Mahler 交響曲第8番 変ホ長調
(ディミトリ・ミトロプーロス/ウィーン・フィル1960年ライヴ)


第1/6/8/9/10番「アダージョ」を含む4枚組1,654円。お買い得! Mahler

交響曲第8番 変ホ長調

ディミトリ・ミトロプーロス/ウィーン・フィル/ウィーン国立歌劇場合唱団/ウィーン楽友協会合唱団/ウィーン少年合唱団/ミミ・ケルツェ、ヒルデ・ツァデク(s)/ルクレティア・ウェスト、イーラ・マラニウク(a)/ジュゼッペ・ザンピエーリ(t)/ヘルマン・プライ(br)/オットー・エーデルマン(b)
(1960年ザルツブルク・ライヴ)

ARIOSO 105-CD3 第1/6/8/9/10番「アダージョ」を含む4枚組1,654円

 ディミトリ・ミトロプーロス1960年に亡くなっているから、ちょうどステレオ録音隆盛の直前の時期、残された音源は少ないのが残念です。ニューヨーク・フィルでは大人気のバーンスタインの前任というのも、いっそう地味な印象を与えているかも。しかし、どれを聴いても入魂!迫力でほとんど外れなし。Historyの10枚組は(主に音質的な意味合いで、他多くの歴史的音源同様)処分済み。こんな大曲、クリアな音質で聴いたほうが良いに決まっているが、この音源には私的曰く因縁がいろいろと・・・

 1970-80年代、若く貧しかったワタシはFMエア・チェックを熱心にしておりました。社会人になって中古LP購入のため、小遣いと休みを全部費やすくらいの熱心な時代に至り、この「千人の交響曲」と出会ったのはバーンスタイン/ロンドン交響楽団(1966年/FMにて拝聴)だったか。それとも怪しげ輸入LP全集(たしか半分も演奏者クレジットがない、壱万円程/当時激安)に含まれた、このミトロプーロスだったか・・・前者では阿鼻叫喚混沌怒濤の響き混濁状態、若かったワタシには理解不能であったし、後者はあまりの音質の劣悪さに一度聴いてまったく歯が立たない〜やがて人生の山川越え、幾星霜。

 ほどなくクーベリック盤(1970年)に出会い、貴重なる生演奏経験を経、すっかり親しい存在の作品となりました。この4枚組は2005年末に入手したはずだけれど、記憶と大違いで”けっこうエエ音じゃないの”と驚いたものです。劣悪で歯が立たない、ことはない。1960年だったら、現役で通用する録音も発生している時期だけれど、なんせ一発録りライヴですから。ORFEO盤は2枚組だったし、復刻評判も最悪との噂だったので、偶然の入手をラッキーとしましょう。

 全曲でほぼ79分、先のクーベリック(1970年)が73分だからテンポはかなりゆったりめ。どの旋律も入魂でアツく、重く、たっぷり歌って雄弁そのもの。咳いた前のめりのアクセントではなく、悠然たるタメが浪漫であり、それは時代遅れのスタイルではなく、モダーンなセンスに溢れます。いくら比較的良好な復刻とはいえ、音質不如意なライヴながら、けっこう細部彫琢が徹底していて、第1部は熱狂的に盛り上がっても”阿鼻叫喚混沌怒濤の響き混濁状態”とは感じない。怪しげLPの記憶では”ほとんどノイズ中に蚊が鳴く”程度のサウンドに閉口したものだけれど。ウィーン・フィルがこれほどの集中力、全身全霊で弾いているのも珍しいのではないか。ミトロプーロスのコンロトール恐るべし。

 ド・シロウトの戯れ言だけれど、この作品はジョン・エリオット・ガーディナー辺り、スッキリ整ってスリムな合唱にて透明な響きで一度聴かせていただけないか、そんな願いがありました。人生の黄昏世代を迎え、バーンスタイン壮年の熱狂もけっしてキラいではなくなったが、このミトロプーロス盤は”願い”とは正反対の、とことん賑々しく、立派に、壮絶にいきましょうや、的演奏であって、ウィーン・フィルも好調であります。金管の分厚い迫力(ホルンがエエなぁ)に不満はない。声楽陣では第2部のヘルマン・プライが見事であって(甘く、切ない)、これはクーベリックに於けるフィッシャー・ディースカウでも感心したから男声ソロの聴かせどころなんでしょうね。女声ソロの絶叫連続(とくに第1部)は少々堪え忍んでいただいて、第2部を待って下さい。ちょっぴり”大時代”の所作が残っていて(とくにザンピエーリ)、これも味わい深いもの。合唱の壮麗なる響きにも余裕とニュアンスがあって、説得力には比類がない。

 第2部冒頭の管弦楽のみによる冒頭部分は、やはり音質的には少々厳しいかも。かなりものものしくも強烈深刻な世界となっていて、ホルンは息長く、もの凄い濃さ、圧倒的。トラック2が55:26、少々不親切なる作りだけれど、この辺りに集中出来れば長丁場もラクラク乗り切って、クライマックスへ素直に突入、あっという間の時間経過であります。途中から”音質云々”は気にならなくなる。響きの明晰さ、精密、強靱さ、巨魁、浪漫の熱気が合体して、希有なる成果。これは時代の産物なのでしょう。次世代でこのようなスタイルは思いつきません。

(2009年11月6日)


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