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Beethoven 交響曲第5番ハ短調「運命」覚え書き


   2004年7月カルロス・クライバー逝去。晩年、音楽活動そのものが少なくて、ほんまに「伝説」化しておりました。あちこちのサイトで話題になっていて、けっこうナマで聴いた方が多いのも人気を裏付けます。正直、ワタシは熱心な聴き手(あくまで録音上ですが)ではありませんでしたね。もうこれは、もっぱら「廉価盤になっていない」という理由からでして、それでもFMではいくつかエア・チェックをしたことはあります。

 ま、基本ミー・ハーなのでいちおう聴いてみたいな、という欲望はあります。彼のBeethoven 交響曲第5番ハ短調「運命」(〜素晴らしい表題だ!)は1990年代初頭に罰当たり駅売海賊コピー盤CDで購入しました。1,000円也。(クレイバーとの日本語表記有)この1曲のみ収録。高いんだか、安いんだか?今となっては。生来のビンボー症故(ゆえ)「LPもCDもメ一杯収録詰め込んで欲しい!」との思想だったが、最近体力精神力の衰えとともに、やや宗旨替えをしております。

  ライナー/シカゴ響(1960年)これは新星堂1000シリーズ。中古250円つまり、「運命」のような激しい作品は(仮に30分少々であっても)コレだけでCD一枚でも良いのではないか。いえいえ、一曲じゃないと集中力が続かないよ、ということになっちゃいました。これはライナー/シカゴ響盤(RCA新星堂SRC-5)ではっきり自覚しましたね。(もの凄い集中力演奏なんです。引き締まって、ノリノリの演奏がまったく素晴らしい。まさに弾丸ライナー!)「運命」「未完成」は不朽のカップリングだとは思うが、(この曲に限らず、他の作品を)一気に、続けて聴くことは少なくなりました。これは「春の祭典」でも一緒で、「ペトルーシュカ」は続けて聴けません。閑話休題(それはさておき)。


 ワタシの「Beeやんアレルギー」は2004年中盤現在かなり改善されており、「運命」だってバリバリ聴けちゃいます。(連続して聴け!と言われると少々ツラいが)で、クライバー追悼でこの作品を確認してみました。(罰当たり海賊コピー盤ご容赦。DG1975年録音、オーケストラはウィーン・フィル CC-1006)これは、いろいろ考えさせられる演奏だと思います。クライバー/ウィーン・フィル(1975年)。ECHO INDUSTRY 当時1,000円!罰当たり海賊コピー盤ご容赦

 表現として異形なる「爆演系」ではない。ほとんどストレートまっしぐら。極端なるテンポ設定や揺れ、ルバートやらアッチェランドは多用されません。アンサンブルは細部まで神経質に整っているわけでもありません。ウィンナ・ホルンのド迫力、抜いたところの繊細さはともかく、ウィーン・フィルは優美な美しさを誇っているわけではない。つまり外面を磨くことに汲々としておりません。自由で自発的な推進力、ひたすら高いテンションと勢いが魅力なんでしょうか。聴いていてゾクゾクするような生理的な快感がありますよね。第1楽章、終楽章の繰り返しもありそうで、なかなかないもの。録音はフツウです。(ちゃんとした盤じゃないからあてにならぬが)

 他のサイトのBBSで「クライバーは晩年に向けて成熟していくタイプではなかった」とのコメントを拝見しました。「スポーツみたいなものですか」とも。なるほど。ワタシは、ここ最近地味渋穏健派にどんどんすり寄っているから、少々違和感はあります。でも、青春の爆発、二度とない若き日の燃焼!みたいなものを感じ取りました。でも、いつもいつも日常聴くような、そんなヤワな演奏じゃないか。合掌。


 小澤/シカゴ響「青春の小澤征爾」という二枚組が1992年に出ました。(RCA BVCC-38221〜22)その中に「運命」(1968年)〜シカゴ響との録音が含まれます。小澤33歳の青春の記録です。ワタシは巨匠・小澤の佳き聴き手とは言い難いし、この若き日の録音もLPで所有していたけれど「よう、ワカらん」というのが正直なところ。で、この度、札幌BOOK・OFFで1,000円で入手・・・ああ、なるほど。

 オーケストラはライナー盤と同じシカゴ響だけれど、8年後(評判よろしくなかったマルティノン時代)の録音。さすがに音質的には少々苦しいが、オーケストラの技量そのままにもっと明るく、少々「間」が足りなくて急いた感じはあるけれど、若々しい勢いがありました。(第1楽章提示部繰り返し有)正確に、ていねいに、一生懸命、でも、まだ余裕はないよ!という感じが伝わってきて、未来を嘱望される若手指揮者!という当時の評価が理解できるような気がしましたね。爽やかさが感じられる演奏。


 Beethoven  交響曲第5番ハ短調(1986年)/Schubert  交響曲第8番ロ短調(1975年)〜ハイティンク/コンセルトヘボウ管ハイティンク/コンセルトヘボウ管(1986年)の再録音(PHILIPS PHCP-6048)は中古250円にて入手いたしました。これは既にハイティンクの成熟が明確な成果となっていた時期の録音だけれど、妙に落ち着きがよろしくない。(上記小澤盤と比べて)急いた感じはないけれど、「間」がやはり足りません。ごくフツウのテンポ設定・・・ああ、オーケストラの厚みは極上ですね。録音もなかなか自然体で暖かくて、よろしい感じ。(第1楽章も終楽章も繰り返しなし。残念)

 デモーニッシュな緊張感とか、推進力とか、異形なるテンポ設定・揺れとは無縁の第1楽章。淡々とスタンダードなテンポで歌われる第2楽章。第3楽章のホルンの深みはさすがですね。スケルツォの細かい弦の動き、低音のリズムはオーソドックスで着実です。チカラ強さに欠けるわけではない。繊細さもある。さて、最終楽章はティンパニのアクセントが圧倒的です。いつしか素晴らしい盛り上がり気付くが、端正な姿勢は崩れない・・・

 威圧感がない。聴き流せばフツウの大人しめの(面白みのない?)演奏だけれど、極上の「フツウ」の余裕が感じられました。聴き疲れしないんです。これぞ「座右に置くべき」演奏か。管楽器のまろやかな響きは魅力的です。中低音豊かなオーケストラの魅力を感じ取っていただきましょう。爆演系やら歴史的録音を敬遠して、こんな地味な演奏を好むになったのは、やはり年齢のせいか・・・


 以上、覚え書き・・・程度のメモでした。最近、モントゥー/ロンドン響(1961年)、セル/クリーヴランド管(1963年)の演奏に、ずいぶんと感銘を受けたことを追記しておきましょう。(2004年7月30日)


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written by wabisuke hayashi