Mozart 管楽器のための協奏曲集
(レフ・マルキス/新アムステルダム・シンフォニエッタ)


BRILLIANT 99329
Mozart

クラリネット協奏曲イ長調K622
ハーマン・デ・ボア(cl)

ファゴット協奏曲 変ロ長調長調K199
ロナルド・カルテン(fg)

協奏交響曲 変ホ長調 K297b
バート・シュニーマン(ob)/ハーマン・デ・ボア(cl)/ヤコブ・スラグター(hr)/ロナルド・カルテン(fg)

レフ・マルキス/新アムステルダム・シンフォニエッタ

BRILLIANT 99329 1994年録音  40枚組9,500円で買ったMozart MasterWorksのウチの一枚。Recorded by AVROとなっております。

 プラケース仕様40枚組を購入したのが1999年。@237.5という単価は当時驚異であったし、BOOK・OFFにて@250処分というのは黄金の価値があったんです。やがて21世紀にはCD価格大暴落がやってきて、i-pod(またはそれに類するメモリ・オーディオ)の隆盛があり、”稀少盤”とか”究極の一枚”などという言葉は意味を失いつつあります。不況理由だけじゃなく、メジャー・レーベル、メジャー・オーケストラの新録音も激減。クラシック音楽というのは息が長くて、1980年頃のディジタル録音だったら”ほとんど新品!”ですから、体感的には。だから、それでなんとかやっていける。

 ほとんど経済的痛痒を感じることなく、音楽音源を好きなだけ入手できるようになった現代。ことの神髄は聴き手の誠実な聴き方にあるのは明々白々です。衣装を替えBRILLIANTの「全集」(170枚)は弐万円ほど、これでも充分安いがオークションなどでは更にその半額ほどで入手可能。この管楽器協奏曲は現役の一枚となります。↓以下の更新はたしか購入当時のものだけれど、真面目に再聴いたしましょう。

 レフ・マルキスは、彼(か)の驚異的アンサンブルを誇った(伝説の)モスクワ室内管弦楽団の初代コンマスであった、とのこと。その後、あちこちで録音を見掛けるようになりました。その経歴に恥じぬ洗練されたクール溌剌なるサウンドを誇る現代楽器アンサンブルとなります。音質極上。

 ハーマン・デ・ボアはネットで検索しても経歴などはわからぬが、ヴィヴラートがセクシーなキレのある音色であって、諦観の作品には少々似つかわしくない色気もあります。レオポルド・ウラッハとかアルフレート・プリンツを聴き慣れた耳には、ずいぶんとモダーンで颯爽、華やかに響きます。たしか、クラリネットには”流派”があるんですよね。ウィーン・フィルとかベルリン・フィルとは明らかに違う(と思う)。

 ”ウキウキするように、楽しげで弾むような演奏。軽快で、細かいニュアンス”とは以前の感想だけれど、久々の再聴では少々技巧が先走った感じはあります。エエ演奏に間違いなし、だけれど。

 ファゴット協奏曲の刷り込みは、ジョージ・ズカーマン(fg)なんです。なんせ「コロムビア・ダイヤモンド1000シリーズ」(1970年頃)の世代ですから。ユーモラスで楽しくて〜この楽器をソロとした作品としての最高峰でしょう。これも”モダーンで颯爽、華やか””少々技巧が先走った感じ”は変わらず、これはレフ・マルキスの表現方向なのかも知れません。ユーモラスで牧歌的〜そんな楽器のイメージだけれど、このテクニックの冴えは尋常に非ず。

 上手いが、味わいは・・・という論評は止めましょう。これも我らがヴォルフガングの魅力的な表現のひとつ。

 オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルンのための協奏交響曲 変ホ長調 K.297b(K.Anh9)は稀代の名作名旋律の連続であって、どこをどう聴いてたって”Mozart !”に間違いない(はず)・・・だけれど、疑作だそう。”モダーンで颯爽、華やか”という常套句は3度目だけれど、オーボエ(バート・シュニーマン)は思いっきり明るく、ホルン(ヤコブ・スラグター)のヴィヴラートも軽快です。スーパー・テクニックを駆使して速めのテンポ、易々と進んで、アンサンブルの息の合わせ方はお見事。細部ニュアンスの味付けにも不足はない。

 終楽章には少々落ち着きというか、味わいが足りないかな?音楽の味が若い感じ。年齢(とし)を重ねると保守的になりがち・・・ノーミソ中ではウラッハ始めとして往年のウィーン名手達の薫風漂うような演奏(1949年)が懐かしく木霊しておりました。

(2009年5月8日)

 「40枚もまとめて買っちゃって・・・どうせ全部は聴けずに飾っとくんだろう?」な〜んて、思う人もいるでしょう。そうなんですよね。買うときは嬉しいんだけど、買っただけで満足して、コケシ状態となりがち。で、とにかく並んだウチの真ん中あたりを引っぱり出したらコレでした。

 ・・・で、もう、これが驚愕の演奏。Nieuw Sinfonietta Amsterdam って知ってました?レフ・マルキスをはじめとして、ソロも知らぬ名前ばかり。(例によって読み方はいい加減)録音極上。現代楽器使用。この辺りは極め付きの名曲だし、大お気に入りでもあるので、けっこうCDは持っているんですけど、もしかしていままで聴いたウチで最高かも。いや〜買っといてよかった。

 クラリネット協奏曲。

 序奏が始まったとたん、オーケストラが上質なのに気付きましたね。各パートが浮き立って、たとえばファゴットなんかも夢見るような、色気のある音色が嬉しい。ソロは、若々しく多彩で、ちょっとセクシーで適度なヴィヴラートもかかって信じられないくらい。なにかウキウキするように、楽しげで弾むような演奏。軽快で、細かいニュアンス(ほんの少しのテンポの揺れ、間)もたっぷり。陶酔。(もちろんテクニック最高。だけどそんなことは本質じゃない)

 この曲は「諦観」と思っていました。心静かに、魂が洗われるような曲。たしかにそうなんだけど、この演奏では煩悩は消えないなぁ。恋をしたくなるような、華やいだ気持ちになる演奏。やや早めのテンポ、若い女性がちょっとすまして、さっそうと春の日差しのなかを歩くよう。

 朝聴いて、仕事から帰って、また聴きました。聴けば聴くほど幸せになる演奏。

 ファゴットは、なんかユーモラスで不器用で、いいですよね。さっきクラリネット協のバックで聴こえた、色気あるファゴットはカルテンだったんでしょう。ここでのバックは、オーボエの透明な音色がたまりません。なんと生気に満ちたアンサンブル。

 ノリノリでハンサムなソロですね。「ユーモラスで不器用」ならぬ「ハンサム」・・・・・カッコいいんですよ。音色が洗練されていて、高音で抜いてヴィヴラートを利かせるところなんてゾクゾクもの。リズムにのって快調に音楽が進んでいきます。上滑りにならないのは、よく歌っているから。

 第2楽章も早めのテンポですが、身体が自然と揺れてくるような流れの良さ。微笑みが溢れるような、幸せに満ちた演奏。オーボエやホルンとの掛け合いは、まるで歌で会話しているよう。終楽章における、文句なしの安定したテクニック。はつらつとした確信に満ちた歩み。

 この2曲、とても演奏の感じがとても似ている。次の協奏交響曲も期待大。

 ちょっとゆったりめのテンポで始まって、すぐエンジンがかかって感興が高まります。この演奏、テンポの頻繁な揺れ(というかソロの見せ場のタメ)がじつに効果的。ここでの主役はオーボエだな。その流麗・幽玄で研ぎ澄まされた音色は、存在感が凄い。(さっきのファゴット協のオーボエは彼ですね)ホルンの深い音色も期待通り。

 やっぱり、若々しいリズム感とノリ・・・・これは指揮者の力量なのでしょう。これまで聴いてきたほかのCDとは印象が違うんですよ。そして、歌。ソロがとてもよく歌います。美声を楽しげに競います。早めのテンポはいつも通り。クラリネットとファゴットはさっきのソロですから、云わずもがな。

 この曲はなんども聴いているはずなのに、アダージョは新しい発見。管楽器ソロの絡み合いは、セレナード 変ロ長調K361「グラン・パルティータ」におけるアダージョと同質の感銘だったんですね。(映画「アマデウス」に出ていた音楽)美しい旋律をひとつひとつ確かめるような、深い呼吸。

 ユーモラスな終楽章は、ソリストがニコニコと演奏を楽しみながら、次々と登場します。オーボエがとくに浮き立って目立つけれど、ときどきお互いの音を聴きあって、そっとテンポを落とすところなんてニクい。テンポは早めなんでしょうが、これが適正と思わせる説得力充分。旋律のメリハリの付け方も確信に満ちて、じつに個性的。最後のアッチェランドもあっさり決めて云うことなし。

 ハツラツとした、お色気たっぷりのMozart は如何?


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written by wabisuke hayashi