Shostakovich バレエ組曲「ボルト」/ジャズ組曲第2番/
ジャズ組曲第1番/タヒチ・トロット
(ドミトリ・ヤブロンスキー/(新)ロシア国立交響楽団)
Shostakovich
バレエ組曲「ボルト」 作品27a
ジャズ組曲第2番
ジャズ組曲第1番
タヒチ・トロット 作品16(Youmans「二人でお茶を」管弦楽編曲)
ドミトリ・ヤブロンスキー/(新)ロシア国立交響楽団
NAXOS 8.555949 2001年録音 971円にて入手
10年ぶりのコメント、これはお気に入りの一枚でして、この間幾度か聴いておりました。Russian State Symphony Orchestraという紛らわしいオーケストラ名は、The Novaya Rossiya (New Russia) State Symphony Orchestra was founded in 1990.とNMLに掲載されており、スヴェトラーノフのとは別団体とのこと。Russian Philharmonic Orchestraのことか? それだったら録音専門オーケストラらしい。いちおう(新)ロシア国立交響楽団としておきました。Dmitry Yablonsky (1962-露西亜→亜米利加)は指揮者でありチェリスト、NAXOSに大量に録音有。
ま、昔からあまり(旧)ソヴィエット国立交響楽団の熱心な聴手でもなくて、違いはわかっていない聴き手(=ワシ)やや粗野、パワフルなオーケストラのサウンドを愉しんでおりました。シリアスな交響曲は苦手系、こんなシニカルかつユーモラスな作品だったら大好きでっせ。どれも”ちょっと泥臭い”ノスタルジーを感じさせる魅惑の旋律たっぷり続きます。作った感じのない音質もリアル。
バレエ組曲「ボルト」は筋書き的にはKhachaturianの著名な「ガイーヌ」に一脈通じる”啓蒙的”内容、旧ソヴィエットのプロパガンダでしょう(政治的宣伝=ほとんど死語)。勇壮な”いかにも”序曲を経、さっそく「ポルカ」がユーモラスであり、ほとんど「トムとジェリー」風。続く「The Drayman's Dance (Variations)」はソヴィエット風大げさな風情が大仰に歩んで、ほとんどジョーダンでっせ。「タンゴ」は妙に神妙、これも裏がありそうな感じ・・・と思ったら、やがて雰囲気変わってテンポアップ、いかにも露西亜民謡風哀愁クサい旋律挟んで+ユーモラスな管楽器(調子ハズレっぽい)の合いの手がほとんどドタバタ風情、めっちゃ愉しい。ここが作品の山。
暗鬱静謐なる「The Dance of the Colonial Slave-Girl」(Colonialは植民地のこと)は途中テンポアップして不安が高まり、「The Conciliator(調停者斡旋者の意)」はシロフォンが延々と空虚に(ユーモラスにも感じる)存在感を主張して、いつものように情感気分感情がわかりくいところ。ラスト「全員の踊り」は生温いサキソフォーンの音色が主役、これも妙に怪しいもの。「Enthusiasm and Apotheosis(熱意と理想化?)」という題名も白々しい抜群の盛り上がりはあっという間に終わりました。
以前は”ちゃんとしたアンサンブル”と称揚していたけれど、細部けっこう緩いかも。但し、こんなシニカルにユーモラスな作品は細部きっちり演っちゃうとオモロない、パワフル、曖昧さのない力強いサウンドが作品に似合います。
ジャズ組曲は「Jazz」という感じじゃないなぁ、第2組曲は「行進曲」から始まって、これはいかにもノーテンキにうきうきする運動会風。あとはワルツ、ポルカの繰り返し。「Lyric Waltz」は安易な哀愁風情溢れてほとんど”サーカスのジンタ”風。これを大真面目に演るからおかしくってしょうがない。続く「Dance 1」もまるで大昔のアニメ風、流麗でありピアノ使い方が上手いなぁ。「Waltz 1」は華麗優雅+安っぽい、落ち着かない。独立してアンコールに使えば受けるやろなぁ。「Little Polka」はたしかに目まぐるしいポルカ、例のシロフォンも登場してどこがジャズやねん。「Waltz 2」は「1」とほとんど同じ。旋律担当の楽器サウンドが違うのみ。ものすごく俗っぽくて、これは作曲者の確信犯でしょう。「Dance 2」は再び大昔のアニメ風、途中変拍が変わって(安っぽい)ワルツになります。
「Finale」は大昔の活劇映画の明るい大団円みたい。
第1組曲は「Waltz」「Polka」「Foxtrot (Blues)」から成って、これは先の「第2」のワルツとほとんど同じ。当時のソヴィエットってこれを「Jazz」としたものか。ここは全曲妖しいサキソフォーン大活躍、どこかで聴いたことのあるような「Polka」も遠慮がちな躍動がユーモラス。「Foxtrot (Blues)」は昔懐かしい大きなジャズ・バンド風。1950年台の映画音楽みたい。エレキギター?(スチールギター風)参入もそれらしいもの。
ラスト、「タヒチ・トロット(二人でお茶を)」最高。Shostakovichで一番好き。誰でも知っている小粋な旋律+手練手管の各楽器旋律受け渡し変遷は、20世紀管弦楽法の精華。繊細な演奏は立派なオーケストラと思うんだけどなぁ。各パート定位がしっかり理解できる優秀録音であります。
(2019年5月5日)
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Shostakovichは日本で意外と人気でして、交響曲全集がけっこう売れていると思います。演奏機会も少ないワケじゃない。20世紀の音楽は一般にワタシの縄張りなんだけど、正直苦手方面の音楽であります。全集はコンドラシン一組のみ在庫、他は処分してしまいました。もっと新しい録音、こだわりのない爽快な演奏で聴くべきなのかな?ヤンソンスとかハイティンクとか。ところが(あまり著名ではない)管弦楽作品だと、けっこうオモロく聴けるのが不思議。おそらく市場的にも交響曲以外は人気薄で、リンク先5枚組だって1,500円(送料経費込)にてオークション無競争落札出来ましたもの。このCDは記録によると2004年に入手していて、聴く機会は多いんです。
ロシア国立交響楽団というのはいったいどーなのか?(スヴェトラーノフのオーケストラの末裔なのか)難しいところだけれど、このCDで聴く限り立派な、ちゃんとしたアンサンブルであります。ドミトリ・ヤブロンスキーはロシアの中堅か。音質も優秀です。
バレエ音楽「ボルト」は1931年に初演し、失敗した(CD2枚分)らしくて、この組曲は7曲を編んだもの(29:05)。筋書きは、勤務怠慢で解雇された工場労働者が、復讐のために機械の中へボルト(ねじ)を落として壊してしまおうと計画。しかし、そそのかされ実行しようとした二人のうちの少年が自分の使命を思い出し、工場長に密告して陰謀を未然に阻止する〜といった陳腐でありがちな内容だけれど、音楽は緊張感とシニカル+ユーモア剽軽軽妙が混じり合ったような味わいあるもの。序曲のものものしい雰囲気ともかく、そのあとは目眩く変化連続でたっぷり楽しませて下さいます。「タンゴ」辺りはもう少々羽目を外して欲しかったところだけれど、ありきたりな”露西亜の哀愁”的旋律は忘れられぬ魅力であります。
ジャズ組曲第1番は「ジャズ?」といった雰囲気ではなくて、小学校の運動会開始のような安直な行進曲、安物のような見せ物サーカスの哀愁のワルツというかジンタ(第2/6曲)、再び運動会の徒競走の音楽(第3/7曲)、神妙に開始して結局安っぽく仕上げちゃう(第4曲)のワルツ、子犬がじゃれつくようなポルカ、シンプルそうでけっこう変拍子なんかも出てくるし、妙にレトロでわかりやすいが、変化に富んで賑々しい雰囲気たっぷり堪能可能。
ジャズ組曲第2番もジャズではないな。ここでも「ワルツ」は見せ物小屋の安直なる雰囲気たっぷり(オーケストラは滅茶苦茶上手いけど)であり、ポルカは少しずつ調子外れの怪しい軽快さ満ち溢れ、サウンドとしては小編成各パート一人っぽい薄さが絶妙、終曲「ブルース」は日本映画黄金時代の1950年代〜60年代の若者無頼ものを彷彿とさせて、安っぽさも頂点に!最高っす。スチールギター?がヒジョーにエッチなんです。
タヒチ・トロット(二人でお茶を)は、けっこう有名な編曲(原曲だって誰でも知っているが)でして、このサイトにも出てきております。洗練され、管弦楽法の精緻を極めたような!粋な作品であります。先ほどまでのジョーダンのようなシニカルさはないんです。いつまもBeeやんとかBrahms ”眉間に皺”系交響曲ばかりではなく、こんな素敵な音楽を楽しみましょうよ。
(2009年11月6日)