John Ireland 70歳記念コンサート・ライヴ
(エイドリアン・ボウルト/ロンドン・フィル1949)


LPO0041 Ireland

ロンドン序曲
ピアノ協奏曲 変ホ長調(アイリーン・ジョイス (p))
前奏曲「忘れられた儀式」
「これらのことはきっと」(レドバース・ルウェリン(br)/ルートン・コラール・ソサエティ)

エイドリアン・ボウルト/ロンドン・フィル

LPO0041 1949年ロイヤル・アルバート・ホール・ライヴ

 

英国音楽一般に人気はなくて、Ireland(アイアランド)も例外に非ず。これは作曲者70歳記念コンサート・ライヴとのこと。音質は年代相応。「ロンドン序曲」(先日聴いたばかり)以外は初耳作品。どれも端正に背筋が伸びて美しくも穏健なる旋律+巧まざるユーモアも漂います。稀代の別嬪ピアニスト・アイリーン・ジョイスを迎えたピアノ協奏曲も雰囲気豊か、低脂肪Rachmaninov みたいな薄味甘美なテイストであります。

「忘れられた儀式」は神秘的な静謐、「これらのことはきっと」は大いにラスト盛り上げる声楽作品!ボウルトは当時60歳、剛直な指揮ぶりは晩年まで変わらない魅力であります。(「音楽日誌」2010年3月)

 

  John Ireland (1879-1962英国)は、日本ではほとんど知られていない作曲家でしょう。かなり以前オウェイン・アーウェル・ヒューズによる「ロンドン序曲」を偶然に聴いて、その巧まざる端正ユーモラスな活気を知りました。これはAdrian Boult (1889-1983英国)による戦後あまり日が経っていない頃、ライヴ演奏会60歳の記録、貴重なものと思います。時代を勘案すればかなり良好な音質。戦争の影響で疲労していたはずの団員も、ここでのアンサンブルはかなり好調でしょう。Irelandの旋律はどれも甘く懐かしいもの。 

 「ロンドン序曲」は、初めて聴いた時に”Elgar「コケイン」に負けぬ、いや凌駕する魅力を備えた、ウキウキと楽しい旋律+リズム連続作品”と感じたもの。不安げな序奏を経、快活な都会の喧騒と哀愁も感じさせる符点リズミカルな行進曲?風。溌溂と切れ味のある金管の叫び、優雅な弦の響き、テンションの高いアンサンブルが若々しい。Popでわかりやすい旋律作品。(11:52)

 ピアノ協奏曲 変ホ長調は現代のレパートリーとしてあまり聴く機会はないでしょう。”雰囲気豊か、低脂肪Rachmaninov みたいな薄味甘美なテイスト”とは初耳印象でした。第1楽章「In tempo moderato」(8:56)は淡彩な「パガニーニ・ラプソディ」風、それに仏蘭西風気紛れと英国風端正が入り混じったような味わい深いもの。第2楽章「Lento espressivo」(7:39)は儚いため息のように静謐、そして薄味の甘美。美しい弦、ボウルトのオーケストラはたっぷり歌います。やがてピアノのモノローグが懐かしくも延々と続きます。第3楽章「Allegro」(8:13)。小太鼓からピアノの力強い打鍵は不協和音っぽい不安な出足、それもシンプルに明るい表情にすぐに変化して風情はあくまで穏健快活でしょう。

 美しいリリカルな名曲と思うし、Eileen Joyce(1908ー1991濠太剌利)のピアノも雰囲気たっぷり。(彼女は1960年に引退したそう)おそらく作品の人気が出ないのは、大見得を切るようなソロの華やかな大活躍がないからでしょう。

 前奏曲「忘れられた儀式」は清浄な空気の中、やがてゆっくりと朝日が差し込むようなデリケートな出足。ゆったりと深呼吸が続くようなスケール、大きな盛り上がりがやってきて、再び静謐に収束して聴手の胸を切なく焦がします。(9:04)「これらのことはきっと(These Things Shall Be)は男声+合唱を伴う声楽作品。 「Say, heart, what will the future bring」(5:46)「These things shall be!」(4:41)「Nation with nation, land with land」(8:03)「These things, they are no dream, shall be」(4:00)。言葉の壁があって内容は理解できないけれど、敬虔かつ快活勇壮、平易なサウンドが続いて、ド・シロウト耳にはいかにも英国風声楽の典型に感じました。あいかわらず旋律は端正そのもの。ステレオ時代までご存命だったとは思えぬ作曲家の保守的穏健な作風でした。

(2020年1月25日)

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written by wabisuke hayashi