Tchaikovsky 交響曲第6番ロ短調「悲愴」/幻想序曲「ロメオとジュリエット」
(リッカルド・ムーティ/フィルハーモニア管弦楽団)


Tchaikovsky 交響曲第6番ロ短調「悲愴」/幻想序曲「ロメオとジュリエット」(リッカルド・ムーティ/フィルハーモニア管弦楽団) Tchaikovsky

交響曲第6番ロ短調「悲愴」(1979年)
幻想序曲「ロメオとジュリエット」(1977年)

リッカルド・ムーティ/フィルハーモニア管弦楽団

BRILLIANT 99792(EMI録音) 7枚組 2,354円で購入したウチの一枚

 ほんのこどもの頃(小学生時代)より馴染みの作品であり、長じて草臥れ中年に至っては少々苦手になってしまった作品でもあります。ここ最近、リハビリ進んでましてTchaikovskyはどんな作品でも(その甘美な旋律を)たっぷり愉しめるように。めでたいなぁ。個人的リファレンス(参照の基準)はユージン・オーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団(1968年RCA録音)〜オーソドックスで管弦楽が豊かに、明るく鳴る演奏が好ましい。

 21世紀から老舗・EMIはBRILLIANTに音源供給するようになりました。ま、本家レーベルのままでもけっこう安いボックス出てましたけどね。最近、BOOK・OFFで集中的にムーティを入手する機会があって、そのスリムな集中力にすっかりココロ奪われ〜その流れで購入したもの。フィルハーモニア時代(実質1972年〜1982年)の録音は、あまり日の目を見ておりません。HMVの通販サイト「読者レビュー」ではフィラデルフィア管弦楽団との演奏の賞賛に対して、フィルハーモニア管弦楽団担当する後期交響曲の評価が少々厳しい。

 ワタシはこの演奏をとても気に入りました。颯爽と明快、軽快、ティンパニが強烈アクセント(全編に渡って聴きもの!)であって、良く歌う旋律の”タメ”がなんとも若々しい。本場・露西亜風粘着質とも、剛腕・優秀オーケストラを率いて独墺風交響曲にガッチリ雄弁に構成させる世界(カラヤン/フルトヴェングラー辺りが代表か)とも異なって、もっと爽快スポーティな演奏であります。まるでイタリアの陽光が照らすような眩しさ(「音楽日誌」再掲)・・・「悲愴」にあってはマズい表現です か?

 閑話休題(それはさておき)、問題は”録音”でしょうか。収録音量レベルが異様に低い。つまり、かなりヴォリュームを上げないと様子がわからない。ワタシはよく(謙虚なふりをして)「ワタシのような貧しいオーディオでは様子はわからない」とか、「高級オーディオだったらさぞや凄い優秀録音であろうと類推される」などと書いているが、大多数の音楽ファンは数百万もする聴取環境であろうはずもない。シロウトにもちゃんと(それなりに)わかる(予想が付く)音であるべきじゃないのか。ま、高音と低音を不必要に強調した、薄っぺらくてヒステリックな音(所謂”どんしゃり”)じゃ困るけど。歴史的録音も含め、明らかに”良い録音”じゃないけど、わかりやすい、聴き疲れしない音質というのは存在すると思います。

 ここでは第1楽章がなかなか(音の条件的に)厳しいですね。音量が低いし、冒頭の中低音を(EMI録音の個性だろうが)強調しないから、様子がわかりにくい。やがて金管の大爆発もキンキラと輝かしいものではないんです。ザ・フィルハーモニア自体がグラマラスな響きじゃないし、ムーティの表現も引き締まったものだから、ぼんやり聴き流せば印象まことに素っ気ない。ようやく楽章後半に至って、ティンパニの断固たる強打が光ります。

 第2楽章の”中途半端なワルツ”(5拍子)も、甘さ控えめというか響きが端正清潔であります。微妙なテンポの揺れも濃厚な表情を作らない。第3楽章ののスケルツォは颯爽爽快として、若々しくスリム軽快、キレも躍動もあってオーケストラと指揮者の個性にぴったりでしょう。この楽章はラストに向かって盛り上がります。低音が弱いのか?と思っていたら、やはりラスト付近のティンパニ+シンバルはそうとうの存在感でした。

 終楽章、慟哭と滂沱の涙の果て〜的表現か可能であり、オーケストラは渾身の大爆発で聴き手を圧倒する・・・世界を連想しがちだけれど、ここではやはり清潔なる抑制が前提となるでしょう。もしかしたら(それこそ)録音印象かも。細部ニュアンスに配慮した弦は涼やかであり、金管も辺りの空気を揺るがせません。「最後の審判」的銅鑼も控えめに鳴っていて、これが正しいバランスかも知れないが、シロウト聴き手にはハラの底から響いて欲しかったところ。

 灰汁(あく)とクセの少ない、キリリとした演奏。ワタシの「Tchaikovskyアレルギー」から外れる方向の演奏でした。

 「ロメ・ジュリ」は、ほんまに難しい作品だと思います。20分弱に及ぶ幻想曲を、全体見通しよく、飽きさせずに聴かせるワザ。緊張感あるアンサンブルが熱気に充ちて、交響曲よりいっそうわかりやすい。熱演です。

(2007年3月16日)

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written by wabisuke hayashi