Mozart セレナード第10番 変ロ長調K.361(370a)「グラン・パルティータ」
(ジャン・フランソワ・パイヤール/パイヤール室内管弦楽団)


BVCC-38235〜6 Mozart

12のドイツ舞曲 K.586
3つのドイツ舞曲 K.605「橇乗り」(以上1979年)
セレナード第10番 変ロ長調K.361(370a)「グラン・パルティータ」(1980年)

ジャン・フランソワ・パイヤール/パイヤール室内管弦楽団

RCA BVCC-38235〜6(2枚組のウチの一枚)

 古楽器隆盛の現在に於いて、パイヤール室内管弦楽団は既に活動を止めているのでしょうか。指揮者もご高齢だし、現役ではないでしょう。ポスト団塊の世代であるワタシにとって、この気品あるアンサンブルは若い頃の忘れられない想い出であります。おそらく棚中にはこれしか残っていなくて、久々の拝聴となります。市場でもあまり見掛けなくなりつつある演奏家なのかな。音質は極上。

 ドイツ舞曲を好んで聴く人はそういないんじゃでしょうか。多種多様に演奏の種類を集めるべき作品の類でもないから、BRLLIANTにて全集(タラス・クリサ/スロヴァキア・シンフォニエッタ2002年)をまとめて入手したとき、パウル・アンゲラー盤をオークション処分しようと画策したが、300円で全く反応がなかった(当然売残)記憶有。そのくらい不人気。実用音楽だけれど、ヴォルフガング晩年の熟達した(ムダを削ぎ落とした)技法を誇る名曲也。こんなシンプルで飾りのない旋律が、じつはとても滋味深い味わいタップリなんです。

 この作品にしては編成が少々大きいようであり、演奏スタイルもしっとり残響豊か、ゴージャスな感じ。アンサンブルは洗練され、おそらくは本来の姿であろう素朴なものからちょっぴり外れております。優雅、リズムは柔らかく、これはこれで極上に洗練されたアンサンブルが耳当たりよろしい。おそらくはK.605が有名であって、3曲目「橇乗り」の朗々とした(他愛もない)トランペット(バルブレス・トランペット?)+鈴の音色が趣き深いものでしょう。12のドイツ舞曲 K.586はBRILLIANT全集で聴いていたはずなのに、旋律に記憶がありません。馴染みの躍動するリズム。タラス・クリサの素っ気なさ(これはこれで悪くないが)とは対極にあるような、良く歌う演奏でした。

 このCD本丸は「グラン・パルティータ」でして、ワタシ大のお気に入り作品也。なぜか古楽器による演奏を聴いたことないんです。ま、どんな演奏でも文句なく、たっぷり堪能してきたんだけれど、おそらくはこのパイヤール盤こそ、かつて聴いた中でヴェリ・ベスト〜なんちゃって、つい先日(名手クラウス・ベッカー(ob)率いる)リノス・アンサンブルの独墺系硬派な響きを誇って、凄い説得力演奏に感心したばかり。こちらお仏蘭西系軽妙粋な味わいの魅力であります。

 颯爽として粋、仏蘭西系の名手達は響きがカルいというか、明るく、薄いんです。これがなんとも言えぬ晴れやか、華やかな響きを作って、ほとんど陶然とさせるアンサンブル。細部まで配慮の行き届いた色付けが絶妙の効果を上げております。コントラバスが入っているようだけれど、低音を強調しないのも意識したスタイルなのでしょう。それにしても・・・なんという名曲中の名曲!第1楽章から愉悦に充ちて躍動し、第2楽章「メヌエット」に於けるリズムの快さ、やがて暗転し、そして晴れやかな表情に戻る陰影の絶妙。

 第3楽章「アダージョ」は、映画「アマデウス」中にてアントニオ・サリエリが楽譜を落としてしまう場面ですよ。陶酔。恍惚。悦楽、そんな言葉しか思い浮かびません。シンプルな旋律の繰り返し、追っかけ、楽器の対話が信じられぬ効果を生む驚愕。名残惜しくラスト、優しくルバートが掛かるのも効果的。第4楽章「メヌエット」は一点の曇りもない快活・・・と、思ったらちゃんと寂しげ、情感豊かな変化が途中待っておりました。この辺り、極限のニュアンス演奏。

 第5楽章「ロマンツェ-アダージョ」は抑制を見せた表情にて開始され、やがて屈託のない快速な明るさへと受け継がれました。ひとしきり躍動すると、ゆったりとした冒頭旋律に戻ります。第6楽章「主題と変奏 アンダンテ」って、Wikiによると「フルート四重奏曲第3番K.Anh.171(285b) の第2楽章と同じ曲」とのこと。そうでしたっけ?あとで確認しなくては。牧歌的安らかなる変奏の見事さ、鮮やかさ、次々とテイストを変えていく旋律はヴォルガングのマジックであります。

 終楽章「モルト・アレグロ」の万感迫る大団円に、陰りなど一切なし・・・この作品はLP時代(正確にはFMエア・チェックが最初)ストコフスキーで出会ったんですよ。先ほど、どんな演奏でも!と、豪語したけれど、こんなギャラントな演奏聴いちゃうと、ちょっぴり贅沢をしすぎた、後戻りはできないかも、と後悔したものです。

(2010年7月23日)

【♪ KechiKechi Classics ♪】

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written by wabisuke hayashi