Brahms ピアノ協奏曲第1番ニ短調 作品15/第2番 変ロ長調 作品83
(イヴァン・モラヴェッツ(p)/ビエロフラーベック/チェコ・フィル)


SUPRAPHON SU-3865-2 Brahms

ピアノ協奏曲第1番ニ短調 作品15(1989年)
ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 作品83(1988年)

イヴァン・モラヴェッツ(p)/イルジー・ビエロフラーベック/チェコ・フィルハーモニー

SUPRAPHON SU-3865-2

 イヴァン・モラヴェッツ(1930年−)は名前ばかり、こうして実際の録音を聴いたのは初めて、その爽やか、クールな風情に感銘深く作品を味わいました。BeethovenBrahmsは苦手と公言する不埒な音楽ファン(もどき?)、前者ともかく、後者は最近聴く機会は復活していて、もとより室内楽やらピアノ・ソロ作品は意外とお気に入り、巨魁大柄なピアノ協奏曲もLP時代ルービンシュタインにて出会って以来の馴染みであります。先日もカリン・レヒナーを再聴して、その清潔な演奏を堪能したところ。

 第1番ニ短調協奏曲は、ジョージ・セルの厳しい集中力が刷り込みなのか、安易には聴けぬ強烈な緊張感に身構えてしまう・・・ところが冒頭、チェコ・フィルがティンパニ+弦のいきなり激しいラッシュ!(第1楽章 Maestoso)〜自然な会場の空気感、草原の息吹のような響きに魅了されます。このオーケストラは技術的に滅茶苦茶切れる!とか、そんなことはないけれど、良い意味での田園田舎風情、柔らかく、ちょっとくすんで理想的素朴なサウンド。いままで聴いた同作品中、もっとも好ましい音質とも感じます。

 モラヴェッツのピアノは激情でも強面でもない、リリカル知的な音色を誇って粛々と静謐、テクニックに不足はない。この作品であれば!的偉容を望むのであれば、力感に不足と評価されるのでしょう。しかし、この洗練されたデリカシーは貴重です。(第2楽章 Adagio)スケールは充分、諄々とした説得力にほとんど涙・・・状態に。第3楽章 Rondo: Allegro non troppoにはいつも蒸気機関車の豪快なる疾走を連想したものだけれど、どこまでも響きは濁らず、威圧感の欠片も見当たらない・・・時に適度なテンポダウン(=躊躇い)も効果的、高原に清風が吹き抜けるような清涼爽快な演奏でした。

 最高。

 第1番が思わぬ成果だったので、引き続き第2番を拝聴いたしました。集中力を失いがちの今日この頃、大曲を続けて聴くのも珍しいこと。第1楽章 Allegro non troppoは冒頭ホルンがキモ。これが期待通りのセクシー・ヴィヴラートなチェコ・ホルン登場。露西亜に似て、こちらもっと上品に味わい深い音色、呼応する弦の清潔さは類を見ないほど。これはあちこち登場して、聴き手を魅了いたします。オーケストラが薄い、と感じられる方もいらっしゃることでしょう。作品的に(第1番より)いっそうスケール大きく、ピアノ・ソロは悠々と、かなり情熱的に弾き進めるが、強靱な叩き付ける打鍵はついに聴かれません。基本は清涼な空気、これは前曲と路線変わらず。

 第2楽章 Allegro appassionatoは劇的スケルツォ楽章。このリズム感、ノリに敬意を評しましょう。流麗であり、デリケートであり、哀愁でもある。第3楽章Andante〜華麗なる加齢とともに緩徐楽章に対する嗜好は強まるばかり。チェロ独奏による主題提示に泣け、それをさわさわと弦が受け止める・・・ピアノ登場までに最高の舞台は整うんです。チェコ・フィルの音ってBrahms にぴたり!じゃないっすか。やがて参入する木管の歌にも文句なし。

 オーケストラの一員として、オブリガートのようにそっとピアノは参加します。やがて、ようやくピアノは激情に趨り、感情的な高ぶりが見られます。打鍵は強力であり、しかし澄んだ音色に変わりはない。この楽章が白眉、山場。終楽章 Allegretto graziosoの牧歌的、笑顔な表情はなんと幸せなことでしょう。華やかであり、哀愁の歌が漂う素敵な楽章也。モラヴェッツは軽快に流している(タッチは緻密)ように力みがありません。あちここち出現する「間」も効果的。

 世評ではこの演奏が絶賛された形跡はないから、音楽は人それぞれ、嗜好品なのでしょう。ワタシには全編に漂う清涼感が堪らない。

(2012年10月7日)


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written by wabisuke hayashi