のテンポにまったりと戻って、この危うい粘りが妙に新鮮。音質はイマイチだけど、低音は効いております。ラスト、テンポをモウレツに上げて焦燥感は募りました。アンサンブルは最近の整ってスマートなものとは色合いが違って、作品に慣れぬオーケストラを鼓舞している様子が見えます。(16:06)

 第3楽章「Rondo-Burleske: Allegro assai. Sehr trotzig(きわめて反抗的に)」もほとんど他の演奏とテンポは変わらず、やや速い程度。シェルヘンは叩きつけるような凶暴な疾走に、オーケストラを追い込んでおります。中盤以降はシミジミと歌って、たっぷり煽ってモウレツに走って揺れ動いて説得力充分。リズムのキレやら各パートはあまり上手いオーケストラとは思えず、アンサンブルもやや乱れがち。これが待ったなし一発録りのライヴでっせ。ラストのアッチェレランドは超快速。(12:05)

 第4楽章「Adagio. Sehr langsam und noch zuruckhaltend(非常にゆっくりと、抑えて)」は万感胸に迫るシミジミ変奏曲。熱に浮かされたように歩みは速め、そして弦は妖しいポルタメント。管楽器は音色の魅力に不足して、急いた足取りが落ち着かない。それでも時代の濃密な空気みたいなものはしっかり感じさせて、通常より5-6分ほど速いテンポ設定にも説得力は充分でしょう。若い頃「第九」はこればかり聴いていたから刷り込みなのかな、あらゆる条件乗り越えて作品を堪能いたしました。高らかな「生のテーマ」に感極まりました。(20:20)

(2022年7月9日)

FIC (オルフェオ海賊盤) ANC42→処分済 FIC (オルフェオ海賊盤) ANC42(電気屋さんにて680円で購入)→処分済/ネットよりパブリック・ドメイン音源にて拝聴可能

 21世紀も10年を経ると、それなり知名度のある(音質も良好なる)Mahler 全集は3,000円程で入手可能な時代となりました。わざわざノイズにまみれた歴史的音源にて聴くべき作品ではない・・・とは思うけど、ネットにてパブリック・ドメイン音源を発見したため、再び自主CD化して拝聴の機会を得ました。記憶はエエ加減なものだけれど、処分した駅売海賊盤より音質がややクリアに、奥行きを感じるようになった?(.mp3→.wav変換自主CDでも)と感じます。ちなみにシェルヘンのBeethoven 交響曲全集も(オークションにて)処分済。個性は尊重したいものだけど、異形なる爆演を称揚する趣味はございません。人様の嗜好はそれぞれ。

 2004年の再コメントは素っ気ないですねぇ・・・反省。大好きな作品だけれど、これといったお気に入りが見つけられないのも事実。カラヤンの旧録音(1979/80年)にはまったく共感できず、バーンスタイン/ベルリン・フィルのライヴ(1979年)は聴く機会を得ません。種々様々全集中に聴く演奏は、どれも拝聴すべき個性に溢れ、美しく感じたものです。LP時代FMにて拝聴したワルター/コロムビア交響楽団(1961年)を別格にすれば、このシェルヘン盤こそ本格的この作品と出会いだったんじゃないか。初心者が出会うべき音源ではないでしょう。音質的に整い、オーソドックスな表現で馴染んでから云々すべき”異形なる爆演”也。

 久々の拝聴は”テンションの高さ”、”せき込むように速いテンポ”、”前のめりで、熱気をはらんだ演奏”に間違いないが、けっして仕上げが雑とは思えない(アンサンブルが緻密とは言えぬが)。集中して拝聴すると、揺れ動くテンポの中から、あちこち甘美な節回しを感じ取ること可能。ウィーン交響楽団はヤワで地味なサウンド印象があるけれど、これほど煽られ、緊張を維持して疾走しているのもライヴ故の感興なのでしょう。第2楽章のレントラーは優雅かつリノリはあるが、ノンビリとして穏やかではない。不安げに揺れ動き、途中「きわめて粗野に」の指示通り狂乱の爆発が待っておりました。アッチェランドに走って、その切迫感が素晴らしい〜アンサンブルを犠牲にしても。

 第3楽章「ロンド・ブルレスケ」〜この荒々しい楽章はシェルヘンの個性に似合っているでしょう。アンサンブルは乱れ、各パートがばらばらになりつつ疾走は止まらない、そんな風情であります。表面を整えることより、粗野な勢い、爆裂、流れを重視したいということでしょう。ラスト相当な、モウレツ快速。オーケストラの技量は優秀とはいえない。ほぼ乱れ放し。

 終楽章「アダージョ」。終楽章を消え入るように締め括るのは大地の歌、交響曲第3番のパターンであって、後者とテイストがとても似ております。粛々纏綿と艶々美しい弦の聴かせどころ〜ながら、ウィーン交響楽団にそれは期待できないでしょう。当時まだ戦後の混乱期ですし、ザラついた音質上の問題もある。ざっくりと急いて、挙げ句、時代掛かったポルタメントも頻出、ヴァイオリン・ソロだって怪しさたっぷり。それはそれで(ちょっと苦しい感じで)クライマックスはやってくるんです。

 万人に勧めるべき耳あたりの良さではないが、時代の熱気みたいなものはダイレクトに伝わるでしょう。仕事疲れには聴取を避けたほうがよろしいかと。”美しい”演奏ではないので。

(2010年7月10日)


 一部の好事家に話題のシェルヘンだし、人気作品だから正規再発されているかと思ったが、その後出ていないみたいですね。(2004年現在)音質が相当に厳しいし、なによりこの作品特有の「危うい甘さ」みたいなものが消し飛んでいる演奏だから敬遠されているのかな?ワタシは時々聴いてましたが、音楽日誌で少々コメントをしたことを再掲。

上手い、とか、アンサンブルの水準とか、色彩が、などとは無縁の、勢いと切迫感のみの表現か。箒のような極太筆で一気に書き上げた前衛書道みたいなものでして、あれは書かれた「字」を読むものではないでしょ?あんな感じです。とにかくアツい。
 こうしてみるとBeethoven のライヴなんかと同一方向なんだな。(第2/7番第5/6番)これも爆演系トンデモ演奏の類か?時代の証言的雰囲気は楽しめるが、この作品の神髄を伝える代表的演奏、とは言い切れないと思います。いずれにせよ一度は聴いてみな、的一枚。お粗末な一文ご容赦。(2004年10月27日)


  これはオルフェオからかつて発売されたCDの海賊盤。個性派シェルヘンの面目躍如たる1枚。まだマーラー受容が広がる以前の、この曲が充分前衛性を持っていた頃の録音。そしてウィーンではまだ戦争の荒廃が残っていたはず。

 会場ノイズもあって、芳しい録音ではありませんが・・・熱気は凄い。むしろ雑音が、おどろおどろしい雰囲気を盛り上げます。

 冒頭からものすごいテンションの高さで、せき込むように速いテンポ。前のめりで、熱気をはらんだ演奏です。細部には拘泥せずに激しい勢いで聴かせ、「間」もなにもなくて、オーケストラのゆうゆうとした「歌」もない。
 第1楽章の後半戦でじょじょにテンポを落としていき、2楽章以上はわりとふつうのテンポで落ち着きますが、「熱」だけは続いて疾走します。長大なこの曲もあっという間に終わります。

   日常いつも楽しむ演奏ではないと思いますが、なんともいえない異様な雰囲気が聴き手の集中力を強制します。よく知っているはずのこの曲もイメージ一新。(良いほうにか?悪いほうにか?)

 VSOは指揮者に引きずり回されて、洗練された音を出すような状態ではなく、弦も濁るし、管だってちっとも合わない。テンポは大きく揺れる。オーケストラは力一杯弾いているのが目に浮かぶよう。全曲で69分、あっという間に終わります。酔うような演奏です。

   VSOというオーケストラは不思議な存在で、ときどきとんでもない録音を残してくれて、目が離せません。ベストではないが、凡百では語りきれない魅力あり。

 だいたい、この手の海賊CDは「いかにも」っていう感じの有名どころの録音が多いのですが、これは思いっきりマニアックですよね。FICの企画者がコッソリと自分の趣味を混ぜ込んだのか、たまたまCD1枚に収まる音源を探したのか、は不明です。(1998年)


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written by wabisuke hayashi