俵 孝太郎 「CDちょっと凝り屋の楽しみ方」コスモの本 1993年発行 1200円 「気軽にCDを楽しもう」の続編にあたっていて、ワタシの知る限りではこの次は出ていないはず。バブル崩壊の記憶も生々しい時期の発行で、21世紀を迎えようとする現在からは、少々前のものですが、内容的には旧さを感じさせません。 第1部「CD10年 聞き方・楽しみ方・集め方」という、一見ノウ・ハウ的な題名となっていますが、じつはクラシックCDを巡る現状の概論となっていて、今読んでも通用する内容の的確なこと。(当時)CDが出回ってちょうど10年、ソフト的にもハード的にも落ち着いてきて、国内盤の価格もこなれてきたこと。まだまだ出始めだったMD、DAT、PCMデジタル放送にも言及していて、いいところは突いてはいるが、MD隆盛(但し、使われ方の意味が異なる)の現在はさすがに予測できていません。 さすがジャーナリスト、貨幣価値や経済原理から説き起こして、やはり日本のCDは高いこと、豊富な音源を駆使した老舗レーベルは強いが、同時に(クラシックに限っても)信じられないほどの(マイナー)レーベルが発生し、多彩な録音を続けていることが報告されます。 で、メジャー・レーベルの価格は以前ほどではないが、やはり高い。輸入盤中心に廉価盤で優秀な演奏が手にはいるという主張は前著通り。VOXとNAXOSという、廉価盤界の2大レーベルの推奨です。(現在では同列には語れないほどの差が付いてしまったが)メジャー・レーベルも含めて、有名曲どころ(なかにはチャヴェスの交響曲全集、なんてのもありますが)だったらこんなのがあるよ、安く買えるよ、とのていねいなご紹介。 「コレクションに少数精鋭は成り立たない」というのは、その通りで、「お気に入り」は存在するけれど、「限定100枚」などでは足りるはずなどないし、スペース問題は悩ましいが、コレクションは(経済的に続くことが前提ながら)新陳代謝が必要でもあり、量も必要、とのこと。(1990年代の前半、ワタシは年間100枚のCDを買えば、50枚は売っておりました。いまではすごく後悔) 「無意味になった”決定盤”論争」は、昨今の完全に権威を失った「評論」と軌を一にした内容です。そして「廉価盤で自らの耳を鍛えよ」と、の結論。 第2部「私の好きな曲・好きなCD 毎週一枚」は、前著でのコレクション・ノウハウを一歩進めたもの。なかなか選曲がマニアックで、第1曲目からMOZART ピアノ協奏曲ト長調 K107の2。この曲、持っている人は少ないんじゃないのかな。クリスチャン・バッハのソナタを編曲したもので、嬉しいことにワタシは手元にあって時々楽しみます。(ジェルリンcem)/パイヤール/J.M.ルクレール合奏団 A'des 14.183-2) BEETHOVENのピアノ・ソナタは、ホ短調 作品90(第27番)とホ長調 作品109(第30番)を聴けば、全集の様子が分かること。弦楽4重奏曲第12番ホ長調作品127は「壮年期を経験した男性には理屈抜きで共感と安らぎを与えるが、ひょっとすると若者や女性にはもう一つ味わい尽くせない」という味わい深い(ン?女性差別?)コメント。(いやぁ、こういう音楽ってあるんですよ) MOZARTのドイツ舞曲K606も手に入りにくい曲。(ワタシの手持ちにもなし)フンメルのピアノ協奏曲第3番ロ短調も渋い。シューベルトのピアノための舞曲集も「知られざる名曲」の類でしょうか。(抜粋みたいだが、モタール盤 シャルランTKCZ-79229所有)・・・とまぁ、挙げればキリがないくらいの懇切丁寧。筆者思い入れの強い、日本の演奏家のものも取り上げられており、どちらかといと「初心者向け推薦」ではなく「マニアック-ワタシのコレクション紹介」的色合いが強くておもしろい。 例の如しで、ショスタコの11番に絡めて、左翼運動の批判を辛らつに紛れ込ませているのも彼らしい。内容を読めば、愛憎ないまぜ・・・といった感あり。 続編が欲しいなぁ。21世紀を目前にして、日本のクラシックの状況もいっそう混迷を深めて変わっていますし。
●本で聴く音楽−▲top pageへ |