イギリス管弦楽作品集(ネヴィル・マリナー/
アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ)


DECCA POCL-4421/2 Vaughan Williams(1872-1958)

グリーン・スリーヴズの主題による幻想曲
舞い上がるひばり * アイオナ・ブラウン(v)
イギリス民謡組曲

Warlock(1894-1930)

弦楽のためのセレナード
キャプリオル組曲

Butterworth(1885-1916)

管弦楽のための狂詩曲「シュロップシャーの若者」
2つのイギリス田園詩曲(English Idyll)
青柳の提(Banks of Green Willow)

Delius(1862-1934)

「楽園への道」〜歌劇「楽園への道」
劇音楽「ハッサン」〜間奏曲とセレナード
夜明け前の歌
春初めてのカッコウを聴いて
河の上の夏の夜
「ラ・カリンダ」〜歌劇「コアンガ」

Elgar(1857-1934)

弦楽のためのセレナード
ソスピーリ
「スペインの貴婦人」組曲
序奏とアレグロ 作品47

ネヴィル・マリナー/アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ

ポリドール POCL-4421/2 1967-1980年録音

 このCDともずいぶん長く、親しいお付き合いとなりました。久々の拝聴となります。バレンボイムとかウィリアム・ボートンなどと並んで英国音楽への嗜好を導いてくださったもの。あれはもう40年以上前?若く貧しかったワタシはFM放送を熱心に聴いて、音楽への乾きを癒していたものです。ある日、新しい団体が(おそらく日本)デビューして、それがジ・アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ(The Academy of St. Martin-in-the-Fields/その後略称 アカデミー室内管弦楽団)、Tchaikovsky 弦楽セレナーデ ハ長調、その新鮮極まりない演奏にショックを受けた記憶も鮮明。やがて次々と新機軸を繰り出して、例えば自由な通奏低音、装飾音を加えたVivaldi 「四季」、音楽史的な研究を踏まえたBach ブランデンブルク協奏曲など、話題沸騰!あれは1970年台だったかな?メジャー・レーベルにずいぶんたくさん録音ありましたね。大人気、売れっ子だったんでしょう。

 やがてバロック音楽は古楽器の時代を迎えて、彼の録音も色褪せて聴こえぬこともない・・・レパートリー的にも古楽器陣営とダブっておりました。印象的にはEMIに移った辺りから”フツウ”になって(不遜にも)あえて彼の演奏を聴こうとは思わなくなった贅沢者。これは英Argoに残された比較的初期の録音が中心です。こちら華麗なる加齢を迎え、ネヴィル・マリナーのバランス感覚を好ましく感じるようになってきました。どれも音質良好。

 「グリーン・スリーヴズ」は英国音楽の初心者(=ワシ)入門にして最高峰の静謐甘美な旋律。フルート、ハープ+弦楽という簡素な編成から無限の広がり、しっとりとした田園風景が広がります。出会いは小学校5年生、アーサー・フィードラー/ボストン・ポップス管弦楽団(17cmLP)これが音楽嗜好の一生を左右しました。この作品に”ダメな演奏”はあり得なくて、ここでは中庸なテンポ、淡々とした風情がトップに相応しい。The Lark Ascending(「揚げひばり」は美しい訳ではないと思う/春の季語とのこと)は、奥ゆかしいヴァイオリン協奏曲風作品。ゆらゆら囁くようなソロは上空を舞うひばりなのでしょう。ぴーかんな青空に非ず、晴れていてもどこか陰り、ひんやりとした空気が漂います。抑制の効いたブラウンのヴァイオリンは自在、アンサンブルに溶け込みます。激情せぬ淡い英国の切ない情感漂う名曲中の名曲、名旋律の宝庫。

 吹奏楽でお馴染み「イギリス民謡組曲」は、行進曲「日曜日には十七歳」(March - "Seventeen Come Sunday")/Allegro「日曜日には十七歳」「可愛いキャロライン(Pretty Caroline)」「富める人とラザロ(Dives and Lazarus)」/間奏曲「私の素敵な人」(Intermezzo - "My Bonny Boy")「私の素敵な人」「緑の茂み(Green Bushes)」/行進曲「サマセットの民謡」(March - "Folk Songs from Somerset")「朝露を吹き飛ばせ(Blow Away the Monning Dew )」「高地ドイツ(High Germany)」「とても高い木(またはWhistle, Daughter, Whistle)」「ジョン・バーリーコーン(John Barleycorn)」〜が引用されるとのこと。(Wikiからコピペ)ま、日本人にはあまり馴染みはなくとも、どこかで聴いた?そんな懐かしくも剽軽ユーモラス、明るくウキウキするような世界。コレ、エイドリアン・ボウルトが幾度録音して大好きになりました。ま、誰のでもかまわない。吹奏楽版でも文句はないんです。

 Warlockは知名度は落ちても、薄味に寂しく甘い旋律印象は変わらない。弦楽セレナードは風情としては「春、初めてのカッコウを聞いて」に似て、幻想的な、寂しげな旋律7-8分。擬バロック的、古風なリズム感が愉しい作品。「キャプリオル組曲」は短いエピソードが Basse-Danse/Pavane/Tordion/Branles/Pied-en-l'air/Mattachinsと変化しながら続く、わずか10分ほどの作品です。時に、ちょっぴり不協和音が色を添えます。早逝して寡作なButterworthはもっと知られていないかな?「シュロップシャーの若者」は歌曲集から編まれたものらしい。英国人らしい抑制を基本に、金管も参入して情感溢れる(若者の哀しい)慟哭が聴こえます。これもほんの10分ほど。English Idyllは弾むような足取りがなぜか切なく、ノンビリとした安寧も広がります。

 青柳の提(Banks of Green Willow)は名訳!Butterworthって、時に激情する盛り上がりが個性なのか。打楽器は入らないし、激しい大爆発は期待できない代わり、含羞に充ちた嘆きがあちこち漂って、それは甘美な美しさであります。(一枚目迄で力尽きました)

written by wabisuke hayashi