Tchaikovsky ピアノ協奏曲第1番 変ロ長調(ヴァン・クライバーン(p)/
ピエトロ・アルジェント/スイス・イタリア語放送管弦楽団/1962年ライヴ)


DOCUMENTS/membran(AURA)223603-CD4
Tchaikovsky

ピアノ協奏曲第1番 変ロ長調

ヴァン・クライバーン(p)/ピエトロ・アルジェント/スイス・イタリア語放送管弦楽団(1962年ルガーノ・ライヴ)

幻想序曲「ロメオとジュリエット」

レオポルド・ストコフスキー/スイス・イタリア語放送管弦楽団(1968年)

DOCUMENTS/membran(AURA)223603-CD4 10枚組1,770円にて購入したウチの一枚

 12年ぶり再聴。棚中CD在庫は当時の1/5くらい迄処分して、もう実際上は売れぬ(処分できぬ)時代へ、自分もデータ拝聴が基本となりました。ぼちぼちCD音源を再聴しております。亜米利加ではずっと人気だったVan Cliburn(1934ー2013)も鬼籍に入って、若い頃の瑞々しい記録を懐かしむばかりとなりました。1958年冷戦下のチャイコフスキー・コンクール優勝後わずか3年、世評では”演奏疲れ、粗い演奏”との声もあって、当時の自分はその熱狂を充分堪能しておりました。さて、久々の感想や如何。

 ルガーノに於けるスイス・イタリア語放送局ライヴ音源、ほとんどモノラルやや広がりを感じさせて、自然な会場の奥行き、響きはまずまず良心的なバランス。Ermitage/Auraから出ていた一連のライヴ音源は、ほとんどそんな感じでした。瑞西南部人口わずか65,000人ほどの小さな街は、豊かで美しいところらしい。全世界から著名な音楽家が集まっております。クライバーン28歳、時代の寵児となって全世界を駆け巡っていたのでしょう。Pietro Argentoは詳細検索できないけれど、おそらくは伊太利亜のオペラ指揮者、彼の名を冠したコンクールが開催されております。

 第1楽章「Allegro non troppo e molto maestoso」。圧巻のホルンは印象的な出足、Griegのティンパニに負けぬ強烈な個性に勇壮な出足は悠々として、続く民謡風主題はスケールが大きいもの。クライバーン特有の前向きに明るく歌って、たっぷり瑞々しい音色、細部ミスタッチはライヴならでは、許容の範囲でしょう。最初に聴いたイメージ通り”疲れた、流した”〜そんなネガティヴさを感じませんでした。オーケストラも伴奏として充分な技量かと。(20:02)

 第2楽章「Andantino semplice - Prestissimo - Tempo I」。華麗なる加齢を重ねると緩徐楽章が恋しくなるもの。楽章は衝撃的なホルンから始まったけれど、こちら懐かしくも静謐なフルートに導かれて繊細なピアノがつぶやきます。やがてチェロやオーボエがソロを担当してピアノが伴奏に回るのも味わい深いもの。中間部の破天荒な疾走に於けるピアノ・ソロも見事な技巧、その対比の妙、Tchaikovskyの先進性、革新的な作風をしっかり愉しみたいもの。(6:46)

 第3楽章「Allegro con fuoco」。目まぐるしくも力強い舞曲風の出足と繰り返し、やがて懐かしい甘い旋律に引き継がれて、冒頭旋律、第1楽章の一部も回帰して、緊張感は高まります。この辺り、ミスタッチを指摘される人もあることでしょう。それはそれとして流麗な指さばきと表情の変化の見事なこと、若い勢いを堪能いたしました。会場の熱気、ソロと伴奏と息の合い方も文句なし、一気呵成にフィナーレへなだれ込みました。拍手も熱狂的。

 1958年コンドラシンとのセッション録音はRCAの驚異的音質、それを勘案すると、わざわざ取り出すほどの価値かどうか微妙だけど、入手したCDはちゃんと聴いて成仏していただくことが大切。

 幻想序曲「ロメオとジュリエット」はここ最近、劇的にウェットな旋律がお気に入り。ストコフスキーは幾度録音をしているのでしょう。ちゃんとルガーノ迄出掛けていたのですね。語り口の上手さ、表情の変化、流れの良さ、オーケストラの統率に迷いはなくて、ライヴでも見事なアンサンブルに仕上げております。(19:48)

(2019年8月10日)

 ”貧しき者こそ幸いなれ”〜若い頃に廉価盤(それでも800円くらい)としてERMITAGE、AURAレーベルをぼちぼち集めていたものです。人生に音楽を聴くべき時間、集中力は限られている(もちろん経済的にも!)から、それで幸せだったんです。2006年だったか?DOCUMENTS/membranという廉価盤の雄が、スリムパック激安でボックス・セットを再発した時にはショックを受けました。購入漏れ音源も含め、10枚”オトナ買い”してもレギュラー一枚の価格に充たない・・・ワタシは既存所有単発CDを@300でオークションにて処分し、その対価(余りがあった)で再発ボックスを再購入したものです。なんとなく、邪道のような、誤った選択をしたような・・・堕落したかな?後ろめたい気持ちがある・・・

 ヴァン・クライバーン(p)(1934年〜)は1958年チャイコフスキー・コンクールで優勝、当時東側であったキリル・コンドラシンを伴ってアメリカに凱旋帰国、彼のレコード(Tchaikovsky/Rachmaninov )はミリオン・セラーであったそうな・・・このライヴは、いけいけどんどんで大人気だった頃の録音であります。スタジオ録音だって、その眩しいほどの輝きに希望を見出すこと文句なしだけれど、音質(モノラルだけれど、なんとなく広がりを感じるような・・・)含め、こちらの演奏だって充分に楽しめます。

 おそらくは売れ筋レパートーリー従えて、全世界を回っていた記録でしょう。明るく開放的で、キラキラ明快なる骨太タッチ、熱気と推進力、前向きな希望と活力・・・現代社会に失われてしまったもの、すべてがここに具現化されていて、物質的豊かさってなんだ?とシミジミ考えさせられました。このCDが新品@177である、ということくらいか。肝心なる聴き手の感性がすり切れてしまっては仕方がない。

 テクニックが優れているのはもちろんだけれど、集中力は神経質に向かわない。刺激的な攻撃性ではない、陰影に乏しいかも知れないが、楽天というより恐れを知らぬ若さと勢いと鮮度が怒濤の如く噴出する・・・終楽章、一気呵成に畳み込んで、聴衆は音が消えるのを待ちきれずに喝采を送ってしまう・・・某国の演奏会のような、心のこもらぬ”フライング・ブラーヴォ”とは意味が異なる熱狂と共感。佳き時代だったのか。

 フィル・アップは幻想序曲「ロメオとジュリエット」〜ストコフスキー・・・86歳のご高齢爺さんの余技じゃないですよ。大見得たっぷりのテンポの揺れもピタリ!決まっていて、スケールが大きい。このオーケストラらしからぬ、アクたっぷりで鳴りもよろしい。ティンパニの迫力も存分。アンサンブルの精度も高い。アツい。なにより音楽の姿がわかりやすいのは彼の特質でしょう。音質も悪くありません。拍手がないから、放送用スタジオ録音か?

 全54分、フィル・アップ的にもよくできた一枚でした。

(2007年11月30日)


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written by wabisuke hayashi