Beethoven ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」
(カール・シューリヒト/スイス・イタリア語放送管弦楽団/バックハウス(p)1961年)


ERMITAGE  ERM144-2
Beethoven

ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」

バックハウス(p)

Mozart

交響曲第40番ト短調K550

Mendelssohn

「フィンガルの洞窟」作品26

シューリヒト/スイス・イタリア語放送管弦楽団 

ERMITAGE ERM144-2 1961年ルガーノ・ライヴ  $2.99(AURAレーベルで再発済)
「皇帝」はVIRTUOSO 94005 /3   5枚組1,990円にも収録
Mozart はVIRTUOSO 94008 /2  4枚組1,790円にも収録

 2002〜3年怒濤の如く再発売された、シューリヒト関係のCDでダブった音源を再聴。「Beethoven は苦手」という罰当たりなワタシだけれど、交響曲よりもいっそうピアノ協奏曲が苦手なのが正直なところ。売り払ったCDも再々ではない経験。そのなかでも「皇帝」は、押しつけがましい勇壮さがいけません。全国多数のBEE派の皆様、もうしわけない。

 でもね、なんかこの演奏、数年ぶりに聴いて胸にど〜んと来ました。VIRTUOSO盤は、原盤関係が怪しいけどERMITAGE(AURA)盤より音質は聴きやすい。下の数年前の文書の評価にに、そう違和感はないけれど、いくつか蛇足を・・・・・まず、「オーケストラの響きが洗練されていませんし、録音もあまりよくありません」〜その通りかもしれないが、問題になるほどのオーケストラ、録音ではない。これはコンサートホール・レコーディングスを再聴すると、改めて感じることです。文句ない。

 バックハウスには一種、重厚すぎの威圧感という先入観(というか、数回録音で聴いた印象)があったし、曲も苦手でしょ?でもシューリヒトだし、Mozart も聴きたかったし、で、購入したCDと記憶しております。シューリヒトは、かなりテンポを動かしたり、ふだん聴き慣れない個性的な音の動かし方をしても、音楽の流れを損なわない人ですね。常に重すぎない、全体の響きがダンゴにならなくて、すっきりとした印象もある。

 で、推進力というか、テンションが桁違い、ここではライヴだからいっそうそれを感じさせます。録音状態はあまりヨロしくないものが多いから、気付きにくいけど、細部のニュアンスの入念には感心します。コレ、なんども聴くと少しずつ理解できました。で、結果、バックハウスがリリカルに聞こえます。

 「鍵盤の獅子王」(嗚呼、時代遅れの陳腐な表現!)に間違いはないが、もっと新鮮で瑞々しい喜びに溢れます。ソロは燃えるような怒濤の勢いと、思わぬ大見得も頻出するが、シューリヒトとの個性が前面に出ているのか、「いかにも」風・「貫禄系鎮座まします」演奏とならずに、ひたすら全速力で走る、額に汗と笑顔を浮かべながら、とった風情か。

 終楽章ロンドのノリ。手に汗握る〜というより、聴き手のカラダを存分に揺らせます。時に、憎いテンポの揺れがピタリ決まってドキドキ。馬力あるエンジンが高速すっ飛ばしても、というんじゃないんだな。もっと、天衣無縫系でリキミがないんです。スピードの上げかた、坂の上りかたもムリがなくて、すいす〜いてな感じ。

 Mozart のト短調交響曲は、パリ・オペラ座管より落ち着きも、幅広さも、表情も、指揮者の個性がいっそう出ていると思います。「フィンガル」は終盤に掛けて、アクセルを踏むのがよくわかって拍手も盛大。(2003年4月25日)以下、おそらく1998年〜1999年頃の文書(または改訂)そのまま。(恥ずかしい)

 


 「皇帝」との出会いは、たしかセラフィム1000シリーズでのアラウ盤?2楽章のアダージョは中学校の卒業式に使われていたなぁ。べつに集めるつもりはないけれど8種類目。好きな曲じゃありません。

 ワタシの世代だとバックハウスのベートーヴェンは定番中の定番で、天の邪鬼の私はずっと敬遠していました。このCDはシューリヒト目当てで買ったもの。聴き進めるウチに「これはエライ録音にぶち当たってしまった」ことに気づくワタシ。

 音質はERMITAGEらしく良心的で、聴き疲れするやや刺激的なものながら、優秀なモノラル録音。但し「聴き疲れ」するのは音質のことばかりではなく、音楽そのものに要因もあります。スイス・イタリア語放送管は、やや粗っぽくて音も濁りがちですが、シューリヒトのオーケストラは熱く豪快。

 しかし、バックハウスのピアノはもっと凄くて、華やかで燃えるようなテンションの高さ。男性的で、豪快なテクニック、圧倒的な力で押し寄せてくる迫力。ライヴの熱気を堪能させてくれる「皇帝」で、おしつけがましい勇壮な旋律にも思わず納得の快演。

 その昔「鍵盤の獅子王」というクサい宣伝文句がありましたが、あながち的外れではないかも。これなら有名なイッセルシュテットとの協奏曲も買ってもいいかな、と一瞬考えてしまいました。

 シューリヒト得意のモーツァルトがまた凄い。パリ・オペラ座管との40番もなかなか飄々としていい味出してましたけど、ここではうんと厳しくて、オーケストラをゴリゴリ鳴らしてド迫力。オーケストラの粗さも良い方向に作用してるのか。

 フレージングが清潔なのはいつも通りなのですが、低音の力強さとノリ、勢いが尋常ではありません。この曲が本来持っている、美しくも悲劇的な旋律がよく表現された演奏。シューリヒトはテンポも揺らせて濃厚です。この人のライヴは要注意。

 メンデルスゾーンは、シューリヒトはなんども録音している得意な曲。
 表情はすこぶる豊かで、劇的な表現となっています。モーツァルトより更にテンポは揺れており、しみじみとした歌も効果抜群。ラストにむかっての盛り上がりもモウレツな迫力。ちょっとこの曲を見直してしまいました。

 オーケストラの響きが洗練されていませんし、録音もあまりよくありません。ライヴの熱気に煽られて、いつもいつも聴けるCDではありません。でも、根性を出して集中してみてください。


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written by wabisuke hayashi