R.Strauss 交響詩「英雄の生涯」/交響詩「死と変容」
(デイヴィッド・ジンマン/チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団)


ARTE NOVA 74321 85710 2 R.Strauss

交響詩「英雄の生涯」作品40
交響詩「死と変容」作品24

デイヴィッド・ジンマン/チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団

ARTE NOVA 74321 85710 2 2001年録音 500円で購入

 R.Straussは嫌いな作曲家でもなんでもないが、自分なりの「聴き取り方の基準」みたいなものが見えていません。「メタモルフォーゼン」「オーボエ協奏曲」「4つの最後の歌」「ホルン協奏曲第2番」〜ようはするに最晩年の作品辺りはしっくり馴染む、といった自覚のみ。作曲者自演による4枚組(PILZ/ACANTA442149-2/50-2 ウィーン・フィル中心)も、そろそろ購入して10年のはずだけれど、いまだにピン! と来ないのも情けない。ワタシはR.Straussをハラに落としていないんです。

 正直「英雄の生涯」についても、脱力系のマルクソン盤(無抵抗主義のガンディー) 、とか「引退した英雄」であるベーム盤などと勝手なことを書いていて、ま、戯れ言の水準です。ウィリアム・スタインバーグの「ツァラ」を激賞したら、散々非難されましたし。(な〜んも気にしちゃいないけれど)でも、ま、オーケストラのバリバリ威圧系は少々苦手、というくらいかな?そのワリにライナー昔からは好きだけど。ほんま、いい加減。お勉強中です。だからCDはちゃんと買ってしまう。

 チューリッヒ・トーンハレ管は評価に難しいオーケストラだと思います。基本、上手いオーケストラ、しかし重量感がなくて、素朴な味わいを残すのは指揮者の個性故、なのでしょうか。リズムが粘らず、颯爽として、むしろ軽快とさえ感じます。でも、艶というか、どのパートも清潔でベルリン・フィルの透徹したメロウな味わいとか、シカゴ響の徹底した武力攻撃が快感に至る、みたいなものは存在しないと思います。感覚としては現代的で、さっぱりとしてるが、威圧感はないんです。オーケストラに厚みが足りないんじゃなくて、風通しが良いんです。弦の涼やかなサウンドはシュターツカペレ・ドレスデンに一脈通じるか。

 カラヤンに代表される、たっぷりとした節回しもありません。R.Strauss必須条件の録音状態は万全で、適度な残響やら自然な奥行き感がキモチよろしいのは、トーンハレという会場の個性なのでしょう。(但し、この録音を理想的に再現するのはかなりのオーディオ装置じゃないとムリかも。ワタシは類推の域です、正直)低音が弱いように錯覚するが、打楽器の地響きに不足はないから、これも表現方法なんだと思います。涼風が駆け抜けるような、粋でさらりと都会的な演奏。服装はカジュアルで薄化粧が清潔でした。要らぬアクセサリーもピアスもありません。ヴァイオリン・ソロも清楚そのもの。

 カラヤンやショルティの演奏に馴染んだ方には「スカみたいな演奏」と感じられるかも。そうだなぁ、ちょっと個性不足で薄味かもね。スルスルと流れも良いし。でもね、よ〜く聴くと細部隅々まで指揮者の思いが行き渡って、仕上げはていねいでした。これは「英雄の生涯」より、ずっと静謐が支配する時間が長い「死と変容」に顕著に感じられました。嗚呼、オーボエが清潔だ。フルートもヴァイオリン・ソロも。

 ティンパニ一撃で事態は動き出すが、その音の立ち上がりがピタッと縦のアンサンブルの揃え方、その後のラッシュのキメも見事。金管の威力はかなりのものだけれど、全体バランスを崩すほどの突出はありません。マイルドでよい響きです。やはり、全曲を通して清楚感が支配していて、いくらでも官能方面に振れそうな作品だけれど、粘着質皆無。これはこれでワタシはよろしいと思います。「コクがない」と評価される方がいらっしゃってもおかしくはない。

 さて、R.StraussのCDはたくさん買ってあるから、まだまだお勉強は続きます。ワタシにとってはMozart のように「無条件幸福」ではない。感じ方、評価もどんどん変遷するかも知れません。(2004年4月14日)


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written by wabisuke hayashi