Sibelius 交響曲全集(アブラヴァネル/ユタ響)



Sibelius 交響曲全集

アブラヴァネル/ユタ交響楽団

VANGUARD 0806159〜61 71  1975/76年録音  $1.99*3枚で個人輸入

 正直、Sibelius は聴けば聴くほどわからなくなる。作曲家本人はオーマンディの豊満な演奏が気に入っていたらしい。イギリスにはSibelius 演奏の伝統が引き継がれていて、歴史的録音時代から、現代の若手に至るまで拝聴すべき立派な演奏が残っているのも事実なんです。じゃ、アメリカでは?

 オーマンディ、バーンスタインの録音もワタシは気に入りました。「北欧の荒涼とした世界」とは少々方向性は異なるが、充実した瑞々しい世界を堪能できます。フツウ無条件で気に入るはずのパレー/デトロイト響も、第2番ではどうもいただけない。トスカニーニやクーセヴィツキーに至ると、これは曲を楽しむべき録音ではない。以前から数人の方々からお勧めを受けていた、アブラヴァネル/ユタ響(ソルトレイク・シティ)の演奏はいかがなものか。

 モーリス・アブラヴァネル(1903-1993)は、ギリシアでスペイン系の両親のもとに生まれ、スイス・ドイツで音楽教育を受け、ヨーロッパ・デビューののち、戦前からメトロポリタンの指揮者となり、そのままアメリカにとどまった指揮者とのこと。モルモン教の莫大な財政的支援を受けたユタ響では1947年〜79迄音楽監督を務めて、Mahler の全集などが代表的録音(ワタシは未聴)とのこと。

 ま、正直、MCAから出ていたCopland、Gershwin、「白鳥の湖」抜粋は、ややユルくて、そう注目すべき存在とは感じておりませんでした。ましてやSibelius 、どう想像しても相性が良いとは思えない。ま、安かったし、3枚で全7曲収録してくれたので、一応買っておこうかと、その程度の購入動機でした。

 ワタシ、偉そうに、知ったかぶりをしてこんなサイトを開いているが、音楽はド・シロウト先入観バリバリ(逆張りだけれど)で聴いています。この録音については、事前予測では「アンサンブルが緩くて、緊張感に欠けるはず」「金持ちオーケストラだから、薄い響きではないが、温微的な響きではないか」「メリハリが足りなくて、変化に乏しい演奏のはず」「北欧の清冽な雰囲気は期待できない」〜プロ野球の開幕前の優勝予想は外れるものだけれど〜程度のものだったんです。


 まず、オーケストラ自身の実力から。金はあるから良い楽器を使っているはず。演奏機会も多くてTchaikovskyの影響もある第1/2番では、響きの奥深さとか各パートの自発的な歌い回しに弱さを感じました。やや厚みに欠けるか?というような感想は、この作品が一流有名なオーケストラで聴く機会が多いからだろうと思います。アンサンブルは、それなりに立派なものでしたが。

 例が少なくて恐縮だけれど、セル/コンセルトヘボウ(1965年録音)「アンサンブルが濃密で、充実していること。オーケストラが優秀でコンセルトヘボウ独特の暖かい、深い音色が充分聴き取れる立派な演奏であることに間違いはありません。どこにもスキがない、指揮者の思いが隅々にまで到達している演奏」(これ拙HPより)〜そんな先入観があるからか。

 でも、そうだからといって、そのまま感動に転ずるほどSibelius はヤワじゃない。(セルも)アブラヴァネルの演奏は、アメリカのオーケストラとは思えない爽やかさがあるし、表現がサッパリしているところは、むしろ好感が持てました。粘らない、虚飾がほとんどない。でも、ここまでは「好感」止まり。これが3番以降は「感動」と評価したいくらい。

 Mahler を得意としている、とのことだから、もっと大柄な演奏ぶりかと思ったら、小ぶりで繊細な味わいの曲のほうが完成度は高いんです。やや人気の落ちる第3番以降は、雄弁で息の長い旋律はなくなってしまいます。細かいエピソードの積み重ねが、結果として有機的な流れに結実しないと、どうしようもなく難解でツマらない音楽に聞こえてしまう。濃厚すぎないオーケストラの響きも大切なポイント。(アーベントロート/シュターツカペレ・ベルリンの「フィンランディア」〜1936年録音〜なんて、充実しきってもの凄い違和感がある)

 「いつ始まって、いつ終わったのか?」風の曲が続きますね。どこをとっても、ほとんどモノローグのような表現で、声高な叫びがありません。(もともとそういう曲なんです)細部まで配慮が行き届いたアンサンブルだけれど、作為は感じられなくて、無用なテンポ揺れなどとも無縁。流れてくる響きは冷ややかで清潔、目隠しではアメリカのオーケストラと当てることは不可能でしょう。どのパートも突出せず、よく溶け合って不足を感じさせない。

 後半に行けば行くほど感銘深いが、あえて言えば5/6番が白眉か。(5/6/7番と一枚に収録。08 6161 71)「銀河鉄道」なんて比喩される曲だけれど、言い得て妙。「アメリカ」といった先入観を覆す、幻想的、かつ冷涼な味わいに不足はない。録音は最優秀ではないが、演奏の魅力をそこなうような水準はないでしょう。コリン・デイヴィスやベルグルンドの新録音が評判のようだけれど、やや忘れられがちの録音に注目することも大切です。なにより、価格が安いですし。(2001年11月2日)


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