Mahler 交響曲5番 嬰ハ短調
(ルドルフ・シュワルツ/ロンドン交響楽団)
Mahler
交響曲第5番 嬰ハ短調
ルドルフ・シュワルツ/ロンドン交響楽団
EVEREST EVC9032 1959年頃の録音 333円(在庫処分購入)
シュヴァルツ、乃至英国で活躍した人だから”シュウォーツ”が正しい読み方と思うんだけれど、ネット上では”シュワルツ”標記が多いようなので従っておきましょう。CDを買い始めたのが人様より少々遅くて1990年頃?20余年を経、棚中の顔ぶれはかなり入れ替わりました。贅沢品→”いつでも、いくらでも!”存在に変貌し、ついにはデータで音楽を聴く時代に突入しております。このCDは幾星霜幾山川を越え、処分せずに生き残っておりました。LP時代にはほんまの贅沢品だったMahler も、現在なら日常聴かれるべき音楽へ。この録音は音質がよろしい、ということがポイントだったかも。稀少盤なんだそうです。
前回更新より6年経過、数多くのMahler を聴いて参りました。オーディオ環境もがらり替わってどんな印象変化があるのか・・・音質は良好、鮮度、奥行き、広がりとも文句なし。おそらくはパブリック・ドメインになりつつある音源としては、出色の水準でしょう。ここ最近贅沢病亢進して、ぼんやりとした音質を聴くのは少々ツラいんです。とくに近現代、編成の大きな作品にはその傾向顕著。若く貧しかった時期、どうしても安価に入手しやすいもの(音質不如意が多かったな)ばかり狙って、結果的にShostakovich苦手に至った〜のもその一因かも。
問題は演奏。この時期のロンドン交響楽団といえば、ヨーゼフ・クリップスのBeethoven が代表的でしょう。Beeやんだったら(またはクリップスの薫陶の成果か)OKだけれど、この時期、オーケストラはMahler に馴染んでいなかったのでは?微妙にアンサンブルが甘い、オーケストラはあまり上手くない感じ。技術的に破綻しているとか、細部全然弾けていない、ということでもなくて”ノンビリ”といった印象なんです。第1楽章の葬送行進曲から、緊張感が足りず”緩い”、第2楽章「嵐のように荒々しく動きをもって。最大の激烈さを持って」は、作曲家の指示に遠く、やや遠慮気味の歩みであります。
オーケストラの響きは、サウンドは洗練されている・・・よく鳴っているとも思うんだけれど・・・第3楽章「スケルツォ」も同様。どうもリズムのノリがよろしくない。
第4楽章「アダージエット」は、抑制を利かせた弦が清潔に歌って上出来でしょう。この指揮者は、叙情的なところの歌い込みが得意なのかも。ロンドン交響楽団の弦は絶好調。終楽章は、牧歌的な管の呼び交わし冒頭より、マイルドなサウンドが魅力的です。やがて弦が細かいリズムを刻んで、あらゆるパートが参入して〜そのリズム感がよろしくない。流れが止まっちゃう。もっさりとキレがよろしくない。どことなく、おそるおそる、といった風情が気になります。美しい穏健派、としてこの方向を好まれる方もいらっしゃることでしょう。
時の流れ、若手が次々とMahler に参入する時代には、少々厳しい存在になったのかも、そんな感想でした。 (2011年3月18日)
ルドルフ・シュウォーツ(シュヴァルツ 1905年〜1994年)は、生前も含めて(少なくとも日本では)ほとんど話題になることはありませんでしたが、「SIR RUDOLF SCHWARZ」というくらいだから英国籍(生まれはウィーン)で、活躍した方なのでしょう。この一枚は、録音の少なかった彼の代表的一枚・・・だけれど、現在では入手が難しいかも。このCDは(c)1995ですね。
以下↓以前のワタシは手放しの誉めようでした。その後馬齢を重ね、数多くの「第5番」を聴き馴染んだ耳には、どう反響するのか?少々、不安でもありました。
嗚呼、良いですね。まったり柔らかく、余裕があって優しい。悲劇を強調しない、絶叫しない。強面にならない。叩き付けない。各パート緩いくらいゆったり、ていねいに舐めるように表情は細やかであり、穏やか、豊満で暖かい響きなんです。録音が驚くほど優秀であることも手伝って、いままで気付かなかった各パートの裏旋律の効果(例えばチューバ!)も新鮮です。結論的に、これほど美しい音楽には滅多に出会えないのではないか・・・白眉は第4楽章「アダージエット」〜予想外にさっぱり、サラサラと流れてテンポの揺れもほとんど存在しないが、滲み出るような自然な情感が溢れました。
方向は「ボートンの先生にあたる。演奏の感じが似てます」(数年前の自分のコメント)というのは、なるほどズルズル横流れでメリハリに少々欠けるような、フレージングにエッジを立てない穏健派表現がそれを連想させます。そういえば、バルビローリにも似ていて、但しあれほどの”泣き”は存在しなくて、一歩引いたクールさがありました。洗練され、響きはクリア、自然体であり、この当時のロンドン交響楽団の艶やかサウンドは特筆すべき個性でしょう。
シルクのように鈍く光る弦、伸びやかな金管の奥行き、素直で瑞々しい木管、豊かではあるがしっかり芯を感じされる残響に包まれ、至福のひとときを保証します。「あまり出回らないCDなので、見かけたら買ってみて下さい」〜と、かつて書いたけれど、ほんまにその後見掛けません。知名度的に再CD化しても売れないからでしょうか。 (2005年7月22日)
エヴェレスト・レーベルは、LP時代コロムビア・ダイモンド1000シリーズにも音源を供給していたし、輸入盤でもけっこう安く買えました。ところがCD時代に入ると、そう安いものは見かけないという不思議なレーベル。(会社は身売りしたらしい)
当時から優秀録音で有名でしたが、ワタシが持っていたエヴェレスト(もしくはそのライセンス?盤)のLPは、どれも盤質が異常に悪かったことしか記憶がありません。LP時代、わけのわからん「Mahler 全集」(MurryHill?)でも所有していました。(記憶ほとんどなし)
ドイツの人だから「シュヴァルツ」と読むのが正しいかな、と思っていましたが、ジャケットには「SIR RUDOLF SCHWARZ」となっているので、英語読みとしました。解説を読んで初めて知りましたが、ユダヤ系の人のようで、第2次世界大戦中は苦労した様子。戦後はイギリスで活躍したそうです。(ボートンの先生にあたる。演奏の感じが似てます)
「史上初、この曲におけるステレオ録音」なんだそうです。「1.5インチ・3トラック・マグネティック・テープによる録音」(こりゃ、なんなの?)とのことで音質もの凄く良好。奥行きと広がり、適度な残響も美しい。定位がはっとするくらい明快。重低音も凄い。艶もある。1959年当時で、こんな録音ができるんなら、いったい技術は進歩しているのか疑問に思う今日この頃。
ひとつひとつの旋律を明快に、豊満に、タップリ歌ってくれる、こんな演奏滅多にありません。遅いテンポ、じっくり腰を割って、これでもかっ、というくらい瑞々しく念を押した表現。オーケストラは上質で、もしかして現在よりずっと上かも。どのパートも色気充満で、極限に美しい。アンサンブルもこれ以上ない水準。(クリップスのBeethoven ね、あれも同時期のLSO。名人の集まり)
濃厚ではあるが、くどい表現ではありません。恣意的なテンポの揺れはそうないんです。第1楽章の悠然たる歩みはもちろんのこと、第2楽章でもじっくり構えて、スケールが大きい。呼吸が深い。ぜったい急がない。リキまない。うるさくならない。念入りな表現は、聴いていて切なくなるほど。
第3楽章の牧歌的な味わいも出色。優雅で華やかなワルツなんです。ホルンが悠然と響いて、各パートに引き継がれます。本当に上手い。有名な「アダージエット」は、このような表現には相性が良いように思えるが、意外なほどサッパリと流して、むしろ爽やか。練り上げられた弦は鮮やか。
終楽章。ふたたび悠然とした歩みに戻って、しっかりとした足取りとなります。肩の力が抜けて、一見大人しい幕切れ。しかし気持ちよく、味わい深い。いつしか怒濤の終幕を迎えます。
この度、再聴してトコトン打ちのめされました。この演奏、もしかしたら今まで聴いたウチのベストかも。(ここのところ、歴史的録音ばかり聴いていたから、その反動かも) まだ1950年代で、Mahler 受容が進んでいなかった時期であったとは驚き。あまり出回らないCDなので、見かけたら買ってみて下さい。(2000年12月30日再聴。改訂)
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