Debussy 前奏曲集第1巻全曲
(アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ1977年ヴァチカン・ライヴ)


Debussy 前奏曲集第1巻(アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ1977年ヴァチカン・ライヴ)
Debussy

前奏曲集第1巻全曲

アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ(p)

membran 223500-CD5   1977年ヴァチカン・ライヴ 10枚組1,990円にて購入したウチの一枚

 音楽は嗜好品なので、好き嫌いは当然でしょう。世間ではBeethoven が人気なのかも知れないが、ワタシはフランスのピアノ作品が大好きです。Debussyの前奏曲集第1巻は、(おそらくは十数年前)FMで聴いたアルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ(1978年DG)にすっかり痺れました。「デルフィの舞姫」から、アイカイックで妖しげ甘美な幻想ノーミソに押し寄せて、暗闇に精神(こころ)が沈静化する想い。(増三和音って言うんですか?)ワタシはあまり演奏家に拘泥する方ではないから、モニク・アースの録音でも充分満足しておりました。

 やがて数年経過、membran(DOCUMENTS)から激安ボックスセット登場!いままで、あちこちバラ買いしていた彼の(怪しげ)ライヴ音源をまとめて楽しめるように。その中に、このDebussyも含まれておりました。正規録音ではないし、モノラルだけれど、そう劣悪なる音質でもありません。ワタシはFMエア・チェックでの感動を再体験できることとなりました。まったく素晴らしい。文句なし。

 ぼんやり曖昧なる雰囲気演奏ではなく、明快な粘着質を感じさせて、まるで黒砂糖を煮詰めたような、神秘的な苦甘さが強烈。・・・これは「音楽日誌」に掲載した(聴取当初の)感想であって、こうして再聴してもまったく同印象であります。タッチが明快、骨太く、鮮烈であって、しかも鈍く輝いて旋律表現に曖昧さ皆無。重心はあくまで低く、上品であります。

 デルフィの舞姫/帆/野を渡る風/音と香りは夕暮れの大気に漂う/アナカプリの丘/雪の上の足跡/西風の見たもの/亜麻色の髪の乙女/とだえたセレナード/沈める寺/パックの踊り/ミンストレル〜収録はこの作品のみ42分ほど・・・これで充分だと思います。題名は、聴き手が先入観にとらわれないよう楽譜のラストに小さく表記されているそう。「亜麻色の髪の乙女」はともかく、具象を意図したものではないでしょう。例えば「デルフィ」って、欧州の知識人にとって特別な意味や、古典文学的な意味合いが(前提)としてあるものなのでしょうか。「アナカプリ」はどうなんでしょう。「沈める寺」はケルトの「イースの伝説」が元になっているとか・・・

 ・・・そんなことを考えず、もっと純粋に楽曲を楽しめ、という作曲者の趣旨なのか、それとも誰でも知っている教養の範囲なのか?極東の田舎者であるワタシには、不安な心証が揺れるような甘美な旋律を、純粋に楽しませていただくだけであります。「西風の見たもの」〜とは、フランス特有の強風の描写だそうだけれど、むしろ東洋の感性で語られるのが相応しいような(儚い)インスピレーションをかき立てられる題名です。

 第2巻全曲は同ボックスにて、1982年シュトゥットガルト・ライヴが楽しめます。(少々音質は落ちるが)頑迷に構成された起承転結ではなく、移ろいゆく風景とか心証の揺れを楽しませて下さる音楽。ミケランジェリは曖昧なる雰囲気ではなく、かっちりとした”芯”を感じさせる明快なる世界を形作って、あくまで個性的に濃厚でありました。

(2006年12月1日)


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written by wabisuke hayashi