Mahler 交響曲第9番ニ長調
(ラファエル・クーベリック/バイエルン放送交響楽団1967年)


DG 429042-2 10枚組 購入価格失念壱万円以上したと思う。1990年代前半のこと。 Mahler

交響曲第9番ニ長調

ラファエル・クーベリック/バイエルン放送交響楽団(1967年)

DG 429 042-2  10枚組(購入価格失念 壱万円以上したと思う)のウチの一枚

 21世紀は廉価盤の時代となり、CDという媒体そのものが時代遅れになりつつある時代へ。LP出始めの頃は「1枚で初任給の半分(でしたっけ?)吹っ飛んだ」的伝説を伺ったことがあるけれど、たしかに油断すると音楽に対する畏敬の念を失いがちになる〜ほど安い今日この頃。気付けば、好きなだけ、聴ききれぬほどのCDを次々と買い込めるような時代(身分?)に至りました。交響曲第9番ニ長調は大曲ですよ。この全集は1990年代初頭、それこそ”清水の舞台から飛び降りるような〜”気持ちで入手した贅沢品、その出会いに感謝いたしましょう。現在でも不人気なせいか?意外なほど価格は下がっておりません。高い安いという概念は、生き金を使ったかどうかでしょう。20年間、折に触れて愉しんできたから、これはもう充分価値があったということです。盤質劣化不安もなく、立派に音楽を聴かせて下さいました。(同時期に購入したゲーザ・アンダのMozart 協奏曲全集は盤面剥落でアウトに)

 例えばバルビローリ(1964年)、バーンスタイン/ベルリン・フィル(1979年)いずれも世評高く、ワタシもちゃんと拝聴させていただきました。音楽は嗜好品(しかも微細なテイスト違いにて)故、人それぞれで評価が異なるのは当たり前、しかも、その聴き手本人だって生涯、感じ方が変わらぬわけでもなし。ワタシにはこの二つの録音真価を完全に見出せておりません。幸い、金満贅沢中年に至った(ジョーダン)から、あちこち、さまざま、古今東西老若男(女)による録音を聴ける身分となりました。で、結局、ココロの琴線に触れるのはクーベリック1967年のセッション録音〜ようはするに、昔馴染みということだけなんじゃないか。若い頃の刷り込みということでしょうか。もとより世評はあまり気にせぬほうだし、それもコロコロ変わりますし。

 この作品のイメージは尋常一様ならざる緊張、切迫感、死の影、諦念?かつてワタシはMahler に”狂気”を求めておりました。クーベリックの演奏はそのすべてが存在するようでもあり、一方でバランスの取れた中庸(テンポも)の完成度を感じさせるものでもあります。つまりあざとい陰影を強調する”爆演”ではない。バイエルン放送交響楽団のサウンドが大好きなんです。ベルリン・フィルのように艶々流麗ではない、技巧、アンサンブル、バランスは最高だけれど、暖かい深み厚みがあって、必ずしも外面の洗練を売りにしない。録音も質実自然体であって、全77分聴き疲れしません。

 第1楽章「アンダンテ」は清明かつ落ち着いた味わいで開始され、弦の響きは気品に充ちております。やがて不安げに暗転し、金管が「生のテーマ」を爆発させるが、ストレート系でタメのない表現が快く響き渡りました。金管の深く奥行きのある響きも上々でしょう。ホルン(けっこう抑制されている/「死のテーマ」をあまり強奏しない)最高。木管も柔らかい。いくらでも情感揺れる煽りが可能だと思うが、テンポの揺れは大仰ではなく、誠実にメリハリを付けて、あくまで響きは濁らない。怪しさを強調しない。そこが不満だ、という人も多いことでしょう。ワタシは押しつけがましさのない、懐かしい、こんな演奏が大好きです。

 第2楽章はレントラーの優雅でノンビリとした楽章。ここも引きずるように粘着質な表現が可能だろうが、クーベリックは清潔誠実正確なリズムを刻みます。面白味がないですか?こんな楽章がオーケストラの実力を一番素直に表出すると思うんですが。オーケストラの個性を素直に引き出して、強引さ皆無。荒れ狂う第3楽章「ロンド・ブルレスケ」には思わぬ抑制があって、バーンスタインのベルリン・フィルに比べて爆発力があまりに足りない・・・と評されることでしょう。オーケストラが鳴らないワケじゃないんです。中庸の表現を旨としているんでしょう。このバランス感覚がクーベリックだし、オーケストラの各パートの動きが鮮明に理解できるのも彼の個性。やがて音楽の流れの中で、なんとも気持ちよく聴き手を乗せていただける・・・

 終楽章、万感の思い胸に迫る「アダージョ」。この楽章こそ全曲の白眉であって、それこそ”清潔誠実正確”なる表現が一番生きるところであります。繊細かつ練り上げられた響きが重なり合い、アツく盛り上がっていく弦の説得力(ソロを執っているコンマスは当時名手ルドルフ・ケッケルトでしたっけ?)に胸を打たれます。静謐部分で音楽の流れが行方不明にならない。静かに管が参入して厚みを増し、やがて高らかにトランペットが「生のテーマ」を歌って頂点へと達しました。消えいくラスト、弦のデリカシーも印象深い。

 やれ、クーベリックはライヴじゃなくっちゃ、とか、新しいプレスのCDは弦の表情が硬いとか、そんな論評を伺うけれど、ワタシにはこれで充分。貧者のオーディオは集中力でなんとかカバーいたしましょう。今年だけでMahler 全集を数種入手したはずだけれど、原点はこれでございます。

■ 交響曲第4番ト長調(1968年)
■ 交響曲第1番ニ長調(1967年)

(2010年11月5日)

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written by wabisuke hayashi