俵 孝太郎 「気軽にCDを楽しもう」

あなたは高くてヘタクソなレコードを買わされていませんか?
コスモの本  1991年発行 1200円

 あの強面の政治評論家が、じつは大のクラシック・ファンであり、かなりのCD(LP)の蒐集家であったことは意外でした。句読点が多く、センテンスが短い、いかにもジャーナリスト風の歯切れの良い文体に乗って、CD業界の総論、歴史、その厳しい批判、そして各論の具体的な「お勧めCD」が展開されます。
 1991年段階で、現在に通用する見通しを行っているところも凄い。

 最初のページを開けると、SPプレーヤーをバックに、あのイカつい筆者の顔写真。その裏頁にはCD専用棚にビッシリと並んだコレクション。そして安物のスピーカー。
 第1章「CDを聴く前に考える」→この章では、SP時代からの豊富な知識を駆使して、いかにCDで聴く音楽が格安で庶民のものとなったのかが展開されます。一方でCDの製造原価を類推して「いかに国内盤が高いか」を展開。

 第2章「CDを集めるための12か条」→オーディオ・マニアと音楽ファンは別物で、機械に凝る必要はない、(筆者は5000円のスピーカーを20年使っている由)「オタク」呼ばわりを恐れるな(これ、けっこうありますよね。「ワタシ、クラシックのファンなんです・・・・」なんて人前じゃなかなか言えない「あら、高尚なご趣味だこと・・・・オホホ」なんて)、中古、廉価盤を活用してコスト・パフォーマンスを上げよ、新譜を追うことはない、世評や評論家の言を鵜呑みにするな・・・・。

 と、ここでMCA、NAXOS、VOXという輸入廉価盤メーカーが推奨されます。(全部買っているらしい)

 第3章が「レコード・ライブラリーをつくる50万円3年計画」→これが、かつてなかった試みで本来自分の耳を鍛え、音楽にアプローチするのは試行錯誤しかない、とはいえ「定石」はある、との筆者の主張。一発目から「BEETHOVENの交響曲全集」というのが凄い。具体的な演奏家と価格も触れられており(当時としては)比較的どこでも手に入りやすいCDを選定してあるのも良心的。

 つぎがMOZARTのピアノ協奏曲集、シューベルトの歌曲集と続き、ハイドンの弦楽4重奏曲へとすすむ、古典派重視で幅広いジャンルを網羅。翌月ではBACHの平均率クラヴィア曲集、BEETHOVENのピアノ・ソナタ全集を持ってくる硬派ぶり。ブラームスよりシューマンの交響曲を高く評価する、独自の価値観も顔を出します。

 ・・・・・・・・・とまぁ、微に入り細に入りと「予算」と「購入金額」が月ごとに明示され、しかもウェーバーのピアノ・ソナタのような、自分好みのマニアックな選曲も取り混ぜつつ、3年間が終了します。こんな作業は(正しいか?どうかは別として)そうとうの博覧強記じゃないとできない芸当。
 そろそろ10年前の本ですから、CDの選び方も現実とは少々違っていますが、演奏評価的にはほとんどブレはなし。

 それと(かなり具体的な裏付けのある)毒舌ぶりが楽しくて(ショスタコヴィッチの「森の歌」に絡めて、日本の左翼運動を手ひどく批判)、有名な人が出している書籍の情報間違いもボロカスに訂正されます。
 で、ワタシも一カ所だけ、PHILIPSから出ているベイヌム/コンセルトヘボウのブラームス交響曲第4番を「モノラル」としているけど、これは立派なステレオ録音でした。

 この本は売れたかどうかは定かではありませんが、続編も出たし、現在の情勢に修正して文庫にしていただけないものでしょうか。いまそのまま読んでも、充分楽しめますが。

 


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written by wabisuke hayashi