Sibelius 交響曲第1番ホ短調/第4番イ短調
(パーヴォ・ベルグルンド/ボーンマス交響楽団)


Dclassics HR703862  4枚組1,510円 Sibelius

交響曲第1番ホ短調 作品39(1974年/サウスハンプトン・ギルド・ホール)
交響曲第4番イ短調 作品63(1975年/ロンドン・アビーロード・スタジオ)

パーヴォ・ベルグルンド/ボーンマス交響楽団

DiskyCommunication BX703872 (Dclassics HR703862) 4枚組1,510円

 Sibelius は子供の頃からの一貫した嗜好でございます。ここ数年CDの棚中在庫処分を加速させ、例えばエイドリアン・リーパーの旧全集(NAXOS)や、モーリス・アブラヴァネル全集、ほか単品一枚物はいくつか処分済みながら、全体として”減っていない”、聴く機会の多い作曲家作品となります。以下の記述(おそらく2001年)によると、このボーンマス響との全集を購入したのは2000年とのこと。当時としては出色の安さ。(後、ヘルシンキ・フィルとの全集も入手/ヨーロッパ室内管との演奏はオーケストラの個性が気に喰わず処分済)

 音楽への対峙は年々大まかとなって、細部重箱の隅的聴き方をしなくなった〜全曲の流れとか雰囲気を大づかみに愉しめれば、と思います。”やや粗い印象”、”弦も、むしろ薄いといって良い”、”オーケストラの「鳴らなさ」は・・・少々気になる”〜とは8年前の否定的コメント部分だけれど、鬼のように集中して聴けばそんな部分も発見できるのかもしれないが、現在の馬齢を重ねた(アバウトな)耳にはそんな印象は雲散霧消しております。ボーンマス響って、ここ最近録音も多いですよね。

 交響曲第1番ホ短調は(以下の記述にもあるが)これがヴェリ・ベスト。剛直であり骨太、アツい推進力、それでいて北欧の清涼荒涼たる味わいを失わない。バルビローリの入念粘着質なる横流れ纏綿たる歌(これも決まっている!)とは、方向性の異なる強靱爽快なるスケールとなります。最初から最後までテンションを維持して昂揚し続けます。録音もよろしい、というか、作品の個性に似合っております。

 憧憬に充ちた第1楽章「アンダンテ」の開始、冷涼な空気を深呼吸するかのような、いきなりの大爆発であります。リズムのキレのよさ、木管のニュアンスと金管の爆発の対比もお見事。第2楽章「アンダンテ」の優しい弦の主題のわかりやすさ、木管との対話が、やがて緊張感を高めて金管(豪快です!)が参入〜クライマックスを醸成させちゃう。その辺りの微妙なテンポの配分、自然な揺れと流れが作品への愛情を感じさせます。中間部のホルンもエエ音で鳴っておりますね。

 第3楽章「スケルツォ」は、Brucknerばりに躍動するリズム(ティンパニお見事)であり、もっと泥臭い、荒々しい、わかりやすい旋律が支配する楽章也。トリオ部分での優雅な対比も素晴らしい。この辺りの構成というか、組み立てはベルグルンドの腕前であります。最終楽章は「幻想風に」と指示されており、不安げであり緊張感漂うところ。清涼感と迫力のバランスは熟達のワザであって、響きは鈍重に濁らない。

 ボーンマス交響楽団にはセクシーな艶を期待できないが、作品に相応しいクールで見通しの良い迫力サウンドで鳴っております。前任のシルヴェストリ時代に比べると、アンサンブルの精緻さに格段の差が認められるでしょう。第1楽章の”憧憬に充ち、冷涼な空気を深呼吸”〜をラストまで維持し、存分のタメを以て全曲の締めくくりにも満足。

 再購入全集では組み合わせが替わって、交響曲第4番イ短調となります。これが難解、難曲中の難曲。暗鬱静謐、モノローグのような雰囲気が全体を支配して聴き手を悩ませる名曲。一歩間違えれば混沌の渦に叩き込まれること必定。第1楽章「モデラート」から息も絶え絶えの重い足取りであって、先ほどの第1番に於ける快活なるリズム、爆発はどこに行ったのでしょう。ベルグルンドは時に金管、ティンパニの強烈な楔でメリハリを演出します。ここでもホルンがエエ音で鳴っております。

 第2楽章はスケルツォなんだけど、ユーモラス軽妙なる主題はどこか不安げです。先ほどのシンプルなリズムからは遠く、儚げであり、変化に富み、複雑な構成でもあります。盛り上がりというか、サビがわかりにくい楽章であり、いつの間にか終わった、といった感じ。第3楽章「ラルゴ」は聴き手の集中力が問われる深遠なる緩徐楽章であって、その美しさを堪能するにはそうとうの努力が必要なんです。それにしても暗いなぁ。

 終楽章はチェロ・ソロ、グロッケン(チューブラーベル)も登場して、前楽章より色彩的でずっとわかりやすい。クラリネットの素っ頓狂なる旋律、金管の合いの手も楽しげ。この作品、明晰な指揮者の統率力がないと音楽の姿が見えなくなるかも。精緻さと構成配分の妙が問われるところ。ベルグルンドの指示に曖昧さはない。リズムの切れと、金管+ティンパニの使い方が上手い。

 明らかに独墺系とはことなる語法、サウンドであって、ザンデルリンクとかカラヤンでは(いくら立派でも)ワタシは世界が違うと感じるんです。緻密濃密とは異なる、もっと軽量明快なるサウンドが作品に似合って、ベルグルンドの豪快なるリズムが更に効果的。以前ほどEMI録音への違和感を感じなくなったが、中低音の弱さは感じます。但し、自然さに好感を持てる、これは優秀録音だと思います。

(2009年5月29日)
 

EMI TOCE8908
Sibelius

交響曲第1番ホ短調 作品39(1974年録音)
交響曲第5番 変ホ長調 作品82(1973年録音)

パーヴォ・ベルグルンド/ボーンマス交響楽団

EMI TOCE8908 中古で600円で購入。(おお!珍しく国内盤ではないか)

 三度シベリウスの交響曲全集を完成させた、ベルグルンド最初の録音から。シベリウスを得意とする指揮者は多いけれど、三度も、というのはこの人以外いないはず。フィンランドを代表する指揮者であり、1972年から79年までボーンマス響の主席指揮者をつとめていて、そのときの録音です。このオーケストラの録音は最近出なくなりました。

 意外と気に入った録音が見あたらない第1番から。

 そっと鳴り出す冒頭、くぐもった鈍い響きが先行きに不安を感じさせます。ボーンマス響って、やや粗い印象があるし、これは、と身構えていると、クラリネットの遠くから呼びかけるような旋律が目覚めます。そして弦による第1主題の朗々とした節回し、それに応える迫力タップリの金管。

 骨太で、怒濤のような推進力。燃えるような情熱。自ずと身に付いた息深い自然な歌。絶妙な間。そっと囁くような部分での、(テンポも落として)極限のやさしさ。スケルツォはBrucknerばりの原始のリズム。充分力強いが、力みはない。いきいきとした、むしろ楽しげな演奏です。

 このオーケストラはやはり「粗い」と思うのです。オーケストラの音色も特別に美しいとはいえない。アンサンブルの水準の高さは、ベルグルンドの力量でしょうか。全開と、抑えたところの絶妙な対比。スケールの大きな、豪快な演奏でありながら、シベリウスに必須の「涼やかな響き」もちゃんとある。

 かなり手応えたしかな、ひさびさの(というか、ほぼはじめての)満足できる演奏。

 (2000年に入ってこればっかり聴いている)第5番。難解と評判ですが、ワタシはどこが?といいたいくらいお気に入りの曲。

 バルビローリのあとに聴くと、じつにスッキリと自然な演奏ぶり、と思わずにはいられません。バルビローリは、ひとつひとつの旋律に「泣き」が入っていて、それはそれで説得力最高。ベルグルンドはもっとそっけなくて、サラリと流しているように見えて、主題が高揚していくところの組立の絶妙さ。抜いたところの繊細さ。揺れるテンポの自然なこと。

 たとえばフルートなどの音色も特別なものではないのに、とても気持ちがよい。弦も、むしろ薄いといって良いくらいなのに、けっこう聴かせてくれる。第2楽章の、牧歌的で平和なかんじも、音がよく混じり合って上手く表現されている。

 さて問題の終楽章。細かい音形の積み重ねが、弾むような軽快なリズムに乗っている。どんどん「ノリ」が加速され、情熱と喜びが溢れてくる。これはほんとうにカッコウいい。快いテンポの揺れ。歌。よけいな粘り、重さも感じさせません。弱音の多用による強い集中力。早めのテンポ。ときどき見せる哀愁の旋律の歌わせ方の上手さ。(ここはこのCD一番の美しいところ!)

 例の短く、単純な音形の上下の旋律は、様々に味付けられ、揺さぶりを掛けられ、思いっきり節回しが付けられ、どれもこれも決まって、感動の渦に巻き込まれます。ラストのゼネラル・パウゼが、これほどまでに説得力を持つのも珍しい。

・・・散々褒めたあとになんですが、オーケストラの「鳴らなさ」は、いくらベルグルンドが頑張っても少々気になるのはたしか。でも、北欧の色はちゃんと出ていますね。録音はEMI特有のコシと低音の弱いものながら、聴きやすい。


 ベルグルンド/ボーンマス響の全集が安くCD化されているのを見かけました。そのうち買おうと思っていたら、第2回目の録音であるヘルシンキ・フィルとの全集を格安で入手。これが凄い。あまりの感動に文章にするには冷却期間が必要なほど。(1999年〜2000年更新)


 2000年年末にベルグルンド/ボーンマス響の全集も購入してしまいました。(D Classics 703862)4枚組1,510円の誘惑に負け、ダブリを発生させてしまった。でも、この演奏にはホントに愛着がある。(2001年1月この国内盤は売却してしまいました。)


【♪ KechiKechi Classics ♪】

●愉しく、とことん味わって音楽を●
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written by wabisuke hayashi