Beethoven 交響曲第5番ハ短調/第6番ヘ長調
(デイヴィッド・ジンマン・チューリヒ・トーンハレ管弦楽団)


ARTE NOVA	74321 4969522 Beethoven

交響曲第5番ハ短調 作品67
交響曲第6番ヘ長調 作品68「田園」

デイヴィッド・ジンマン/チューリヒ・トーンハレ管弦楽団

ARTE NOVA 74321 4969522 1997年録音  700円で購入

 Beethoven は悩ましい。ほとんど、どの曲も気軽に聴けないし、CDを取り出すのも少々気が重いもの。聴けば聴いたで感じるところも多く、レコード屋さんに行っても新たに買いたくなるという(悪)循環。

 ギーレンが交響曲の全集を出してますよね。ワタシは未聴ですが、シンシナティ交響楽団との「英雄」は聴いていて、その乾ききった骨と皮だけの演奏に驚愕しました。「これからはみんなこんな演奏になってしまうのか」と、歴史的録音時代の個性豊かな演奏群を懐かしく思ったものです。(嗚呼、年寄りクサイ!)
 シェルヘンの全集は、そのような「人間臭い」演奏の極北でしょう。

 一日24時間しかなくて、なんとかいろんな音楽を聴くようにしたい。たくさんCDも持っているのに「今更、Beethoven でもないでしょう」とも思うのですが、その魅力には抗しきれない。次々とCDを買ってしまうけれど、ジンマンに引っかかってしまって、ほかのCDになかなか手が回りません。買ったまま、実際上未開封のCDが沢山有。

 ジンマンの新しい楽譜による演奏は、聴き手に猛烈な問題提起をしています。

 前提として、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団の優秀なこと。戦前はブッシュ、ステレオ時代になるとクリップスやケンペ、若杉の録音で知られていたオーケストラですが、現役のCDは非常に少ないのが不思議。
 ジンマンというアメリカ出身の、主にコンサート畑でキャリアを積んできたヴェテランは、そのアンサンブルへの集中力が非凡であるにせよ、オーケストラの一人ひとりの自発的な歌も魅力的。ヨーロッパの伝統を感じさせる、落ち着いた音色(日本人のメンバーも有)。

 「英雄」も驚愕の演奏でしたが、知的な5番も凄い。

 編成は小さく、弦楽器は薄すぎるようにも感じないでもないですが、このアンサンブルの充実感は久しく体験できなかったもの。細かい部分の旋律や、アクセントが聴き慣れたものとずいぶん異なって、新鮮な印象を与えます。
 楽譜を見るような習慣がないので、そのすべてが最近の研究の成果なのか、ジンマンの解釈なのかはわかりません。すべての繰り返しを実行しているのも、細かい「変化」を確かめる上でありがたい。

快速のテンポで、爽快です。力強いトゥッティでも音は濁りません。

 「田園」も、非常に速いテンポで進めていますが、素っ気ない印象はありません。
 アンサンブルは暖かく有機的であり、新しい譜読みによる細かい旋律のニュアンスも素晴らしいと思います。やはり、初耳の旋律の変更が頻出しています。オーケストラのメンバーの自発性が感じられる演奏ぶりで、嵐の爆発も迫力充分、しかも響きが濁らず見通しはよい。

 ギーレンに似ている(贅肉がない)ようで、そのバランス感覚、知的に抑制された「遊び」も感じられて、なにより暖かい演奏と感じました。シューリヒト、クリュイタンスの全集を聴こうと思っているのですが、棚からなかなか取り出せない。正確に云うと、この1枚に引っかかってジンマンの「7・8番」(既に全曲購入済だけれど)に迄たどり着かないのが正直なところ。

 これは輸入盤で700円でした。ピンピンの新録音で、内容充実問題提起横溢堪能。この値段。こんなCDが出てくるから、二千数百円も出してアホCD(失礼!)を買う気がしなくなるのです。


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written by wabisuke hayashi