Ravel 「道化師の朝の歌」「クープランの墓」より(ギレリス)/
Liszt 超絶技巧練習曲より(リヒテル)/
ピアノ・ソナタ ロ短調(ポストニコヴァ)


YedangClassics  YCC-0138Ravel

道化師の朝の歌(1954年)
「クープランの墓」より(1950年)
前奏曲/フォルラーヌ/トッカータ

エミール・ギレリス(p)

Liszt

超絶技巧練習曲より
No.3 ヘ長調、「風景」 (Paysage)、Poco adagio
No.5 変ロ長調、「鬼火」 (Feux follets)、Equalmente〜Allegretto
No.11 変ニ長調、「夕べの調べ」 (Harmonies du soir)、Lento assai〜Andantino

スヴャトスラフ・リヒテル(p)(1955年)

ピアノ・ソナタ ロ短調

ヴィクトリア・ポストニコヴァ(p)(1986年)

YEDANG CLASSICS YCC-0138  10枚組3,990円にて購入したうちの一枚

 米PIPELINEは旧ソヴィエットの放送音源を膨大に所有しております。1990年台よりさまざまのレーベルでCD化されており、現役であればBRILLIANT辺りで入手可能でしょうか。韓国YEDANG CLASSICSはその音源を使って多くのCDをリリースし、数年前ラスト(激安)投売りして消えました。これが少々問題有。例えば拍手を中途半端に切ってしまう(このCDもそう)、音源収録編集が無定見・・・これだって、ギレリス、リヒテル、ポストニコヴァ、各々著名なるピアニストであり、おそらくはちゃんとした一枚ずつのCDに仕上げられるはずなのに・・・閑話休題(それはさておき)

 ギレリスは「鋼鉄の云々」といった安易なキャッチコピーが禍しておるが、このRavel 悪くないですよ。「道化師」の硬質なリズムと華やかな技巧が圧巻、ライヴの感興溢れる演奏であります。細部のミスタッチなんて全然気にならぬ、鮮やかなるアツき流れ有。「クープラン」はラフに弾き流した感じがあって、”精密”ではないが”雰囲気”はあります(前奏曲)。”鮮やかなるアツき流れ”はここでも同様でしょう。「フォルラーヌ」に於けるリズムの良さ、トッカータの硬質なタッチも作品に対して違和感はない。

 音質は時代相応でまぁまぁでしょう。

 Lisztは苦手なんです。聴けるのはリヒテルだけ・・・って、これリヒテルじゃん。少々音質が曇りがちなんだけど、深遠なる内省的な味わいはギレリスとはまったく異なるもの。「超絶技巧練習曲」とは凄い題名だけれど、「風景」は夕暮れの寂しげな風情が万感迫る名曲名演であります。「鬼火」は繊細な味わい+完璧濃密なテクニックが申し分ない完成度。粒の揃った音色も美しく、しかも”芯”がちゃんとある。

 「夕べの調べ」もゆったりと懐かしい旋律が美しい。細部、キラキラ輝くような華やかなさもあり、ラストに向けてバリバリ盛り上げます。自分の好きな作品しか演奏しないリヒテルらしい演目であります。技巧の披瀝だけを旨とせず、芸術として恥ずかしくない作品のみを取り上げたのでしょう。音質を忘れさせる20分弱。(ラスト乱暴なる拍手の切り方は感興を削ぐもの)

 ポストニコヴァはロジェストヴェンスキーの奥様であって、現役露西亜のピアニストとなります。ピアノ・ソナタ ロ短調はSchumannに捧げられたのですね。P時代から聴いていたはずだけれど、とんと記憶がない(おそらくはギレリスの録音?)なんせLisztは苦手中の苦手代表選手だから、この作品は棚中このCDしかない(つまり意識して購入したことはない)はず。腕に自身のあるピアノストは皆録音しております。

 「ただ目的もない騒音にすぎない。健全な着想などどこにも見られないし、すべてが混乱していて明確な和声進行はひとつとして見出せない」とはクララ・シューマンの日記だそうだけれど、なるほどそう聴くことが可能かも。派手派手しくも暴力的な打鍵の連続、華々しいテクニックの連続はもの凄い威圧感であり、時に楚々と哀愁の旋律を挟みます。

 慣れなんだろうな、繰り返ししっかり!全部でCD2枚分の「ゴールドベルク変奏曲」より難解じゃないかも。ワタシ如きド・シロウトに全貌は掴めまへん。ポストニコヴァの技巧は完璧なんでしょう。とくに「時に楚々と哀愁の旋律」部分でのしっとりとした情感がエエ感じに美しい・・・が、必ず激しく盛り上げちゃうのがLisztの常(ピアノ協奏曲第1番だけ聴いていれば充分、だいたいあんな感じです)。

 これが34分ほどで1986年の録音は、前収録二人とはエラい違いの良好音質であります。ま、収録は無定見というか、滅茶苦茶。個々の演奏は悪くありません。

(2009年8月28日)

【♪ KechiKechi Classics ♪】

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written by wabisuke hayashi