Smetana 連作交響詩集「わが祖国」(ヴァーツラフ・ターリヒ/チェコ・フィルハーモニー1941年)


DOCUMENTS LC12281/223523 321 10枚組1,780円 Smetana

連作交響詩集「わが祖国」

ヴィシェフラド(高い城)/ヴルタヴァ(モルダウ)/シャールカ/ボヘミアの森と草原から/ターボル/ブラニーク

ヴァーツラフ・ターリヒ/チェコ・フィルハーモニー(1941年)

DOCUMENTS LC12281/223523 321 10枚組1,780円にて入手(その後大幅値下がり/パブリック・ドメインとしてネットでも拾えます)

 1954年録音の陰に隠れて地味な存在だけれど、これもなかなかよろしい。ほか1929年、1939年ライヴ録音も存在するらしいが聴いたことはありません。このCDは何度も聴いていて、時代を勘案すると音質は期待以上だし、著名な「高い城」「モルダウ」のみならず、後半に行くほどアツく入魂を感じるのは毎度の感想也。ま、ムリしてこんな太古録音を聴かなくてもよろしい(ちゃんとしたステレオ録音は棚中に数種有)んだけれど、この10枚組セットはけっこう、あちこち愉しめる、盛りだくさん収録。

 「わが祖国」は前半2作品、ヴィシェフラド(高い城)/ヴルタヴァ(モルダウ)ばかり有名で、その価値になんら疑念はないんだけれど、全部聴いてあげなくっちゃもったいない。著名だから古今東西けっこう録音は多くて(例えばカラヤンも2曲のみ録音)、このターリヒ(タリフ、と呼ぶのが正しいのか)盤でも最初の2曲はさっくりと、作品旋律の魅力を飾らず力まず表現して、ま、淡々とフツウに美しい演奏?テンポは中庸乃至、ややゆったりめ。それこそカラヤンの(粘着質大仰な)印象から比べるとずいぶんとスッキリとして、最初っからそんな飛ばさんでも〜といった風情か。自然な呼吸のように民族の旋律を粛々と歌って、特異なクセを感じさせない。

 チェコ・フィルの弦は、この時点で魅力ある深みを表出しております。アンサンブルはやや甘いが、ツボはぴたりと押さえて味わい充分。一糸乱れぬ驚異的アンサンブルを求めても意味はないでしょ。

 キモは第3曲「シャールカ」以降でして、猛女シャールカの激しい激情にて開始されます。やがってゆったりと大きなリズムに乗って、不安と牧歌的な味わいが交差して聴き応え有。優しい風情の旋律があちこち出現して、著名な2作品旋律の魅力に負けぬことを気付かせて下さいます。けっして”怒りの激情”一本槍に非ず。村人の牧歌的な踊りみたいなところも出てきますよ。「ボヘミアの森と草原から」は激しい慟哭で開始され、不安げな心情のまま、じょじょに自然に入り込んで表情は柔和に・・・木管が素朴に歌って弦も絡んで・・・絶妙なる安寧の民族的旋律(クラリネットか)が現れました。それは他の木管+ホルンに引き継がれ、深い森から抜け出た草原の爽快を表現しているのか。なんとも喜ばしい。

 「ターボル」は戦争の音楽であり、激しいリズムに支配された厳しい音楽。さすがに歴史的録音ではティンパニの迫力は不足するかも。ものもしい雰囲気の静謐にて開始され、やがて戦いの機運は高まります。フス派の戦士によって歌われたコラール「汝ら神の戦士たち」が勇壮に、まるでBach のように(正確にはストコフスキーの編曲風に)響きます。やがて厳しい表情のままテンポアップは、戦いを表現しているのでしょう。そのまま旋律リズムを引き継いで、ラスト「ブラニーク」へ突入。

 ターボルもブラニークも地名だそうで、すべて祖国の伝説に結びついているらしい。木管+ホルンによる優しい旋律は、1000年前のチェコ民族の守護聖人と勇士達の目覚めか。細かく不安げな音型は、戦いへと赴く兵士の姿でしょうか。やがて金管が高らかにコラールを歌って、柔和な弦が絡んで祖国の勝利と平和の回復と喜びが表現され、「高い城の主題」も回帰して大団円へ。

 ノイマンもクーベリックも大好きですよ。でも、正直なところ全曲通すと少々疲れる(聴き手に緊張を強いちゃう)のも事実。こんな太古録音でも、ターリヒだと不思議に最後まで聴き通すに苦はないんです。

(2010年10月15日)

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written by wabisuke hayashi