Bruckner 交響曲全集 (クルト・マズア/ゲヴァントハウス管弦楽団)


RCA 82876-60395-2  9枚組(すべての経費込みオークションで)3,500円ほどか RCA 82876-60395-2 9枚組(すべての経費込みオークションで)3,500円ほど

 2007年8月オークションにてこの全集を(勢いで)入手いたしました。これはは1970年代の記録です。マズアのBeethoven には失望したが、この時期のゲヴァントハウス管弦楽団ってどん底だったのか。伯林・こんの氏ご推奨でもあり、曰く「素直で真っ白な演奏」。新品でも4,000円強で売っているから、そうお徳用とは思わぬが、音楽とは出会いやキッカケですから。音楽の価値は金額の多寡では決まらないし、一方でお金や時間には限りがあるのも事実。大切に聴けば、楽しんで聴けばそれはきっと”安い”ということなんです。これもなにかの出会い、一ヶ月掛けて聴き通した「音楽日誌」から抜粋してまとめておきましょう。

● 交響曲第1番ハ短調(リンツ版/1977年録音)

ふむ。リズムにキレとノリが足りない。オケのアンサンブルに自信がなさそう。弦、木管、金管に深い響きが期待できない。つまり(少なくともこの録音時点)上手いオケではない。録音だっていまひとつ良好ではないせいか、響きが洗練されない〜それでもBeethoven やらMahler に感じた失望はありませんね。なるほど、流麗に過ぎず、煽らず、激昂せず、素直で作為的な表現ではない。世評はどうなのでしょうね(気にしたこもないが)、まだ全貌を聴き通さないとなんとも言えない・・・

● 交響曲第3番ニ短調(1889年版/1978年録音)

昨夜の第1番に比べ、響きはかなり整理され、オケの各パートにも時に耳を傾けるべき個性が見えております。音質も(同じ録音会場だけれど)それなりにクリア。しかし、この作品だと古今東西、著名な録音が残っているし(それらとの比較では)旋律表現全体構成上やや”弱い”・・・フレージング・ラストの”留め”が減衰するような印象有。ま、素直でそう悪い演奏ではありません。でも、震えるような感動演奏!ではないかも。

● 交響曲第5番 変ロ長調(1976年)

ライプツィヒ・パウル・ゲルハルト教会での収録。第1/3番ほどの音質的な違和感ありません。オケの弱さとか、アンサンブルの不備もほとんど感じさせない、全78分に及ぶ長大なる名曲〜一番好きな作品かも。1970年から20年間もシェフを務めたゲヴァントハウス管だけれど、相性は良くないんじゃないか、そんなことを感じました。線が細い、筆勢が足りず、留めが決まらない。墨痕鮮やかではない。悠然を目指したであろうテンポ設定は、緊張感が維持できず、変化に必然性を感じない。サラサラと流れてリズムにコシがない、呼吸は浅い。各パートに自発的な”歌”を求められない・・・悪い演奏とは思わないが、震えるような感動はやってこない。

● 交響曲第4番 変ホ長調(1975年)

「原典版」となっているが、ほとんどその辺りのことは知らぬ存ぜぬ状態です。

問題は録音会場でして、第4/7/9番がドレスデン・ルカ教会(他はライプツィヒ・パウル・ゲルハルト教会)でして、シュターツカペレ・ドレスデンで馴染みの、何ともいえぬ深みのある音響を誇ります。これは先に聴いた第1/3番と印象がかなり異なっていて、個々のパートの音色響き色気に少々不満(例えばホルン)あるにせよ、瑞々しくも洗練されたアンサンブルで魅了させて下さいました。作品的にも自信があるのかな?ニューヨーク・フィルとの録音もあるんですよね(1993年未聴)。ベルリン・フィルとの1988年ライヴ(FMエア・チェック)も聴く機会を得、これはオケの威力が圧巻だった記憶がある。

非常にクリアで軽快颯爽とした演奏であって、耳当たりがよろしい一方で、あまりに軽量でサラサラしすぎるか、と感じました。威圧感演奏を嫌うとは言いつつ、それは程度問題でして、第3楽章「スケルツォ」はあまりに流れすぎる。「素直で真っ白な演奏」というのはこのことを指すのか、と納得できます。もしかして、後期のスケールの大きい作品でこの個性が生きるのか、との予測もありました。

● 交響曲第8番ハ短調(1978年ライプツィヒ・パウル・ゲルハルト教会)/第9番ニ短調(1975年ドレスデン・ルカ教会)

「本場独逸・著名なる演奏者」という前提が脳裏にあるためか、どうしても評価が厳しくなります。前者は第5番と並んで大物作品だけれど、印象はほとんど変わらず。演奏時間81分に及んでCD一枚に収まらないが、フレージングの末尾、旋律の”留め”に甘さがあってテンションが維持できない。大きな呼吸がリズムになって、音楽が意味深く流れない。テンポ云々ではなく、”音楽が弱い”(薄い、軽量、平板な)印象有。各パートの響きの洗練問題は録音印象もあるのでしょう、ルカ教会での第9番にて改善が見られます。

第9番は時にテンポが揺れ、(マズアにしては)激昂爆発してしている感じはあるけれど、逆に落ち着きが不足するし、大音量のところで”意味深さ”を感じない。お気に入り作品ではあるし、途中で耳塞ぎ、コンポの電源を切りたくなるようなことはないけれど、最初っから最後まで物足りない。

● 交響曲第7番ホ長調(ハース版/1974年ドレスデン・ルカ教会)

全体として流麗で涼やかな表現であり、線の細さ(薄味/弱さ)は”繊細”として感じられます。作品との相性か、録音条件の印象か、極めて優雅で美しく、全集中稀有の価値を持った演奏と評価できるでしょう。時にBrucknerに感じる”エラソー”な威圧皆無であって、万全・唯一無二の全集とは言い難いが、これであれば時に応じて棚中より取り出して愉しむに吝(やぶさ)かではない。とにかく、全64分聴き通すのに”苦痛”はありません。

● 交響曲第6番イ長調(1978年)

賛否入り乱れる全集だけれど、これはライプツィヒ・パウル・ゲルハルト教会録音。この演奏も適度に、良い意味で軽量であって、鈍重なる威圧感のない、耳当たりの良い演奏でした。作品の個性と演奏スタイルとの相性があるのか、全53分、聴き通すのが苦ではありません。

● 交響曲第2番ハ短調(1978年)

ライプツィヒ・パウル・ゲルハルト教会録音。聴く機会の少ない作品だけれど、ワタシには馴染みであって、少々苦い思い有。ハンス・ザナテルリ/南ドイル・フィル(だったっけ?)のおそらくは匿名演奏家盤、アレクサンダー・ラハバリ盤、とくに後者の処分に後悔ありました。どれか全集を購入したときに処分したんでしょう。浅はかでした。65分に及ぶ大曲でして、これも威圧感の少ない、さらりとした印象の仕上げとなります。「威圧感の少ない、さらりした印象」を越え、美しい、と思える瞬間も数多く存在しました。

「力感質感爆発力」不足故、ヴェリ・ベストとは言い切れないが、存在感薄き1970年代の全集録音・・・と看過できない個性はあると思います。(〜と、言いつつこのセットは既にオークションへ出してしまいました)

written by wabisuke hayashi