Schubert ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調D960
(シュナーベル)
Schubert
ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調D960(1939年録音)
ピアノ・ソナタ第20番 イ長調D959(1937年録音)
シュナーベル(p)
HISTORY 20.3159-306 40枚組5,990円で買ったウチの一枚
同上
DANTE HPC 135-138 4枚組1,600円で買ったウチの一枚
「歴史的録音」はときどきセットものが極端に安いので、あまり興味のない演奏家や、まったく聴いたことのない名前が入っていても買います。でも、上記40枚組となると、なかなか消化できない。いちおう既存手持ちとのダブリの点検はしたつもりだけれど、ある日再点検していると、また出てきました。
でもこれ、「既存手持ちとのダブリ」ではなくて、DANTEの4枚組はあとに買っている。(なおさら悪い)Schubert のピアノ・ソナタは大好きで(Beethoven より好き)、シュナーベルの演奏も大いに期待したいところ。DANTE盤の音は奥行きが足りなくて乾き気味。HISTORY盤は、まだマシです。
変ロ長調ソナタは、交響曲第9番ハ長調とソックリだと思うのです。息長く、延々と続く美しくもしつこい、ノンビリとした旋律。この曲、昔から大好きで、(シュナーベルさんには悪いが)正直どんな演奏でもかまわない。というか、そんなに多くの種類を聴いていなくて、どれもハズレがなかったのかも。この曲を聴いていると、気持ちよく眠くなりますね。
LP時代、スコダの演奏(おそらく旧録音)で初めて出会いました。他の曲と組み合わせてあって、第2楽章は裏面になったので、知らずにそこから聴いていました。これが、ポツリポツリと寂しげな雨だれのようであり、夕暮れ迫る田舎道をトボトボと足取り重く歩んでいる、中年男の背中が見えるような名旋律。
これ第1楽章もよく似ていて、音もなく(というのも変な表現だけれど)清水がこんこんと湧き出るように歌が溢れて、これは平安な気分なんです。Schubert のポイントは「溢れる歌」。形式や全体の構成はともかくとして、メロディが止められない、停まらない、もうどんどん増殖してキリがない。このやや冗漫な繰り返しの世界に、ハマりこめるのか勝負の分かれ目。
第3楽章は軽快なスケルツォで、ようやく鬱陶しい長雨が止んで、晴れ間が覗いたような爽やかさ。終楽章の躍動感は幸せいっぱいです。全37分ほど、聴き通すにはそうとうな難物か。「どんな演奏でも」と言ったが、これ、きっとそうとう立派な演奏なんでしょう。骨太で、説得力充分。「音は奥行きが足りなくて乾き気味」と言ったが、SP復刻ながら、そう悪い音でもないんです。ちゃんと「芯」がある。
イ長調ソナタのほうは第1楽章が快活で、前向きに生きる活力が感じられます。「夕暮れ迫る田舎道をトボトボと足取り重く歩んでいる、中年男の背中」は、こちらの第2楽章アンダンテのほうがピッタリ来るかも知れません。軽快で繊細なスケルツォは、変ロ長調ソナタとよく似ていました。
終楽章は、親しげで歌謡的な旋律が歌曲そのもので、誰でも一発で好きになる変奏曲。両曲合わせて70分を越える長丁場、ウトウトしながら聴くのも悪くないが、Schubert の「歌」を存分に楽しみましょう。演奏云々はようわからんが、細部まで明快で、気品を感じさせる美しさでした。激高せず、感興に溢れていました。(2001年8月10日)
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