Mahler 交響曲第3番ニ短調/第10番 嬰ヘ長調「アダージョ」
(ラファエル・クーベリック/バイエルン放送交響楽団)
Mahler
交響曲第3番ニ短調(1967年)
交響曲第10番 嬰ヘ長調「アダージョ」(1968年)
ラファエル・クーベリック/バイエルン放送交響楽団/女声合唱団/テルツ少年合唱団/マジョリー・トーマス(a)
DG 429 042-2 10枚組(購入価格失念 壱万円以上したと思う)の一枚
まだLPに固執し、世間ではCD時代に至っていた1990年頃、ぼちぼちCDも買おうかな、と大枚をはたいて入手した全集より。爾来20有余年、転居数回常に棚中に存在を主張しております。こどもの頃LPは(CD出始めも)高価で、しかもMahler の発売数は少なく一枚では収まらぬ作品も多かった(昔は第5番でもLP2枚組でした)から、”Mahler 全集”って、ほんまに贅沢品でした。しかも第3番って長大、この演奏でも全6楽章93分超えます。でもね、初めて聴いた時から大好き、いくら長くても延々と続く美しい旋律を愉しめちゃう。生演奏体験したことはなくて、2009年末、オーケストラ・アンサンブル金沢(井上道義)の演奏会チケットを入手したのに、甥の結婚式とぶつかって泣く泣くオークションにて手放したのも思い出。
20世紀後半〜21世紀、ほんまに「Mahler の時代」となって次々と新録音が出るし、クーベリックだってライヴで全集入手可能、そちらのほうが世評高いかも知れません。(半分も聴いておりません)こちら、セッション録音全集も地味ながら、なかなか味わいある出来と感じます。ここ最近の新録音には叶わぬが、これはこれで自然な音質もそう悪くはない。
第1楽章「森が私に語ること−岩山が私に語ること−牧神(パン)が目覚める、夏が行進してくる(ディオニュソスの行進)」。この楽章のみで30分を超え、印象的なホルン8本による第1主題はシンプルで力強い開始。粗野ではないが、素朴で飾りなく、ほとんど素っ気ないほどに淡々と進んでいきます。雄弁壮大に表現可能な(そうしたくなる)ところだから、amazonカスタマーレビューに於ける某淑女さん「全然,感動を覚えませんでした」との手厳しいコメントにも一理あるんです(お気に入りはバーンスタインだそう/おそらく新録音?)。でもね、力強く、着実、厚みがあって暖かいサウンドは見てくれ野暮ったいけど、誠実な味わいありませんか、これはこれで。色気やお洒落が足りぬか。
第2楽章「野原の花々が私に語ること」。安寧穏健なるメヌエット(といっても古典派とはずいぶんと姿が違う)。微妙なテンポの揺れを伴って、やはり”素朴”、そして繊細な仕上げであります。ホルンの音色が暖かくてエエ感じと思うんだけれど。第3楽章「夕暮れが私に語ること−森の獣が私に語ること」〜これってスケルツォなんでしょうか。そっと開始して、やがて快活ユーモラスに盛り上がって、やがて静謐に戻る・・・遠くから鳴るポストホルンがキモでして、ここでの演奏はいっそう奥床しく、儚げに響きました。
第5楽章 「カッコウが私に語ること−朝の鐘が私に語ること−天使が私に語ること」。マジョリー・トーマス(a)の深く落ち着いた声質、深い瞑想と深呼吸のような味わいの楽章。ここもホルンでしょ、+イングリッシュ・ホルンの粗野な響きが効果的でしょう。第5楽章「カッコウが私に語ること−朝の鐘が私に語ること−天使が私に語ること」〜これは無垢な少年(女声)合唱団の軽快リズム「ビム・バム」(この旋律は第1楽章冒頭の印象有)の繰り返しが可憐であって、やがて女声合唱とアルトが「角笛」〜「3人の天使は歌う」に基づく歌詞を歌(っているんだそ)う。ここ大好き。何度聴いても厭きない。この楽章ヴァイオリンは休んで、金管の柔らかい響きが魅力です。
終楽章「愛が私に語ること・父様はぼくの傷口を見てくださる」。万感胸に迫る静かな「ゆるやかに、安らぎに満ちて、感情を込め」た楽章也。美しい旋律満載のMahler 中でも屈指の名曲じゃないか。ここでもクーベリックは素朴さ、床しさ、誠実を忘れぬ地味な表現であります。弦は甘美官能を以て雄弁に語らない、金管は詠嘆に節回しを強調しない。やがて飾らないサウンドは粛々と聴き手を包み込んで下さいました。もとより馬力に不足するオーケストラでもなし、22:07だから心持ち速めのテンポ、粘つかず、さっくり淡々と進んでついにクライマックスがやって参りました。(この程度のコメントのため、断続的に3度繰り返し聴き!感銘の質は変わらない)
●
交響曲第10番 嬰ヘ長調「アダージョ」は、意外と難しい作品だと思いますよ。速めのテンポを採用しない人でも、途中素っ気なくそそくさと走る場面があって不思議(スコアがそんな風に書かれているのか?)。23:26〜これは30分を越えることも多い中、かなりの快速と言うべきなのでしょう。しかし、急いて落ち着かない印象に非ず。かなり怪しい、イヤらしい旋律雰囲気作品と思う(褒め言葉のつもり)が、クーベリックは淡々と飾りの少ない路線継承しつつ、”素っ気なくそそくさと走る”ようなことはないんです。逆に作品の”怪しさ”際立つ。
バイエルン放送交響楽団は、マイルドで深みのあるサウンド。コンセルトヘボウと並んでワタシお気に入りのオーケストラ・・・なんだけど、マリス・ヤンソンスってあまり聴いたことはないんだな。不思議。
(2011年11月4日)