Elgar 交響曲第1番 変イ長調 作品55
(ジェームス・ロッホラン/ハレ管弦楽団)


ジャケット紛失していております。この画像はネットで拾ったもの/ASV CDQS6082 Elgar

交響曲第1番 変イ長調 作品55

ジェームス・ロッホラン/ハレ管弦楽団(1983年録音)

序曲「コケイン」(ロンドンの下町から)

オウェイン・アーウェル・ヒューズ/フィルハーモニア管弦楽団(1989年録音)

ASV CDQS6082  1,000円で購入。

 このCDは1990年代前半に購入しており、スリーヴ類も紛失(正確には、CDを誤ってほかのケースに紛れませてしまい、なくした!と勘違いして捨ててしまったもの)。先日再聴時、あちこちネット検索してみたけれど、現役音源ではないようです。2007年6月「音楽日誌」に数回言及しているように、この演奏を特別に称揚するつもりもないけれど、縁あって棚中に留まっているもの、しっかり聴いてあげなくっちゃ、と考えました。作品的にとても気に入っております。ハレ管弦楽団は1908年交響曲第1番 変イ長調の初演を担当していたのですね。(ハンス・リヒター)

 盤石のゆったりとした歩みで開始される第1楽章、途中に挟み込まれるテンポ・アップ、軽快優雅なるエピソード・・・そして爆発する金管の迫力。これをまとまった印象に仕上げるのは至難のワザと感じます。録音の関係か、それともハレ管の実力故か?やや響きが濁り、スケール感、まとまりに不足するかも・・・これは、その後、エイドリアン・ボウルト/ロンドン・フィルによる盤石なる貫禄演奏(1976年)を聴いてしまった比較対照印象故か?それとも、フィル・アップの「コケイン」が特異に鮮明鮮烈なる音質(アンサンブルも)であったためか・・・

 こうして改めて集中してみると、さほどに文句を付けるべき水準には聞こえません。金管の奮闘も立派なもの。第2楽章「アレグロ」は颯爽としたスケルツォ楽章だけれど、これ以上の”キレ”と”推進力”の要望は作品の持ち味を崩すか?弱音での線の細さ、響きの洗練に於いて少々難有、かも知れません。優雅な第3楽章「アダージョ」に濃厚濃密なる官能的な弦は必要ないと思うが、”弱い”印象ありますね。粗雑なアンサンブルではない、纏綿とした歌も期待しないが、時に散漫か?さらさら12分流れてしまうか。これだけ聴けば、充分魅力的な楽章であることに間違いはありません。

 終楽章は弱音で印象薄く、強奏で響きが濁る(安物オーディオ故か、喧しい印象有)・・・交響曲全体を締め括るべき構成感に欠け、万感迫る大団円に至りません。  Elgarは英国音楽中、独墺的な響きに接近している特異な世界と感じるが、それでも”独墺系のオーケストラが向いている”とは思えません。ハレ管弦楽団に中低音充実した重厚さを期待しないが、アンサンブルの集中力に於いて少々弱さを感じます。バルビローリのような濃厚纏綿たる個性で成り立っていたオーケストラなのか、世代は交代したのか、ケント・ナガノではどんなサウンドに変貌しているのか、興味はあります。

 オウェイン・アーウェル・ヒューズによる「コケイン」は、何度聴いても胸打たれます。おそらくはVaunghan Williamsの交響曲第2番「ロンドン交響曲」と同時に録音されたものであり、奥行きと洗練、定位明快な録音+フィルハーモニア管弦楽団のアンサンブルの優秀さに酔いしれます。テンポの揺らせ方も、タメも説得力抜群。モダーンでスマートな表現であり、繊細と爆発の見事な対比が存在します。爽快。

 ワタシは「コケイン」を(この演奏一発で)大好きになってしまったものです。(2007年7月27日)


 Brahms のピアノ曲や室内楽にも似て、イギリス音楽は人生の落日をイメージさせる「老人力」音楽。けっこう好きです。NAXOSもイギリス音楽の録音は熱心なので嬉しいところ。ASVは、もはやマイナーとは呼べない質と量の良心的レーベルと思います。安くて、素敵なCDは沢山有。

 ロッホランは、たしかバルビローリの後を襲ってハレ管の指揮者になった人のはず。マゼールとかアバド等スター指揮者と同世代ですが、なんという地味な存在でしょう。(でも日本にもボチボチ来ているようだし、廉価盤CDでも見かけます)実力派。

 Elgarの交響曲第1番は、ゆったりとした大河の流れを思わせるような雄大な名曲。けっしてあわてず、騒がず、声高に叫ばない。激しいリズムも爆発もない。無欲な老人に諄々と諭されているような気持ちになる。うなだれて聴いてしまう。

 はじめ、この演奏を聴いたときは、オーケストラはあまり上手くないし、ややムードで聴かせている印象有。フレージング、節回しはやや自信なさげ。爽やかさみたいなものはあるけれど、特別なマジックは起こらないな、と思っていました。構成力が弱いのか。たしかにボウルトの自然体で、堂々たる自信に満ちあふれた演奏や、バルビローリの、むせ返るような旋律の深い歌はここには見られません。

 デジタル時代の録音にしては、録音がやや落ちるのも、そう聴こえる原因かも知れません。真面目で誠実、特別に際だった工夫はないけれど、なんどか聴くうちに「もしかしてイギリス音楽ってこんな感じ」と納得するような、そんな演奏。第2楽章「アレグロ・モルト」での低音や金管の迫力は充分、だけれどリズムにキレがない。最後までやや控えめな静けさは、むしろ貴重でしょうか。

 無理して買うようなCDではないかも。

   序曲「コケイン」は、あまり日本では知られないヒューズの演奏。フィルハーモニア管の輝かしい響きは、ハレ管との違い歴然で(続けて聴くとわかりやすい)楽しめる演奏です。メリハリのついた、元気な指揮ぶりは聴きものです。この人も無名だけど、けっこう注目株。


【♪ KechiKechi Classics ♪】

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written by wabisuke hayashi