Vaughan Williams 管弦楽作品集
(ジェイムス・ジャッド/ニュージーランド響)
Vaughan Williams
トマス・タリスの主題による幻想曲
ノーフォーク狂詩曲第1番
交響的印象「沼沢地方にて」
グリーンスリーヴスによる幻想曲
合奏協奏曲
ジェイムス・ジャッド/ニュージーランド交響楽団
NAXOS 8.555867 2001年録音 924円(税込)
NAXOSはリーズナブルな価格で「聴いておくべき音楽」を揃えて下さる、素晴らしきレーベル。あくまで音楽が主で演奏者は従。「聴いておくべき音楽」とは有名曲とは限らず、ほとんどこのレーベルでしか手に入らない稀少なる作品も数多く発見できます。ワタシは、イギリス音楽、北欧の音楽、音楽史的な作品録音に、このレーベルの真骨頂が見られると思います。イギリスの中堅指揮者ジェイムス・ジャッド(1949〜)は、ニュージーランド響の音楽監督となっていたんですね。NAXOSには続々録音をする予定らしい。
ニュージーランド響は米VOXで、そしてNAXOSでかなりの録音を聴くことができますが、いずれ素直で線が細く、おとなし目の印象があります。個性不足かな?とも。ワタシ「タリス」「グリーンスリーヴス」が大好きだし、ほか知名度的にはやや下がる作品にも、同じような感動が待っているかも知れない・・・そんな期待を込めて購入した一枚。期待は裏切られず、予想を遙かに上回る素晴らしき瞬間が待っておりました。
イギリス人ってSibelius が得意でしょ?イギリス音楽と同質性が感じられませんか?美しい旋律を煽ることも可能だし、金管を威圧感タップリに爆発させることも可能〜でも、音楽が台無しになっちゃう。メカニック的に万全のオーケストラが最良の演奏をするとは限らず、一種独特の爽やかな感性が欲しいところ・・・ここに収録された作品は、いっそう旋律の動きが微細で抑制された表現が求められると思います。
つまりニュージーランド響に似合っているんじゃないか、ということだけれど、じゃ、Delius管弦楽作品集〜マイヤー・フレッドマン/ニュージーランド響(1994年)の演奏が万全か、と問われれば、少々印象が薄く、音楽の姿が見えにくい、と答えざるを得ません。つまりジャッドの成熟が前提にある、ということです。もちろん、オーケストラの個性は生かされているのは事実ですが。
「タリス」は薄味で息の長い、弦のみによる旋律が延々と続いて、雄弁であってほしくない作品。この15分、わかりにくい世界ですか?日本人ならわかるでしょ?山奥深く沸きい出る、銘水の味無き味、豆腐の微妙な味わいの深さ、そういう旋律であり、演奏です。細部入念で、個性は表に出ないが表面を整えただけの世界ではない。丹念に、入念に、清廉に、静かに囁かれる歌。
「ノーフォーク」「沼沢地方」には金管も入るし、時にやや大きめの声で叫ばれることもあるけれど、やはり懐かしく、少々後ろ向きの旋律が淡彩に黄昏(たそがれ)ます。いいですね。ココロが洗われる。迫力はないけれど、そのようなものは必要のない世界なんです。洗練されている、というより、元々さらさらした音楽なんです。ワタシはこの二作品は初耳だったけど、すぐ馴染みましたね。そして何度も何度も聴きたい、と。
「グリーンスリーヴス」は名曲中の名曲なので、別にうるさい注文付けるつもりはありません。オーマンディも良かったし、フィードラーのだってとても楽しかった。ああ、ここまで書いて思い出したけどボウルトは、虚飾ないストレート系だけど、けっこう骨太の魅力でしたね。ジャッドの表現は変わりませんよ。奥ゆかしく、静謐に、粛々と時が過ぎゆきます。説得力に不足はない。物足りないこともない。
「合奏協奏曲」は初耳どころか、その作品の存在さえ初めて知りましたね。かなり劇的であり、チカラ強く、旋律も多彩です。弦楽合奏のみで地味なことに変わりはないが、溌剌ととしたメリハリがジャッドの表現の多様性を物語ります。ここまで聴いて、やはりニュージーランド響は以前の印象とはちがうな、アンサンブルに自信と確信が感じられる・・・そんなことも理解できました。(2004年9月3日)