Mozart ピアノ協奏曲第21番(シュナーベル)
Rachmaninov ピアノ協奏曲第2番(シリル・スミス)


Mozart ピアノ協奏曲第21番(シュナーベル)/Rachmaninov ピアノ協奏曲第2番(シリル・スミス) Mozart

ピアノ協奏曲第21番ハ長調K467(1937年録音)

シュナーベル(p)/サージェント/ロンドン交響楽団

Rachmaninov

ピアノ協奏曲第2番ハ短調 作品18(1943年録音)

シリル・スミス(p)/サージェント/リヴァプール管弦楽団

History(TIM) 204562-308    The 20th Century Maestros40枚組5,990円(税抜)のウチの一枚

 1991年がMozart 没後200年、2006年が生誕250年ということで、CDはいろいろ出て下さいました。BRILLIANTの意欲的170枚セット(過半購入したあとで、激安収納便利集成ボックス出すなよな)もそうだし、ワタシお気に入りの「50枚組」もCD価格下落趨勢の徒(あだ)花的発売でした。あまり注目されなかったが、歴史的録音はクサるほど激安で発売され「Mozart DeLux」(History 205159/40枚組 2001年発売/3,650円税抜)など稀有の価値あるボックスでした。

 ところが、無条件幸福的大好きなピアノ協奏曲が、一般にどうも”歴史的録音”になると集中できない。音質云々ってワケじゃないんです。理由がわからない。このシュナーベルのK.467は、先の「Mozart DeLux」とダブり、更に「SCHNABEL10枚組第2巻」(TIM 205217/2001年発売@1,990円これは税込)にも収録されました・・・というか、この「History(TIM) 204562-308」には”シュナーベル(p)”とのクレジットが抜けていたんです。(てっきりシリル・スミスだと思っていた/演奏の感じがちゃうなぁ、と感じてはいた)で、ダブり購入確認しているウチに、嗚呼、こりゃ同じ音源だ・・・と発見した次第。そりゃ、なんどもあちこちで聴いてりゃ気付くでしょ、フツウ。

 以上、”ヲタク咄”でした。(情けない)

 シュナーベル54歳壮年時の録音となります。音質良好で、バックの奥行きは足りないが、ソロは明快に存在感有。驚くべき躍動に充ちたピアノで、Mozart って清廉に、清潔に、的演奏印象が多いけれど、燃えるような情熱に溢れました。数年前のコメントでは「一発録りのような雰囲気」〜まさに、そんな感じで少々の技術的乱れ、バックとのズレなど委細かまわず、流れと勢い重視という最近では見掛けないアツいスタイル。

 以下、以前と寸分違わぬ感動がやってきて、コメントに付加すべきものなし。

 結果的にシリル・スミスの音源は稀少でしょう。コンピレーション的に「サージェント」で括っちゃマズいが、ま、他ではあまり見掛けない音源だから、しっかり楽しみましょう。彼の情報は、読者からの投稿に詳しいが、関連記事も挙げておきます。Rachmaninov を得意にしていたんですね。リヴァプール管弦楽団との表記は怪しくて、英国最古のオーケストラのひとつである、ロイヤル・リヴァプール・フィルではないか、と類推されます。音質は先のMozart よりデリカシーがあって、音楽聴取上問題なし。

 Rachmaninov ピアノ協奏曲第2番は稀代の名曲だし、古今東西最新ぴかぴかの録音含めて競合盤犇(ひし)めいております。凡百なる演奏だと、存在感を示せない・・・このシリル・スミスの個性は(この作品に求められる)鮮やかなる技巧に充足されるが、それは前面に出ない。アクロバティックではなく、あくまで甘美な旋律を生かすべく自然体の流れの良いもの。

 上品なんですよ。露西亜風濃厚でも、聖林(ハリウッド)風豪華脂粉系でも表現可能な作品だけれど、強靱なタッチとか、濃厚な表情付けが少なくて、それでもやはりRachmaninov の激甘旋律を「甘さ控えめ」、抑制と気品を以て表現して下さいます。弱かったり、素っ気なかったり、そんなこともない〜必要にして充分なる優しい味わいに充ちて、久々、慣れ親しんだこの作品を堪能いたしました。

 数年前の自らのコメントでは「オーケストラが少々落ちます」と。前言撤回。君子豹変。朝令暮改。なにを基準にこんなコメントに至ったのか、(今となっては)不明です。息の合わせかた、オーケストラの整ったアンサンブル、ピアノ同様の抑制を前提とした甘美なる旋律表現の充足・・・資料的価値ではなく、現役で戦える録音存在也。

(2007年9月14日)


 ボウルト/BBCの「惑星」と同じケースに収録されていたのが縁で聴いたCD。(フツウこういうネーム・ヴァリュー的に弱いのは後回しにしがち)「サージェント」なんて題されているけどCyril Smithというピアニストが弾いていて、そちらが主役。(厳密に言うと、Mozart のほうにピアニスト・クレジットがないから少々怪しい・・・後、シュナーベルであるとの情報確認)いつものことながら、スミスさんのお知り合いの方、親戚筋の方、どのような人なのか教えて下さい。きっとイギリスの人だと思いますが。

 「また、はやっさん変なんばっかり聴いて・・・」と言われそうですが、けっこう堪能しました。「歴史的録音」は、まず音質が重要なんです。Historyのシリーズは、ま、玉石混淆だけれど、たいていの場合Digitally Remasteredが上手く行っていて、カラカラにひからびた音にしないところがよろしい。これは2曲とも、状態はとても良くて鑑賞に充分耐えうる水準。当時の優秀録音と言えるでしょう。

 まず、力強い怒濤の推進Mozart が素晴らしい。やや硬質な明るい音色で、リズム感がノリノリなんです。早めのテンポで、いかにも即興的に(わずかに)テンポが揺れる。ライヴじゃないと思うんですが、一発録りのような雰囲気があって、バックとずれが出てくるところも興味深い。へんにアンサンブルを整えすぎない(よそ行きにならない)ところも、気持ちがよい感じ。

 第1楽章カデンツァは、まったく聴いたことのない自由なもので、ドキドキするくらい挑発的です。第2楽章も、わざと音に思い入れを付けないで、明快に弾いているみたいで、それが飾らない魅力となって、聴き手を魅了します。終楽章は期待通りの快速テンポで、音が飛んじゃうところも逆に微笑ましい。躍動感「命」の元気な演奏。カデンツァのとんでもない即興ぶりも申し分なし。(感興の高まりが、そのまま音になっている)

 Mozart の協奏曲のバックは、かなりひどい演奏でも楽しめますが、サージェントは暖かくて、立派。第2楽章「アンダンテ」の弦に、わずかにポルタメントが掛かっているのは時代の味わいでしょう。

 Rachmaninov はオーケストラが少々落ちます。(Livapool Orchestraって、むかしあったんですか?リヴァプール・フィルとは別団体?)それでも、雰囲気タップリ・これまた良い感じの演奏なんです。同じピアニストだとすれば、10年後の演奏でMozart とはひと味違います。もっと、細かいニュアンスが付いている。曲のせいもあると思います。(後述;当然違うピアニストですから)

 でも、硬質で明快な音色、勢い重視でアンサンブルを整えすぎないところは、やはりスミスなんじゃないでしょうか。官能の連続のような美しい旋律の頂点での、叩きつけるような打鍵は印象的だけれど、リヒテルのような重量感は感じられません。

 抜いたところの抑え方は、Mozart にはなかった味わい。第2楽章「アダージョ」の呼吸の深さが素晴らしい。ひとつひとつの音は明快、バックとの息の合方もピッタリで、懐かしさに胸がいっぱいになります。終楽章は、小さめの音量でむしろ抑え気味の開始。じつはその後も、ずうっと抑制が利いていて、怒濤の最終版盛り上がりは期待はずれかも。バリバリ弾ける人だから、こういう曲では逆に「能ある鷹は爪を隠」したのかも。

 リヴァプール管は弦が薄いし、ホルンやクラリネットの音色も魅力的ではない。が、素直なアンサンブルで、ソロに寄り添っているのはサージェントの技量でしょうか。終楽章の遣る瀬ない旋律の節回しは一流。そんなこんなで、とても楽しめる演奏でした。

 とても爽やかな印象があって、飾らぬラフさ加減がたまらない。続けて数回聴いてしまいました。ま、これが@150の出会い、というやつでしょう。わざわざ録音の古い、見知らぬ演奏家・レーベルのCDを好んで聴く必要もないが、ほんのちょっとしたキッカケでこんなに音楽を楽しめるのは、ちょっと得した気分。バカにできませんよ。(2001年1月19日)


さっそくメールにてご教授をいただきました。

彼の略歴は以下の通りです。

シリル・スミス

1909年8月11日ミドルズブラ(イングランド)生、1974年8月2日ロンドンにて没。ロン ドンの王立音楽院でハーバート・フライヤーに師事。
1929年にバーミンガムにてブラームスの第二番の協奏曲のソリストとしてデヴュー。1937年にフィリス・セリック と結婚、以後彼女としばしばピアノデュオの演奏を行う。1956年にソ連訪問中に脳血栓の発作のために左手の自由を失う。
以後、ピアノ三手の曲をアーサー・ブリス、ゴードン・ジェイコブ、マルコム・アーノルドなどに委嘱また自身も三手ピア ノの作編曲を行う。1934年から亡くなるまで、王立音楽院で教鞭をとった。全盛時代にはラフマニノフのピアノ協奏曲の演奏で知られた。自伝に”Duet for ThreeHands”がある。


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written by wabisuke hayashi