モニク・アースの芸術


DG	439 666-2 Debussy

前奏曲集第1集/2集(1962年録音)

Ravel

左手のためのピアノ協奏曲
ピアノ協奏曲ト長調(1966年録音)

ポール・パレー/フランス国立放送管弦楽団

Bartok

ピアノ協奏曲第3番

フェレンツ・フリッチャイ/ベルリンRIAS交響楽団(1955年録音)

トランシルヴァニア地方の民謡によるソナチネ(1953年録音)

モニク・アース(p)

DG 439 666-2 2枚組1,100円で購入

 モニク・アース(Monique Haas 1906-1987仏蘭西)は、ERATOにDebussy(1970/71年)もRavel (1968年)も全集を録音しているんですね。(一枚入手していて「Ravel ピアノ曲集(モニク・アース)〜神経質で繊細な作品が、ゆったり余裕の味わいに変貌してとても聴きやすい」〜音楽日誌2003年5月・・・とのこと)だから、この前奏曲集は旧録音ということになります。

 「話題になったこともないし、だれも知らないピアニストかもしれません」なんて、失礼な言い種!この56歳のときのDebussyは、淡々として自然体というか、テクニック的にはまったく問題ないが、涼しい顔でサラリと演奏している様子が眼前に浮かぶような余裕。「西風の見たもの」は、再聴してもやはりショッキングな迫力でドキドキしますね。凝縮した集中力が神経質に鋭く・・・風演奏ではなくて、リラックスしているが、細部迄仕上げはていねい、淡々と耳元で話しかけるようであって、オーバーアクションにはならない・・・

 Debussyって、妖しくて濃密で・・・って、これはミケランジェリからの先入観でしょうか。もっと平明な気持ちで・・・第1集全12曲はあっという間に終了しました・・・第2集開始。この曲は(下にも言及がある)純個人的にLP時代のリヒテル盤(あれはいつ、どこのライヴだったんだろう?)に連想が飛びます。子供には暗鬱で、難解な音楽でした。以前のワタシは「多彩なリズム感」と評しているが、ムダもリキみもない静謐なる、しかし切れはちゃんとあるリズム感、といったところでしょうか。

 多彩なのは変幻自在なる作品のほうでしょう。音の粒がいつまでも澄んで、清廉なる官能が存在します。弱くはない。ラスト、花火は美しく爆発しました。(全77分)

 二枚目の収録はなんと贅沢なこと。まずRavel 「左手」。嗚呼、やはりパレーの剛直かつ華やかなオーケストラが文句なく素晴らしい(録音もかなりのもの)〜ピアノはDebussyと変わりません。しかし、優秀なるバックに触発されてか、ややホット加減が増加してノリノリです。これはキラキラと技巧が輝いて、しかもこれ見よがしのテクニック披瀝としてではなく、自然な流れの良さが光りました。

 両手の協奏曲のほうは、流麗じゃないんです。これもパレーのセンス(それにしても、これぞ多彩!といったオーケストラの魅力)なのかな?リズムをしっかり取って、足取りが軽快方面ではない。「流さず、しっかり弾きましょう」といった決意、雰囲気とか勢いで音楽は聴かせないぞ、細部まで微細なるニュアンスの描き分けを行って、しかもそれなりに重量級(ピアノが、じゃなく、オーケストラも含めた全体が)。

 アダージョの途方に暮れたような寂しさは予想通り〜シミジミ味わい深い。そして終楽章の粋な風情が洒落ていて、ピアノはどこまでもクールでした。そんなに沢山経験はないが、かつて聴いたこの作品中では、もっともワクワクしちゃう演奏でした。

 あと、モノラル録音ながらBartokが二曲も収録されてます。(これが贅沢たる所以)いいですね。技巧に不足はないが、強面じゃないピアノ。暴力的なBartokも素敵(と、いうか王道かな?)だけれど、親密で繊細、淡々とした方向も親しみやすい。アースは緩叙楽章が魅力なのかな。静かなバックに乗ってリリカルなピアノは涼しげで、あくまでやさしい。終楽章の切れ味は、それは暴力的な味わいに結びつきません。ティンパニが印象的ですよね、この作品。

 「ソナチネ」の懐かしさは、例えば「ルーマニア民族舞曲」のテイストにそっくり・・・というか。トランシルヴァニア地方ってルーマニア(ドラキュラで有名か)ですもんね。かなり洗練された、クサくない演奏だと思います・・・なんどか聴きながら、この文書をまとめていたら、広島Groovin'で何度も見掛けたDebussy全集、Ravel 全集(ERATO)がとても欲しくなってきました。(2004年6月11日)昔の文章はそのまま以下に。


 1909年パリ生まれの(調べがつきませんでしたが、いまでもご健在なのでしょうか)モニク・アースの録音を集めた貴重な2枚組。LP時代、ラヴェルの協奏曲はヘリオドール1000シリーズで愛聴していました。話題になったこともないし、だれも知らないピアニストかもしれません。
 フランス・ポリグラムが、自国の誇り高き女流ピアニストをこうしてCD化してくれたことに感謝。売れなかったんでしょう、こんなに安く手に入りました。音の状態も良好。盛りだくさんのお徳用CD。しかも、きわめて水準の高い演奏ばかり。メジャー・レーベルもたまには良いものです。バックも豪華。

 ドビュッシーの前奏曲第1集は、ミケランジェリの濃厚で集中力ある演奏で目覚めました。第2集のほうは、リヒテルのライヴでずいぶん長いおつきあい。(たしかCD化はされていないはず?ワタシのはLPをテープに落としたもの)

 アースの演奏は、想像以上に現代的で、明快なピアノが軽快で、味わい深い。もっと雰囲気で聴かせる人かと思いましたが、しっかりとした技巧、充分繊細で、やさしさも暖かさも有。「西風の見たもの」における、超絶技巧と激しい爆発。しかも音は濁らない。一転して「亜麻色の髪の乙女」の、淡々としながらも夢見るようなやさしさ。第2集における多彩なリズム感も最高です。(一枚目77分収録のお徳用)

 ラヴェルは、デトロイト響の指揮者を辞して本国に帰った最晩年のパレーとの競演。
 なんといっても「ハッ」とするくらいオーケストラが輝かしい。目の覚めるように鮮やかな管楽器群の魅力。線の太い豪快さと、きめ細かい配慮が同居するのはいつも通りのパレー節。(それだけでも価値がある。痺れます)録音も最高。

 「左手」は、力みもなく、物々しくなっていません。なんと可憐で、粒の揃った音色なのでしょう。流麗なテクニックも最高。ピアノ協奏曲は、キラキラと水面に太陽が反射するかのような華やかなピアノ。「左手」以上に、ノリに乗った熱い演奏です。アダージョの落ちついた雰囲気も出色。(以上ここまでステレオ録音)

 フリッチャイは、アンダとバルトークのピアノ協奏曲全集を残して高い評価を得ていましたね。この3番はバルトーク最晩年の大衆的な作風を反映していて、ひときは馴染みやすい名曲。(LP時代は「弦打チェレ」と組み合わせて出ていたらしい)

 アースのピアノはリリカルで暖かい音色、ときどきバルトーク演奏にありがちな強面な力みはありません。やはり技術的には云うことはない切れ味ですが、冷たさとは無縁。第2楽章の優しくおだやかな歌、最終楽章も淡々としながらも明快なリズム感がすばらしい。いままで聴いたうちで、もっとも親しみやすい演奏と思いました。

 フリッチャイのバックは、いわずもがなの引き締まって緊張感のある最高のサポート。終楽章は圧倒的な迫力。

 「ソナチネ」は初めて聴きました。おそらく一連の民謡収集の研究成果による作品と思いますが、懐かしくもエキゾチックな味わいある4分弱の小曲。初めて聴いた気がしないのは、旋律のエッセンスが後の作品に生かされているからでしょう。(以上、優秀なモノラル録音)


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written by wabisuke hayashi