Mozart

交響曲第31番ニ長調K.297(300a)「パリ」
交響曲第36番ハ長調K.425「リンツ」
交響曲第40番ト短調K.550（初稿クラリネットなし）

ヤープ・テル・リンデン/アムステルダム・モーツァルト・アカデミー

BRILLIANT 92625/9　2002年録音（写真はネットより入手BRL94295）

　2020年秋CDはほとんど処分してデータ拝聴に切り替えたけれど、彼の11枚は手許に残しました。8年ほど前にコメントした 交響曲第33番 変ホ長調K.319/第34番ハ長調K.338/第35番ニ長調K.385「ハフナー」に、かつて若い頃Mozartの交響曲全集LPCDはいかに贅沢品だったことか！そんな言及も有、その記憶から抜け出せず断捨離不可。偶然のめぐり合わせ、2020年はこんなお気に入り作品をほとんど聴いていないことに気付きました。

　Jaap ter Linden（1947ｰ阿蘭陀）は古楽器チェロの名手、これはBrilliantが全集を発売するために一気に録音したものでしょう。録音用臨時編成アンサンブルかも。これがなんの力みもない、リズムのエッヂも立てない、要らぬ飾りのないノンヴィヴラートな弦、穏健派古楽器表現、味わい深く作品の素の姿を描き出して秀逸。素朴にに淡々、全曲こんな感じが続いて、音質も自然に聴き疲れしない優秀録音。

　ニ長調交響曲K.297 (300a)「パリ」は作曲者22歳、2管編成にティンパニ、クラリネットも入って（強弱を強調して大衆受けする）パリの聴衆の好みに合わせた作品とのこと。一般にヴィヴィッドに熱気に充ちて演奏されると思うけれど、なんせ昔のことだからそれなりのボリュームでも充分メリハリを感じたことでしょう。第1楽章「Allegro assai」一発ぶちかましの出足から、デリケートな静謐との対比は明快な喜びにあふれて、味わいある滋味な響きは古楽器ならでは。（8:32）第2楽章「Andante」はゆったりとした6/8拍子。薄い弦と高らかに歌うフルートの対比が優雅な味わい。（第2稿）（5:41）第3楽章「Allegro」そっと囁くような弦に油断させて、ティンパニ弦の爆発に驚かされる対比の見事さ。テンポは慌てず着実な歩み、劇的に詠嘆し、揺れるMozartの傑作が躍動します。（4:01）

　ハ長調交響曲K.425「リンツ」は27歳、元気よろしく大きく、明るい作品。ティンパニは入っても、クラリネットはもちろんフルートもありません。第1楽章「Adagio-allegro con spirito」は堂々たる序奏から滋味深い古楽器サウンドに魅了され、華やかな第1主題はのびのびスケールは大きく、素朴な味わいを維持しております。繰り返し有。第2楽章は陰影豊かに暗転するところがMozartらしい個性。テンポは適正を感じさせて着実なもの。（10:47）第2楽章「Andante」優しい緩徐楽章には（フツウは休む）トランペットとティンパニが加わってアクセントになっております。（9:23）第3楽章「Menuetto」明朗な舞曲はいかにも典型的なもの、この後の劇的ト短調交響曲とは趣が異なりました。やや速めのテンポに躍動するところ。（3:10）第4楽章「Presto」夢見るような弦に導かれて、決然とした管楽器ティンパニがリズムを刻んて力強い。ここは慌てて粗い仕上げになりがちなところ、優雅なバランスは爽快でしょう。（7:49）

　全曲中ひときわ人気高い哀愁の浪漫漂うト短調交響曲K.550は32歳短い人生晩年の傑作。フルートは1本、トランペットもティンパニもありません。ここではクラリネットなしの初稿を使用、ド・シロウトにその微妙な違いはわかりにくいもの。（けど、クラリネット入りを聴くとその存在はしっかり理解できる）第1楽章「Molt allegro」泣ける旋律は素朴、過不足のない力感に充ちて、淡々粛々と足早に過ぎ去ります。ザラリとした弦が味わい深いこと。（7:38） 第2楽章「Andante」安寧の緩徐楽章もリズミカルな足取りは軽快なもの。木管の粗野な響きは魅惑でしょう。繰り返し有。（10:01）第3楽章「Menuetto」ノンビリとした舞曲だったはずのメヌエットも、しっかりリズミカルに哀愁を刻んで駆け抜けました。（3:44）第4楽章「Allegro assai」切迫する激性も、慌てず騒がず、イン・テンポを基調として静かな哀しみに充ちて絶叫しない。バランスのよろしい熱気を感じさせました。（6:50）