Brahms ピアノ協奏曲第1番ニ短調
(クリフォード・カーゾン(p)/ジョージ・セル/ロンドン交響楽団)


Brahms ピアノ協奏曲第1番ニ短調(カーゾン/セル/ロンドン響) Brahms

ピアノ協奏曲第1番ニ短調 作品15

クリフォード・カーゾン(p)/ジョージ・セル/ロンドン交響楽団

FIC ANC-146 1962年録音 往年のDECCA名録音からの海賊盤。688円で購入。

 2004年再聴・・・ということでもなく、聴く頻度が高い一枚です。言い訳ばかりの「駅売海賊盤」だけれど、出会いがあれば正規盤でぜひ購入し直したいもの。その後、数枚のCDでこの作品との更なる出会いがあったが、カーゾン/セル盤の存在はますます光芒を放っていると思います。LP時代「惜しむらくはバランスの良い録音とは、とてもいえないのが残念だ」(1986年某有名雑誌別冊)という評論が、まったく謎であるほどの、自然な奥行きある鮮明な音質。

 CBS(EPIC)への録音とはセルのイメージ一変なのは、オーケストラのチカラか、それとも録音水準も影響しているのでしょうか。アンサンブルの圧倒的集中力そのままに響き柔らかく、透明であり艶がある。微に入り細に渡り、指揮者の意向が明示されて、燃えるような情熱を感じさせるが、クールなコントロールに不足しない・・・なんだ、数年前このサイト開設当初の感想↓と変わらないじゃない。(1968年ゼルキン盤のバックと表現上はそう変わらない。とにかくオーケストラには官能性を感じさせるほどの洗練に違いがある)冒頭のティンパニ(威圧感!)には仰け反りそうになりました。

 カーゾンのピアノには知性とリリシズムを感じます。ブルー系の(時にほとんどつぶやきにも似て)抑制されたタッチが、淡々と美しく柔らかく響いてオーケストラと溶け合います。洗練され、都会的なスタイルを崩さない。第2楽章の高貴なばかりの緊張感は、聴き手の背筋を伸ばします。端正なる歌(詠嘆ではない)を、まっすぐに拝聴せざるを得ない。それをセルが極限のニュアンスで支えます。

 最終楽章は「蒸気機関車の疾走」みたいな味わいがあるけれど、余裕の技巧でリキみはどこにも見られません。むしろ、疾走しようとするセルのバックを諫めているようにも見えながら、じょじょに白熱の度合いは高まります。数年前のワタシは「楷書の表現」とコメントしているが、四角四面の印象はなくて、流麗でありながら細部を流さない、輝かしい音色や派手な表現は存在しないが、それでも説得力に不足はない・・・

 大仰なるアクションは存在しないが、しみじみ浪漫的な味わいに溢れ〜この作品の神髄を明らかにする演奏に間違いなし。数年前の拙コメントはそのまま以下に掲載。(2004年9月25日)


 Brahms のピアノ協奏曲は、2曲とも大曲、重々しくて、やや近づきにくい感じ。このCDでもタップリ50分かかってしまう。偉いお坊さんの説教を延々と聴かされているようでもあり、若い頃にはちょっと敬遠していました。(あれはルービンシュタイン/ラインスドルフのLPだったなぁ)CD時代に入ってもバリー・ダグラス(最近どこに消えたの?)のロシア録音がホントつまらなくて、なかなか仲良くなれない曲でした。(当然売払)

 やがて幾星霜。人生の苦みを味わい出すと、Brahms の愛想のない、息の長い旋律、間、が心に染むようになってくる。ある日、このCDと出会ってとどめを刺されました。凄い演奏。

 セルの実力を思い知らされる、冒頭から充実しきったオーケストラの厚み。この人はどのオーケストラを指揮しても、ちゃんと自分の音にするんですね。アンサンブルが整っている、とかそんなレベルではなくて、ひとつひとつの音に魂がこもっている。「セルは冷たい」なんていう人もいますが、違いますね。底光りするような炎が燃える演奏。激情に耽溺することはなく、そういった意味では冷静ではある。細部まで、まったく明快です。流したところなど、ひとつもなし。

 1962年といえばモントゥー時代ラストのLSO。絶好調で、オーケストラがともかく上手いんです。指揮者の指示が、細部にまで行き渡っていることの手応え有。けれど、個々のメンバーの歌に不足はないどころか、「愛想のない、息の長い旋律」を慈しむように、ていねいに共感を持って演奏しているのが目に見えるほど。

 正直いって、冒頭のオーケストラのラッシュは息が詰まりそうなんですよ。で、カーゾン登場。(この人、録音は少ないけれど、どれも感動の嵐を保証します。)そっと囁くように、やわらかく、やさしく。本当の悲しみは、微笑みの中にある、といった風情。透明な音色、力みはどこにも見られない。無欲であり、清廉である。巧まざる色気も有。

 弱いわけでも、力強さに欠けるわけでもない。何度もいいますが、セルのバックは圧倒的なんです。並のピアニストだったら、やたら力んだりするんでしょうが、カーゾンはマイ・ペースの余裕。セルもちゃんと計算をしているんだろうけど、ソロとのバランスがとてもよくて、カーゾンのリリカルな味わいの旋律がとてもよく際だつ。

 アダージョの、ソロとオーケストラがお互いの息を感じ合うような、繊細な美しさは予想通り。(LSOの音色を堪能して下さい)最終楽章は、物理的な音量がどうのということではなくて、演奏者たちのエネルギーが集積された盛り上がり。楷書の表現は最後まで崩れません。

 録音は・・・・これは芸術の域でしょうね。会場の奥行き、ピアニストの位置、オーケストラのメンバーの息づかいが感じられるような・・・・往年のDECCA録音。


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written by wabisuke hayashi